二宮 田村さんが権威あるバロンドール(世界年間最優秀選手賞)の選考委員を務めるようになったのはいつですか?
田村 投票権が世界に拡大された2007年のタイミング。フランス・フットボール誌から「アジアの国のジャーナリストを探してほしい」と頼まれたこともあります。たとえばモンゴルは、相撲関係者から現地のスポーツコメンテーターにたどり着いて選考委員になってもらったりとかね。
二宮 その国にいる外国人ジャーナリストではダメなんでしたっけ。
田村 規定としてはその国の国籍を持ち、ちゃんと住んでいないとダメなんだよね。
二宮 本の内容に戻りますと、2018年のロシアワールドカップを前に契約解除となったヴァイド・ハリルホジッチ監督についても触れています。フランス語を使うフィリップ・トルシエ、イビチャ・オシムの両監督とは確固たる信頼関係を築いていったなかで、同じくフランス語を使うハリルホジッチ監督とは「距離を詰められなかった」と記しています。
田村 ヴァイドはトルシエやオシムのようにオープンな性格じゃなくて、自分としてもどう距離を詰めていけばいいか分からなかった。ああいう辞め方になってしまったのを見るにつけても、自分が何かしらサポートできたんじゃないかっていう思いがあったから正直にそう書かせてもらった。彼自身は、(日本サッカー協会から)正しく評価されていると思っていたはず。そのギャップを、誰か近くにいる人が言えたら良かったんだけど、サポートしていた霜田(正浩)さんも代表チームから離れてしまって孤立していたところがあったんじゃないかな、と。今でもヴァイドについては心残りのところがあるよ。
田村修一さんは著書のなかでハリルホジッチ監督とは「距離を詰められなかった」と記しています
二宮 ハリルホジッチ監督とは強い関係性を築けなかった心残りはあるとせよ、エメ・ジャケ、アーセン・ヴェンゲル、トルシエ、オシムらと信頼関係を築けたことは凄いと思います。その関係づくりにおいて田村さんが大切にしていたことは何ですか?
田村 正直であることかな。虚勢を張らない、嘘をつかない。そこが大事なような気がします。そして自分を隠さないこと。
二宮 もう少し具体的に教えてください。
田村 正直に話すというのは、フランス人の特徴でもあるんだよね。プライベートのことも全然隠さずにオープンにするから、何でも話せる関係になる。だから僕も日本人相手には話さないことも、何でも話しますよ。お互いに何でも話せるような関係性なら、相手も「コイツは話せるヤツだな」と思うから。
二宮 相手がオープンなのに、自分がオープンじゃないと信頼されないということもあるんでしょうね。だから自分の意見もしっかり伝える。
田村 まさにそうだね。
二宮 オシムさんとのインタビュー記事を読んでも、田村さんは最初に「体調はどうです?」とか、オシムさんも「今、日本はどうだ?」とか会話の最初に近況報告があったりして、僕は好きなんですよね。
田村 フランス・フットボール誌にしてもレキップ紙にしても、人間的な部分やサッカーとは直接関係ないことにも触れていて、サッカーの世界に広がりを持たせていくことが大事なんじゃないかって僕は思うから。
二宮 ピッチ上のことだけ切り取るんじゃなくて、オシムさんが日本を気にしてくれていたり、逆に田村さんの体調を気遣ったりして、人間性のいろんな面が見えてきますからね。僕も書き手の一人としてそこは意識しています。田村さんの原稿を読んで、やっぱりそうだよなって思いますもん。
田村 うん、そこはこれからも意識していこうとは思っている。

二宮 田村さんの取材史でもある「凛凛烈烈 日本サッカーの30年~人は、プレーは成熟したのか」の執筆を通じて、何か感じたことはありますか?
田村 サッカーファンから始まって、サッカーのジャーナリストになって(サッカーとの)距離がどんどん近づいていった。最初は天国だと思いましたよ。だって好きなものを見て、好きなように書いて、それで報酬をもらえるんだから。自分もこの30年、いろんな人に出会ってジャーナリストとして成熟していくんだけど、同様に日本サッカーも成熟していった。執筆を通して、その過程を重ねられたことは自分としても有意義な作業だったかなと思いますね。
二宮 副題にある「人は、プレーは成熟したのか」、田村さんなりの答えはどうなんですか?
田村 成熟したとは感じています。もちろんロシアワールドカップで2点差をひっくり返されたベルギー戦を見ても、ナイーブな面はある。とはいえ30年前と今では全然違っていて、まったく別の世界が広がっている。それは選手、スタッフ、関係者だけでなく、ファン、サポーターや我々メディアも含めて情熱を持ってサッカーに関わってきたからだと僕は思っている。そのこともこの本から伝わればいいのかな、と。
二宮 田村さんを含めてライターの先輩たちの情熱が、凄く伝わってきました。では最後に、田村さんがこれからやっていきたいこと、書きたいことを教えていただければ。
田村 前から構想にあるんだけど、一つはバロンドールについて一冊の本にしてまとめたい。ここは自分しか取材してきていないので。ほかにはクラブマネジメントのこと、そしてもう一つは今回の「凛凛烈烈 日本サッカーの30年」では書き切れなかったことがまだまだたくさんあるので〝完全版〟にしたいという思いもあります。
二宮 オシムさんのことはあまり書かれていないので、確かにまだまだいっぱい書くことはあるんだろうなとは思いました。いつか〝完全版〟が出ることを楽しみにしています。本日はありがとうございました。
(終わり)
※撮影時のみマスクを外しています。
2022年2月公開








