初めて二宮さんと出会ったのは、今から10年前のこと。
私が早稲田大学の大学院を卒業し、新卒として電通へ入社した年でもありました。配属されたのはスポーツ局という部署で、日本サッカー協会(JFA)の担当として主管試合のプロモーションから運営に従事しておりました。
元々スポーツが好きな私。広告が別に好きだったわけじゃないのに広告会社へ入社したのも、この部署で働きたかったから。つまり入社から配属まですべて念願叶った、最高の道を歩んでいたわけです(翌年にすぐ異動となりましたが)
とはいえ新入社員に任せてもらえる仕事なんてたかが知れています。JFAへ書類をダッシュで届けたり、社内のクライアント担当に資料を届けたり、チケットをテレビ局へ持っていったり、もうそんなレベルです。
一見華やかそうに見える世界もこんな裏側なのか、と思いながらもやりがいを感じて働いていたある時のこと。先輩からビッグチャンスを頂きます。それが、当時の代表チーム監督だったアルベルト・ザッケローニさんのインタビュー立ち会いのお仕事。代表戦の会場で販売するプログラムのメインコンテンツであり、新入社員の私にとっては初といっても過言ではない華やかな裏側。期待に胸を膨らませて、JFAオフィスへ行きました。
そう、そのインタビューをしていたのが、二宮さんだったのです。
そこで初めて名刺を交換したのでした。僕はもちろん二宮さんの記事はたくさん読んでいたのでその頃から知っており、心の中ではガッツポーズしていました。二宮さんは覚えていないかもしれませんが。
そこから、まだ電通で働いていた外池大亮さん(現 早稲田大学ア式蹴球部監督)や波戸康広さん(横浜F・マリノスアンバサダー)とのお仕事を通じて再会し、やっと存在を認識してもらえるレベルになり、今ではこうして共にメディアを立ち上げることになりました。
尊敬する人であり、仕事のパートナーでもある、そんな存在。
そんな二宮さんの著書『ベイスターズ再建録』の記事の話が出た時には、すぐにインタビュアーの立候補をしたのでした。
これは僕にとって、ちょっとしたチャレンジ。初めて会ったのがインタビューのときで、10年越しにその人へ今度は自分がインタビューするわけですから。それはもう自分の取材よりもはるかに張り切りました。
本書『ベイスターズ再建録』、本当に素晴らしい一冊だと思います。選手ではなく、球団職員が主役となり、彼らだからこそ持つストーリーがそこで紡がれています。読み手を決して飽きさせない構成・書き方は、また記事とは異なる二宮さんのテクニックが込められています。
サッカーやボクシングの印象が強い二宮さんが、自分なりの決意を込めてチャレンジした野球という領域。人単位では過去にもありますが、長編として野球にフォーカスした書籍は初めてのことでした。でも、どれだけ競技が変わろうと、二宮さんが見つけた様々な「ストーリー」を読むということは変わりません。僕たちに伝えたいこと、それがどんなテーマでもしっかりと心に入ってくる。それが、この人の凄さだと僕は思っています。
「スポーツに関わる人たちの“物語”を自分で見つけていきたい」
二宮さんがインタビューの最後に話した、この言葉は特に鮮烈に残っています。例えば横浜F・マリノスに寄稿している『まりびと』もそう。華やかなチーム、スター選手にフォーカスするのではありません。その光を影で支える裏方の物語を見つけて、書いています。
「光あるところに影あり」
ではなく
「影あってこそ光あり」
これもまた、ある種光を作ることではないでしょうか。二宮さんがフォーカスした人の物語が世の中に知られ、その人に光を感じてまた影に人が集まる。それもまたスポーツとジャーナリズムの素敵な関係になるのかなと、この先の未来に思いを馳せています。
次の本が出たときも、インタビュー立候補したいと思います。
二宮さん、よろしくおねがいします!
2021年6月公開