――今回は20人以上の職員にクローズアップしていますが、何回も取材はされたんでしょうか?一人一回でもかなりのボリュームですが。
何人かの球団職員の方には2回いきましたが、後は全部1回ですね。もちろんできるなら何度も話は聞きたいところでしたけど、(取材の)テープを起こすのも大変ですし。手を広げすぎると自分の首を締めちゃうと思っていました(笑)
――確かに(笑) ただそう考えたとしても昨年8月から取材スタートして、今年の6月に発売というスピード感はすごいですね。
DeNAベイスターズが今年で10周年でしたから、向こうとしても「早く(本を)出したい」という思いがありました。なので期限をある程度決めて取材も動かなければいけなかったので、一人一回という取材ペースでもいっぱいいっぱいだったんですよ。正直もっと話を聞きたかったのが本音です。
――それもまた今回のチャレンジが生んだものですよね。1回目があったからこそ生まれる2回目もあるんじゃないでしょうか。
ほんとその通り!取材の技術にもつながるんですけど、1回目よりも2回目のほうがインタビューって深くなったりするもので。実際今回の取材を通じて、もっと野球の取材をしたいという想いが強くなりました。
――また次回の楽しみが増えました。ちなみに取材にあたっては、人だけじゃなく例えばスタジアムなど実際に足を運んだりもしたのでしょうか?
もちろん行きました。スタジアムに行って野球を観るだけじゃなくて、周りを歩くことは結構やりましたね。コロナ禍だったこともあり何回も足を運ぶことは出来なかったので、行ったときにできる限り時間を使って見るようにしていたんです。
――月並みな質問ですけど、同じ横浜に籍を置くJリーグ・チーム横浜・F・マリノスのスタジアム体験とハマスタを比較して感じた違いなどはありましたか?
結構印象深かったのは、野球を観ていない人が結構いたことですね。その場にいるということが、一種の愉しみのようになっているなと。サッカーは前半後半と分かれてて、その間は釘付けになりますよね。でも野球はイニングことにゲームが止まるから、ファンの活動量が多いというか、”散歩率”が高いというか。その分ハマスタには食べる場所がいっぱいあったり、グッズがいっぱい買える場所があったりして、歩いている間に「バーーーン!」って聞こえてきて覗きに戻ったら誰かがホームラン売ってたりするんですね。そこはサッカーと比べて大きな違いなんじゃないかな。
――取材の話が続きましたが、ここからはネタバレにならない程度で本書の内容にも触れたいと思います。基本的に二宮さんがそれぞれの人のストーリーを書き下ろす形式ですが、後半の進藤達哉さんと高田繁さんだけ引用節が多かったですよね。ここはどのような意図があったのでしょうか?
実はこれ、僕がよく使う手法なんですよ。目先を変えたいというのと、読んでいく中でメリハリを付けたいという狙いがあるんです。それに進藤さんも高田さんも元選手ですしベイスターズへの想いも強かったので、ここは一問一答形式にしたほうがファンの方もよろこんでくれるんじゃないかなということもありました。
――まんまとその意図にハマってしまいました。しかも高田さんの場合は、その前に三原さん(三原一晃:球団代表)との掛け合いがあったじゃないですか。そこでは二宮さんの言葉で語られていたからこそ、その後の高田さん本人の言葉でまた別の面から読めたのが本当にしびれました。
そこはちゃんと狙って書きましたよ(笑) 実は、高田さんへの取材は最後の方だったんです。その時はもう8章立てで書くと決めていたので、どこのパートで使おうかなと考えていました。中畑さんみたいに全体に分散させて書く形もあったんですけど、高田さんは“アンサー”の役割にしたいなと。ここまで書いてきたことに答えてくれるような役ですね。しっかり中で締めてもらうイメージでした。
――それもまた本ならではの構成テクニックなんでしょうね。二宮さんにとって、記事を書くことと本を書くことの決定的な違いはどんなところでしょうか?
本って、原稿用紙でいうと300枚くらい書くんです。一方記事だと、例えば僕が『Number』で書いていた頃は原稿用紙20枚でも長いっていうものだったんです。いざ20枚を書くとなると、取材対象のことをちゃんと調べなきゃいけないし、構成力や語彙力も必要です。そこで僕は一回鍛えられましたね。そこで言われたのが、「本を書くとまた違う世界が見えてくる」ってこと。原稿用紙300枚で一つの作品を書くということは、構成力や語彙力はもちろん、どうやったら読んでもらえるのかということを考えないといけないんです。本を書くことも定期的にやらないと、書き手としては鍛えられないと思います。
――「違い」という点では、今回がコロナ禍で初めて手掛けた書籍だったと思います。これまでと比べた違い・変化・難しさなどはありましたか?
コロナになって書いたということは、やっぱり難しさがありました。余計なことを考えちゃうんですよね。
――「余計なこと」とは?
(コロナ禍になってから)基本的にはずっと家で仕事をするじゃないですか。それまでは外に出て取材していたり、話を聞いたりしていたことができなくなった。これは大きかったです。今回もそう、例えばベイスターズのことをよく知っている僕の周りの記者さんとか、そういう「間接取材」が出来なかったんですよね。
――なるほど。つまり取材のための前取材のようなものですね。
そう。普通はそれ(前取材)があって記事や本を書くから、疑問も考えなくて済んだんです。聞いたらすぐ教えてもらうことができたし、取材でぶつけてみたいことがすぐに見つかりました。コロナ禍だと人と中々会えないし、かと言って電話一本で聞くのも失礼だから、我慢したことは結構あったんです。だから、自分でいろいろなこと、余計なことまで考えることが多くなったということでした。
――たくさん質問してしまいましたが、そろそろクロージングにしましょう。数々の苦労があった中で書き上げた本作ですが、発売を迎えて振り返るとどんなお気持ちでしょうか
今回は球団職員の方をテーマに書いた作品なんです。イメージで言うと(テレビ番組の)『プロジェクトX』みたいな。今までは監督とか選手に取材することが多かったので、正直なところ取材する前は「(この企画は)引きがあるのかな」と少し不安に思っていました。でもいざ取材してみると、ひとりひとりにちゃんと“物語”があったんです。そして「これは面白いものが書けるんじゃないか」という気持ちに変わりました。あとは自分がそれをどう組み上げていくかだなと。
――またこうした話を聞いてから本書を読むと違った発見ができそうですね。最後は、この『ベイスターズ再建録』を読んでほしい皆様へ熱いメッセージをお願いします。
やっぱり「スポーツっていいな」と思ってほしいですね。コロナ禍でスポーツを気軽に観ることができなくなって、STAY HOMEでの観戦も増えて。そんな中で、今回取材した人たちってみんなスポーツが好きなんです。野球を愛して、ベイスターズを愛して、地域を愛してる。だからこの本を通じて、「スポーツに関わってみたいな」とか「こんな人達と一緒に働いてみたいな」とも思ってもらえたら。これはノンフィクション本でもあるので、若いビジネスマンの方にも読んでほしいなというメッセージも込めてます。
SPOALの本棚 特別編 『ベイスターズ再建録』著者 二宮寿朗インタビュー 終わり
2021年6月公開