既に一足目に心を奪われている様子の三宅さんのもとへ、二足目がやってきた。
今度のスニーカーもまたNIKEで、【AIR ZOOM TYPE(エアズームタイプ)】というモデルだ。昨今の陸上界を席巻した最速ランニングシューズの最新作、【AIR ZOOM ALPHAFLY NEXT%(エアズームアルファフライ ネクスト%)】のDNAを日常使いに引き継いだ一足。フォアフットには2つのズームエアポッドが内蔵され、ミッドソールにはTPUプレートを配備、2層に連なるソールが足元に新しい感覚をもたらしてくれるのが特徴である。
機能性と実用性が融合した本作は、まさにアスリートにうってつけの一足だ。三宅さんの反応やいかに。
「あーっ、なにこれ!すげえ!」
出た、今日イチのリアクション。
日頃クールな印象の三宅さんなので、これは大きな驚きだった。
「これはNIKEからも、”6時間履いても疲れない”というキャッチコピーが付いているんです。硬めの履き心地が好きなら1足目に履いたズームダブルスタックド、柔らかい履き心地が好きなら今履いているズームタイプがおすすめですね」
ここで小島さんが的確なセールスポイントと比較ポイントを教えてくれた。こうしてそれぞれのメリットを知ることで、三宅さんも選びやすくなりそうだ。
何よりもこのモデルの一番の特徴は、推定5cmほどあるソールだ。しかもそれがとにかくフワフワで、一歩一歩踏みしめるたびにその気持ちよさを感じることができる。
「試しにかかとから歩いてみてください、驚きますよ」
という小島さんの助言に沿って歩いた三宅さんが大きな声を上げた。
完全にズームタイプに魅了されたようだ。
先程履いたズームダブルスタックドと比べると、見た目もよりカジュアルな印象だ。機能性だけではなく、しっかりとファッション性・日常性も兼ね備えている。
実はこうしたパフォーマンスと日常性を両立したモデルが、いま立て続けにリリースされている。それはもちろん、今年東京で開催されるはずだったあの大きな祭典に向けたものなのであった。
「TOKYO」へ向け進化するスニーカー
世界の祭典オリンピックは、スポーツメーカーにとっても大きなモーメントだ。これまでも開催年ごとに、各社の最新技術を使ったモデルが作られては華々しくリリースされてきた。
「エアズームタイプのようなパフォーマンスモデルからインスパイアされた街履き用のモデルは、オリンピック前後のタイミングでロンチされる予定だったんです。NIKEのランナーがパフォーマンスモデルを履いて走って、それと同時に(街履き用が)発売されるという流れだったんですけどね。」
と小島さんは語る。
これもまた、6月~7月のスニーカーリリース量が多かった理由のひとつである。本来は東京オリンピック期間中に出ているはずだったモデルと思って店頭に並ぶスニーカーを手に取るのも、ある意味で今しかできない貴重な体験だ。
「”戦争がファッションを進化させる”って言われますけど、スポーツもこうやってファッションを進化させていくんですね」
と、三宅さんが返す。
とにかくNIKEはマーケティングが上手い。東京オリンピックが開催予定だったこの2020年、その戦いは年始から始まっていたのだった。
そう、皆様の記憶にもまだ残っているであろう、箱根駅伝だ。大半のランナーがNIKEの新作モデルを履いて走っていたあの光景は、衝撃だった。
「技術的にはどのメーカーもそれぞれ良いものを出しているんです。でもNIKEがうまいのはその”魅せ方”ですね。箱根駅伝では、最新技術を使ったモデルのカラーリングが派手なピンク色でした。そうやって刷り込みができますし、勝つのを見越したのか渋谷駅もピンクになっていましたよね。話題を一気にさらっていきました。」
そう小島さんも語るように、箱根駅伝では大きな話題になったNIKE。そしてその流れをさらに大きなものとしたのが、3月1日に行われた東京マラソンだった。
NIKEの契約ランナーである大迫傑選手が、2時間5分29秒の日本新記録を樹立する走りで見事優勝。その後東京五輪・男子マラソン代表の最後の1枠を勝ち取ったのだ。その足元には、もちろんNIKEの最新モデルがあった。黒のアッパーにライムグリーンのソールというインパクト満点のデザインは大迫選手が勝ち取った最高の結果とともにクローズアップされ、みんなの憧れのモデルとなった。
今日三宅さんが試着した二足は、そんな系譜を受け継いだNIKEのモデルなのである。まさに東京を駆けるスニーカーだった。
ショッピングもいよいよ終盤に。
さて、ショッピングへ話を戻そう。
三宅さんは、試着しながら嬉しそうに歩き回っている。
「僕はそこまでこだわりの強いタイプではないんですけど、このエアズームタイプはオフの日が楽しくなりそうですよね。さっき履いたズームダブルスタックドは逆にオン(練習)の日には最適かなと思います。でもなんか『走んなきゃいけない』みたいなテンションになっちゃいそうです」
それはそれで良さそうな気がするのだが、実は三宅さんは走るのが好きではないと言う。
「人生で5km以上走ったことがないんですよ、僕。フェンシングができただけの話で、スポーツはそうでもないんです。泳げないし、走れないし、ボールもうまく投げられないし。」
と屈託のない笑顔で言い切る三宅さん。
「でもアスリートって結構そういうものだと思いますよ。スポーツ全般ができるんじゃなくて、その競技のスペシャリストであって。全般できる人は、きっとオリンピック選手にはならないんじゃないですかね。色んなことができてしまうから」
メダリストの言葉は、かくも重いものである。
残る時間で三宅さんは店内をくまなく散策し、アパレルもチェック。ちょうど格闘家の宇野薫さんとのコラボレーションシリーズが置いてあり、三宅さんも興味深く手に取っていた。
そしていよいよその時がやってきた。
「じゃあ、これ買おうかな」
三宅さんが選んだのは、やはり二足目に試着したエアズームタイプだった。東京オリンピック代表の座を勝ち取った大迫傑選手を支えたNIKEのテクノロジーが、形を変えて三宅選手の足元へ。
まもなく練習が再開となり、いよいよ来年へ向けて本格始動する三宅さんにピッタリな一足であった。
これでまた駆けよう、東京へ!
2020年7月掲載