「まさか死体を横取りする気じゃねえだろうな」
皆さんご存知、“ホラーの帝王”スティーブン・キング原作の映画「スタンド・バイ・ミー」(1986年)、
主人公の少年達の敵役、街の不良グループのリーダー、エース・メリルの一言。
エース役であるキーファー・サザーランド。
「24-twenty four-」のジャック・バウアー役と言ったほうがおわかりになる方、多いのではないでしょうか。
街の不良も時を経て、世界を救うヒーローへと。
そして、主題歌である「Stand by me」のイントロのベースラインは、いつ聞いても胸の奥がザワザワするのは筆者だけでしょうか。
さて、今回は「SPOALの本棚」と言うことで
このまま「スタンド・バイ・ミー」の原作を紹介してもいいのですが、
せっかくなのでスティーブン・キング作でも、ちょっとマニアックな作品を紹介させてください。
「サン・ドッグ」
映画化もされていないこの作品、ご存知の方は少ないのではないかと。
1990年に発表された中編集「Four Past Midnight」に収録されている一編。
キングファンにはおなじみの架空の街、キャッスルロックがその舞台。
主人公のケヴィンは15歳の誕生日に念願のポラロイド・カメラをプレゼントされる。
ところがこのカメラ、撮っても撮っても、巨大な黒い犬の写真しか写らない。
やがて写真の中のその犬は凶暴な姿に変化し、こちらに近づいてくる--。
写真の中のモノが勝手に動き出し、挙句の果てには写真から飛び出し、自分に襲いかかってくる恐怖。
日本版と考えると、「だるまさんが転んだ」+「貞子」といったところでしょうか。
リングの貞子には呪いのビデオという設定がありましたが、
キングの場合は、たいてい普通の物(カメラや車、ときにはホテル全体)が突然、超常的なパワーを持ち、人間達を襲い始めるというのが定番。
パワーを持つことに説明もないし、襲われる理由も書かれません。
この理不尽な脅威が迫るというのもキングならでは。
作中に出てくるポラロイド・カメラが「Sun660」(1982年発売)
オートフラッシュを内蔵したことで、カメラに太陽“SUN”が入った「サンカメラ」との愛称がつけられました。
サンカメラで撮られた写真にドッグが写るから「サン・ドッグ」というタイトル(だと思います)。
筆者所有のSun660。もちろん呪われてはおりません。
この小説を初めて手にしたのは、出版社の写真部に所属していた頃。
読んだのはもちろん自分の意思ですが、「なんでこんな話を思いつくんだよ!」
と作者に毒づいたのを覚えています。
それというのも、
当時在籍の社のスタジオには、出るとか出ないとかの噂がありました。
(たいていの学校や会社には一つや二つこの手の噂はあるものだと)
深夜に一人居残って撮影なんて時に限って、この話を思い出し、
テスト撮影によく使用していたポラロイドフィルムをめくる度に、
「変なモノ写ってないよな!?」と一人、ビビっている時がありました。
「しかし、写真に幽霊が写るのは--いや、人々が幽霊だと主張するものが写るのは、殆ど決まってポラロイド写真の中なんだ。それもほとんど偶然に写るものと決まってる。空飛ぶ円盤だのネス湖の怪物だのの写真は、ほぼ例外なく別の種類の写真だ。どこかの頭のまわるやつが、暗室の中ででっちあげられるたぐいの写真なんだよ。」
ケヴィン少年がカメラについて助言を求めた、街のガラクタ屋の店主、ポップ・メリルのセリフ。
さすがスティーブン・キング。
巷にあふれる、超常現象的な事柄をバッサリ斬ります。
ポラロイド写真に必ず霊が写るのかどうかはわかりませんが、
デジタルカメラの普及に伴い、この手の写真の数も減っているのではと勝手に思っています。
最近、あまり“心霊写真”という言葉を聞きませんよね?
幽霊、霊魂的な世界はまだデジタルへの対応が遅れているのかもしれません。
そして、このポップ・メリルという人物。
作中での最初の登場ではいいお爺さんという感じがしましたが、
こちらなかなかの曲者(ほぼ悪者)で、最終的には悲劇に見舞われてしまいます。
メリルという名前に気づきましたか?
この人は冒頭で紹介した、エース・メリルの叔父さんという設定。
このように、スティーブン・キングの作品、中でもキャッスルロックを舞台にしているものでは
多くの作品がリンクしています。
エースは後にショーシャンク刑務所に収監されたとの記述も!
スティーブン・キングの作品を読んでいない方、是非、キングワールドに足を踏み入れてください!
スポーツ撮影をしていて、「もうちょっとだけボールがこっちだったらベストな写真なのに」
などと、ほぼ毎回自分の未熟さを呪っていましたが、
これからは写真の中に動いてもらうよう念じます。(笑)
2021年3月公開