二宮 Numberは元々、アメリカのスポーツ誌「Sports Illustrated」(スポーツ・イラストレイテッド)を参考に出来た雑誌であって、写真にこだわるっていうのもそこから。実際、スポイラとは提携して、アメリカからスポーツ写真を提供されていました。僕は高校時代から読み始めているので30年以上のファンだけど、とにかく写真やデザインがかっこいいなっていうのがあります。
高須 僕はNumberを読んでスポーツに興味を持ったクチ。1993年のドーハ悲劇を伝える記事とか読んで熱くなりましたけど、やっぱり写真に惹かれました。アウェーだなって思えるザラザラ感の写真がとてもリアルな感じがして鳥肌が立ったというか。まさか自分がスポーツカメラマンになって、Numberに発表できるようになるとは思いませんでしたけど。
二宮 近藤さんは元々、文藝春秋の契約カメラマンとして活躍されていました。Numberに特別な思いってありました?
近藤 それはもちろん。編集部から要請があってスポーツの試合を撮ったとしても、掲載されるかどうかなんて分からない。雑誌に載っていると嬉しいのはもちろんのこと、名誉なんですよね、やっぱり。
高須 たとえばサッカーの日本代表の試合があるとすると、文藝春秋のカメラマンとフリーのカメラマンと多くの人が撮って、編集部に送るわけです。その大量の写真のなかから選ばれるわけですからね。
二宮 自分も編集部にいたけど、写真整理だけで大変。カメラマンごとにサムネイルをつくって、まとめ役の編集部デスクやデザイナーと相談しながらページをつくっていく。ページのコンセプトもあるから、単純にいい写真っていうだけでは難しいところもある。デザイナーがいくつか写真をはめ込んで、いつも悩みながらどの写真にしようか決めていたことを思い出します。
近藤 サッカーの試合の写真で言えば、最初に撮影したのがU-22代表の日韓戦(2003年7月)でした。ほかの社カメ(文藝春秋のカメラマン)の人と一緒に行って、かっこいい写真を撮ってやろうって思ったんですけど、望遠レンズでプレーを全然追えない。サッカーを撮ったこと自体あまりないというところもありましたけど、みんなの出来上がりを見て愕然としました。同じ場所、同じカメラで撮っているのに、ここまで違うのか、と。これじゃいけないなって思わされました。
二宮 サッカーで言えばゴールシーンなど決定的な瞬間というより、雑誌を見る人に分かりやすく伝わるようなプレーとか、選手たちのちょっとした表情とか、工夫した撮影とかNumberっぽい写真ってありますよね?
高須 そもそもフリーという立場なんで、みんなとは違うものを撮らなきゃいけないっていう思いはあります。
近藤 社カメの立場でもそれは同じですよ。ダメだったら使われないわけですから。新聞社のように決定的な場面の写真を求められていないので、やっぱり「人と違う」というのは意識していましたね。それはフリーとなった今も同じです。
二宮 ではお2人にとってNumberで思い入れの強い写真というのを事前に聞いているので、どのような背景があったかをうかがっていければと思います。まず高須さんで言えば、初めて表紙を飾ったのが日本サッカー特集の675号「オシムの選択」(2007年3月29日発売号)。日本代表―ペルー代表戦(横浜国際競技場)における中村俊輔選手のプレー写真でした。Numberで仕事をするようになってすぐだったとか?
高須 そうなんです。2006年まで仕事をしていた別のスポーツ総合誌が廃刊になってしまって、困っていたところにNumberのある編集者の方が声を掛けてくれました。憧れの雑誌だったんでそれはもううれしかったですよ。初めて日本代表戦の写真をNumberに送って、いきなり表紙だったんでビックリしました。
近藤 いい写真。かっこいい。
二宮 フリーキックを切り取った写真ですよね。
高須 実はこの日、フィギュアスケートの世界選手権が東京体育館で行なわれていて、どっちを撮りにいこうか最後まで迷っていたんです。そのため馴染みのカメラマンにバックスタンドのコーナー付近が空いていたら撮影場所として押さえてもらえないかと頼んでいたんです。オシムジャパンになって海外組の俊輔選手と高原(直泰)選手が初めてプレーするっていうトピックもあって、最終的には横浜に行こう、と。それで試合にギリギリ間に合って、俊輔選手のフリーキックがうまく撮れて。直接狙うんじゃなく、味方に合わせるようなキックでした。
近藤 これトリミングしているんですか? レンズは?
高須 いやほぼノートリ(トリミングしていない)。レンズはテレコン(補助レンズのテレコンバーター、このときは焦点距離を1・4倍にしていた)を付けていて、外すかどうか迷っていたんです。付けているとどうしても軸足が切れてしまうから。でもあの人(中村)、相手との駆け引きですぐ蹴ることもあるじゃないですか。だからテレコンを外すと撮れなくなるかもって思って。
近藤 キックを正面から撮るのが一般的だとは思うので、ちょっと珍しいカットだとは思いますね。
二宮 体のひねりも伝わるし、確かに面白いカット。中村選手のオシムジャパンデビューというトピックもあって表紙に選ばれたんでしょうね。
高須 このときニノさん、編集部にいました?
二宮 いや、スポーツ新聞を退社してこの年の4月1日からNumber編集部で働くことになるので、ちょうどその前の号。だから何度も読み直してこの号を使って予習したからすごく覚えていますよ。スポーツ紙時代は編集を担当する整理部記者としても4年近く働いたので、決定的なシーンを求めてしまうクセがありました。でも雑誌は違う。特にNumberは。高須さんの写真を見て、ああNumberっぽいなと学生時代に読みまくっていたころの感覚がよみがえってきました。Numberが求める写真というのを、しっかり勉強しなきゃいけないなって思った記憶があります。でも狙っていたんじゃなく、偶然だったと聞いてちょっと意外だったけど(笑)。
高須 偶然の産物ではありますね。ラッキーでした(笑)。
二宮 僕がNumberの編集者として高須さんと初めて一緒に仕事をしたのが、カメラマンの一枚の作品とタイトルで勝負する「THE SCENE」でしたよね? あれ何号でしたっけ?
高須 覚えていないんですか? ひどいなあ。記念の700号(2008年3月19日号)です。
二宮 ごめん、ごめん。でも内容はしっかり覚えています。水中に飛び込む女性スイマーの足をフォーカスした写真。「人魚の尾びれ」ってタイトルをつけたんですよ。
高須 そうそう。
二宮 あの写真に負けないようにって、1日中タイトルを考えたんだよなあ。
近藤 そんなに(笑)。
二宮 タイトルをつけるのもNumberっぽくなんで難しいんですよ。さあ次は近藤さんの写真を。ちょっとその前に、一度休憩しましょうか。
2020年5月掲載