いよいよこのスニーカー探訪の目的地に到着した。
筆者が、企画のときからふたりを連れて行くと決めていた店である。
その店の名は、askate(アスケート)。
令和初日に原宿の神宮前に誕生した、新進気鋭のスニーカーショップである。今売られているものだけではなく、これまでに発売されたモデルもあり、行くたびに出会いがある場所だ。ふたりにとっても素敵な一足と出会いがありますように、と願いながらエレベーターのボタンを押した。
「す、すげえ…」
狙い通り、開口一番でふたりが完璧なシンクロを見せてくれた。
店内いっぱいに並ぶスニーカーは、今日も人気なものから過去の名作まで揃っており、宝の山のよう。早速店長の奥山さんに挨拶をし、ふたりはそれぞれ店内のスニーカーを物色しはじめた。
「好きなモデルが多すぎて…ここ本当すごいお店ですね!」(森)
そう言って、端から端までスニーカーを見て回る森の顔は嬉しそうだ。最大の懸念とされたサイズ問題(森の足は30cmと大きく在庫が少なめ:第一話参照)だが、奥山さんのお店を手伝う親戚の方が同じサイズという奇跡のおかげで、askateは大きなサイズの仕入れもバッチリと判明。ここで森のスイッチが入り、お買い物モードに突入していく。
しばらくそっとしておいたほうが良さそうなので、夏山の方へ行ってみることに。
彼はナイキのエアマックスが並ぶ一角にいた。どうやら、最初の店(ナイキ原宿)で試着した【NIKE AIRMAX 720】の履き心地が忘れられず、今日はエアマックス系がターゲットのようだ。
「やっぱエアーついてるスニーカーはかっこいいですよね。昔から」(夏山)
ナイキのエアマックス。
1987年に誕生したモデルであるが、その後数々のアップデートを経て、今やたくさんのモデルが作られるナイキの主力ラインナップのひとつである。特に、日本でも1990年代に空前絶後のブームを巻き起こした【エアマックス95】というモデルは未だに人気も根強く、4-5年に一回のペースで再販されては完売を繰り返している。エアマックス95の全盛期、夏山は小学生。あの当時の盛り上がりは、記憶にも残っているという。
ふたりの昔話。
昔懐かしい話になったので、夏山に一番最初に買ったスニーカーを聞いてみた。
「僕はコンバースのオールスターローカットですね。中学生の時に自分で買いました」(夏山)
夏山は、大体10足くらいを大事に履き回すスニーカーライフで、その半分はナイキが占めるという。その話だけ聞くとてっきりナイキかと思ったのだが、帰ってきた答えは意外にもコンバースであった。中学時代は、コンバースを履くことが多かったのだという。そんな話をしていると、森もやってきた。
「すごいわかります、それ。僕にとってもコンバースは思い出があって、中学時代にバスケ部だった時はコンバースのバッシュを履いていました。デニス・ロッドマンが大好きで、当時彼がコンバースと契約していたので好きだったんです。」(森)
森がバスケ部だったことは初耳だったが、なるほど確かにロッドマンが好きでコンバースというのは納得である。
「俺らの中学時代って、コンバース結構流行ってたよね。【ONE STER(ワンスター)】とか、みんな履いてた気がするよ。」(夏山)
「確かにそうだったな。おれも制服には白靴、みたいな規則だったからワンスターに頼ってたわ(笑)」
そうだった、ふたりとも中学時代は大阪に住んでいたのだ。
既にハンドボールを始めていた夏山と、バスケットボール部だった森。決して互いに交わることはなかったが、同じ地で同じ流行に触れていたのだった。
「僕は大阪のアメ村のすぐ近くに住んでいたんです。だからスニーカー屋とか学生時代たくさん行ってましたね。当時母親におねだりして、バッシュを買ってもらったこともありました。アメ村は思い出の場所です。」(森)
「(森がアメ村歩いてると)ギャングの一員みたいだよな」(夏山)
「見た目で言うな(笑)」(森)
お互いが語る、性格とプレースタイルの相関性。
昔話に花を咲かせつつ、ふたりはそれぞれスニーカーを選んでいる。
その探し方は、極めて好対照だ。店内をブラブラと見て回る森と、エアマックスが並ぶ一角でずっと悩む夏山。ふたりの性格なのか、この違いはすごく興味深い。ふたりはハンドボールの競技では同ポジションなのだが、こうした性格はプレースタイルにどう表れるのだろうか。せっかくなので、本人からではなく、お互いを紹介してもらう形で聞いてみた。
「熱いヤツだけど、ガサツだとか、服装が雑だとか。多分チームメイトに夏山のイメージ聞いたらみんなそう答えると思いますが、プレースタイルはぜんぜん違うんです。監督の指示に常に100%でチャレンジして、それを遂行する。ガサツなのは私生活だけです(笑)。あと意外と連絡はマメだったり、そういうのも少しプレースタイルに出ているとも言えますね。」(森)
「森は、選手としてはとにかく基本に忠実なポストプレーヤー。僕は日本で一番の選手だと思っています。でも実は負けん気もすごくあって、練習からバチバチやる男です。自分のスタイルを強く持ってるから、服とかスニーカーもたくさん持っていたりするのかなと。ファッションに関しては、あまり詳しくない自分にいつも色々教えてくれるんです。」(夏山)
内なる冷静さを秘めた熱血漢、夏山。
クールな見た目に熱いハートの、森。
あまりにも好対照な、「冷静と情熱のあいだ」である。文字だけでは伝えることはできないが、どうか写真も注目していただきたい。お互いのことを話すその表情は、まさしくそれである。
実はもう一つ面白いふたりの違いがあった。それは、スニーカーの履き方である。
森は、なんと家に100足以上あり、ナイキだけでなく、アディダスやコンバース、VANSまで幅広いブランドのスニーカーをたくさん買い集めているそうだ。一方夏山は前述の通り、ブランドはナイキが大半を占めており、トータルも10足程度に留め、それらを大事に履き回している。
すこしお分かりいただけたであろうか。
アスリートの性格や、ファッションのスタイル、そしてプレースタイルを聞きながら、その裏に相関関係や因果関係を想像していくことは、意外と面白い発見をくれるものなのである。
気づけば店内に入ってから40分以上も経過していた。あっという間に過ぎてしまったように思えるが、ちゃんとふたりとも気になるモデルをいくつか見つけたようだ。絞ることさえできれば、後は心配ご無用。この店には、運命の一足に出会わせてくれる最高の店長がいる。
充実一途のスニーカー探訪も、いよいよ次回でフィナーレを迎える。
ふたりはいったいどんなモデルを選ぶのだろう。勢いで、筆者もこっそり買ってしまおうか。店長に相談する前に、財布と相談する必要があるが…
2020年1月掲載