私、編集長の二宮が会ってきたのはスポーツライターの木崎伸也さん。年齢は私よりも3つ年下ですが、心から尊敬している同業者の一人です。取材力、原稿力、行動力…仕事はもちろんなんですけど、実直な人間性に惹かれています。
さて木崎さんと言えば、やっぱり本田圭佑選手。2010年の南アフリカワールドカップ以降直撃取材を続け、Numberに掲載してきたインタビュー作品をまとめた「直撃 本田圭佑」も出版されています。
〝チャレンジの人〟本田選手は現役でありながら2018年8月にカンボジア代表の実質的な監督となる「Head of delegation」に就任。そこで木崎さんはカンボジアに飛び、本田選手から思ってもみなかったオファーを受けることになるわけです。
編集長 きょうはじっくりとカンボジアでの話をお聞きしたいですね。今はコロナ禍で活動がストップしている状況なので、日本にずっといる、と。これまでは試合のたびにカンボジアに行っていたから食事に誘っても「今まだカンボジアなんですよ」っていう返事も結構ありましたよね。
木 崎 日本とカンボジアの往復を続けていましたからかなり忙しかったですけど、今は結構時間があるので逆に暇ですね(笑)。
編集長 ヤングアニマルで漫画の原作をやっているでしょ? 敏腕だけど悪名高いサッカー代理人を主人公にした「フットボールアルケミスト」。移籍市場の裏側を見せたり、世界で取材してきたことをいろいろと盛り込んでいる感じがあるなあと思って。
木 崎 あくまでフィクションですけど、取材してきたことがベースにはなっていますよね。
編集長 全然、暇じゃないし(笑)。
木 崎 いやいやカンボジアに行かないだけでやっぱり全然違いますよ。(代表の)活動が再開したら、また往復する生活に戻るとは思います。
編集長 本田〝実質監督〟の初陣となったのが2018年9月の親善試合マレーシア戦でした。このときはメディアの立場でカンボジアに行ったんですよね?
木 崎 もちろん。ただ、チームの中国人ビデオアナリストが合宿中に急用ができて帰ってしまったんです。チームから分析担当者がいなくなって、それで僕のほうに(話がきた)。まあメディアも相手がどんなメンバーで、どんな戦術でというのは分析するじゃないですか。だから似ているところもあるから、やってみようか、と。

編集長 チームの監督は、ライセンスを持っている〝実質コーチ〟のフェリックスさんになるんですよね?
木 崎 アルゼンチン人のフェリックスは本田のパーソナルアシスタントを務めていた人で、英語、日本語、スペイン語が話せるんです。日本でもJFLの佐川印刷でプレーしていた、ヴィッセル神戸の藤本憲明選手とも一緒にプレー経験があるんですよ。
編集長 本田監督がチームビルディングしていくのをフェリックスさんやスタッフが支えるなかで、木崎さんも輪に加わっていく、と。
木 崎 そうです。
編集長 当然、仕事は分析だけじゃないですよね?
木 崎 フェリックスは、僕のことを「コンシリエーリ」だと。
編集長 聞き慣れない言葉ですね。
木 崎 映画「ゴッドファーザー」の世界でマフィアのボスのアドバイザーみたいな立場を意味するイタリアの言葉みたいです。たとえば守備の5秒ルールってあるじゃないですか。
編集長 ボールを奪われたら5秒以内で奪い返せ、と。
木 崎 本田がそれをやりたいというので、僕の立場から「じゃあそのためにはどんな攻撃をするのでしょうか?」などとイチイチ質問するんです。
編集長 ほう。
木 崎 よく取材させてもらっている風間(八宏)さんの請け売りですけど、ちゃんと相手を押し込んでいないとボールは奪い返せないと教えられていたので。つまり守備も攻撃もセットだという考え方からくる質問です。
編集長 なるほど、そうやって本田監督やフェリックスさんがやりたいことに対して、質問をぶつけていったんですね。
木 崎 質問もありますけど、逆に本田からも「この場合、ほかの監督はどうやっているんだ?」というパターンもあるので、ヨーロッパの監督の例とかを出しながら情報を与えるっていう感じです。なんというか、無責任なコンサルタントみたいな(笑)。
2018年10月からはカンボジア代表のスタッフとして正式に就任(写真は木崎伸也さん提供)
編集長 試合当日はメディアで取材を?
木 崎 いやいや、もう完全にスタッフ扱いで。試合当日に本田から「ベンチ入ればいいじゃん」って言われて、そのまま。
編集長 初陣となったマレーシア戦は1-3で逆転負けでした。ビデオアナリストの仕事は今回だけかと思っていたら、正式にスタッフ入りの打診が本人からあったとか。
木 崎 翌10月にもカンボジア代表は親善試合があって、本田から「来月も来てもらえませんか?」と。彼は当時オーストラリアのメルボルン・ヴィクトリーに所属していて、開幕前になるのでカンボジアに行けなくて、「フェリックスをサポートしてやってほしい」と。
編集長 本人からそこまで言われたら、断れないですよね。
木 崎 もうそこは2つ返事でした。
編集長 仕事ぶりが評価されたわけですね。
木 崎 守備の5秒ルールのときのように質問することで頭が整理されるそうです。だから「次もいろいろ質問する役目を担ってほしい」とも言われましたね。
編集長 まさにコンシリエーリ、アドバイザー的な役割ですね。
木 崎 こういう役割って日本のプロ野球にはあるとか?
編集長 今言われてパッと出てくるのは、星野仙一さんが阪神タイガースの監督を務めたときに監督専属広報という立場だった平田勝男さんとか。現在は阪神の二軍監督ですけど、当時はメイジの後輩ということで運転手とかも務めていたようです。ただ、木崎さんのイメージだと上下関係じゃなく、あくまで対等に近い関係性ですよね。
木 崎 ヨーロッパだとたとえば・マンチェスター・シティのジョゼップ・グアルディオラ監督のもとでテクニカルスタッフに入っているのが元水球選手でアトランタ五輪金メダリストのマヌネル・エスティアルテ。彼はスペイン水球界のスターですけど、ペップのアドバイザー的な役割を果たしています。
編集長 お金の話をするのは何ですけど……。
木 崎 報酬ですか? ないです。完全にボランティアです。
編集長 お金じゃないものが、そこにはあるわけですね。
木 崎 取材者として選手に肉薄して描くというのは彼でやったので、次はどういう取材をやればいいんだろうって思っていた時期でした。そうしたら内部に入ってスタッフとしてやれれば、チームを動かすところを体験できるし、本田に対してもまさに特等席で見たり、話を聞いたりできる。サッカーを競技としてやったことがない自分がやっていいのかっていう思いも多少ありましけど、やってみたいという気持ちのほうが上回りましたね。
編集長 じゃあ次回はちょっと苦労話のほうを。
木 崎 はい、ちょっとした〝事件〟が勃発しますので。
カンボジア代表で初めてベンチに入ったマレーシア戦のチームパス。(写真は木崎伸也さん提供)
2020年9月公開







