強さその11.モチベーションが低下しない
──長く防衛する選手はみんなモチベーションとの戦いを口にしていますね。
拳四朗 僕はモチベーションがなくなるとかよく分からないですね。「やっとけばええやん」という感じです。勝っとけばあとからついてくるじゃないですか。
福田 そこもすごいですね。どんな試合でもモチベーションが安定してるというのは。
拳四朗 この前、対戦相手が変わったじゃないですか(※)。1日ぐらいは「くそ~」と思いましたけど、勝てばいいやと思いました。
※昨年12月に予定していたIBF王者フェリックス・アルバラードとの統一戦がアルバラードのけがにより中止に。対戦相手が急きょ変更となった。
福田 タフですね。本当は苦労されてるんでしょうけど、周りから見ると淡々と防衛しているように見える。それが拳四朗選手の不思議な魅力ですよね。相手が強い、試合間隔も短いのに、何事もないように防衛しているように見える。
拳四朗 伝わらないんですかね。
福田 強すぎるんでしょうけど。
拳四朗 細かいですよね。めっちゃ僕の戦い方をすべてを分かって見たら伝わる人には伝わると思うんですけど、ボクシングをあまり知らない人には分かりにくいんでしょうね。
──せっかく素晴らしいボクシングなのに、玄人にしか伝わらないとすればなかなか歯がゆいところですね。
拳四朗 そうなんですよ。一般受けは絶対にしないと思いますもん。派手なわけでもないし。淡々としすぎているというか。
福田 試合は激しい場面もたくさんあるんですけどね。最後の詰めるところとか。最近の試合は特に面白いと思います。手もよく出しますし。クリンチもしないし。
拳四朗 試合の流れは作っていると思います。計算されているボクシングと言えるかもしれません。何度も言いますけどクリンチは意味ないです。
福田 一流同士の試合はクリンチないですよね。バーナード・ホプキンス(※)とか例外もいますけど。ちなみにだれか参考にしているような選手はいますか?
※元ミドル級4団体統一王者、ライト・ヘビー級王者。クリンチが多かった
拳四朗 いないですね。他人の試合を自ら見ようと思わないですし。対戦相手の動画も見ないです。
福田 それも面白いですよね。自分の独自の経験で作ってきたスタイルだけで勝負するという。
拳四朗 自分のスタイルを作るだけですね。トレーナーの加藤さんに動画を見せられることはあります。でも、一人で見ることはないですね。
福田 事前に映像を見て多少でも知っておいたほうがいいとは思わないのですか?
拳四朗 それは加藤さんが練習で見せてくれるので。それに実際にやったら絶対に映像と違いますから。まったく同じではないですから。
徹底したミット打ちで脚を作り上げる
福田 いまはどんな練習をしていますか?
拳四朗 ボクシングの練習は2時間くらい。1時間半のときもあります。無駄な時間が嫌というか。意味なくシャドーしているとか。時間つぶしてるだけやん、みたいな練習は嫌ですね。
福田 いま、練習ってどんどん短くなる傾向にありますよね。
拳四朗 そっちのほうがいいと思いますね。はたから見ていて無駄にサンドバッグ打ってるなあ、とか思うときがあるんです。何も考えてないのかなと。シャドーでもバランスを意識したり、脚を意識したりしないと。サンドバッグはあまり好きじゃないんですけど。
福田 というと?
拳四朗 (心拍数を上げる)サンドバッグダッシュとかは意味あると思いますけど、そうじゃないときは「これ、意味あるのかな?」と思いますね。ミットのほうが断然効率はいいですよね。バッグ打ちは“こなしてるだけ”みたいになりがちですよね。僕もやらなくはないですけど。
福田 サンドバッグは一人ですしね。
拳四朗 バッグ打ちは追い込まれるわけでもないし、自分のペースで楽しく打てるわけじゃないですか。つまりいくらでも楽できる。だからサンドバッグを打っても「自己満?」とか思っちゃいますね。
福田 そういことが分かる、人が手を抜いているとか、無駄に打ち合っているとかが分かるというのは、しっかり自分の考えを持っているからなんでしょうね。
──あの素早いフットワーク、スタミナを生み出しているのはロードワークですか?
拳四朗 ロードワークは普通に走ってるだけですね。ダイエットだと思ってます。フットワークを養うのはミットです。試合前とかは12ラウンドとかやりますね。
福田 それはトレーナーが大変だ。
拳四朗 そうなんですよ。加藤さんのほうが汗かいてますから。僕もミットやるのしんどいけど、加藤さんも息が切れてる。試合に向けて2人でスタミナがついていきます(笑)。
──では最後に福田さんから今後の拳四朗選手に期待するところを教えてください。
福田 一番はご本人も口にしているように防衛記録(V13)ですよね。あとは海外でもやってもらいたいですね。アメリカはファーストネームで呼ぶことが多いですから、自然にケンシロウになります。以前はリングネームが拳四朗で、海外ではファーストネームがシロウ、ファミリーネームがケンになってましたけど、これからはケンシロウです。アニメファンも多いので、ケンシロウから取った名前というと、いろいろな意味でインパクトがあると思いますね。顔もかわいらしいですし。
拳四朗 自分、アメリカとか行ったら何歳に見られるんやろ。
福田 高校生でも通用するんじゃないですか。
拳四朗 日本でも制服着たら高校生で全然いけるって言われるんですけど。(笑)。
福田 そのかわいらしさで攻撃はかなりエグい。そのギャップが受けると思うんですよ。
拳四朗 統一戦も今年はできるんじゃないかと思いますね。メインは防衛回数なんですけど、おまけでベルトがついてきたらやっぱりうれしいですね。海外でもぜひ試合ができたらと思っています!
SOLID 寺地拳四朗×福田直樹対談 終
2020年3月掲載