第一話の「キングオブストリート」藤原ヒロシに続いてクローズアップするのは、ある日本人の女性のブランドが手掛けたスニーカーです。
そのブランドが、『sacai(サカイ)』
ファッションデザイナーの阿部千登勢さんが1999年に立ち上げました。「日常の上に成り立つデザイン」というコンセプトで、そのラインナップはどれも見るものの心を奪います。スタンダードなベースに異なる素材が組み合わせられていたり、ひねりを加えたシルエットになっていたり、とにかくディテールまで確実にこだわりが詰め込まれているのです。
「コレクションを作るうえで、裏切りと安定のバランスをうまく見極めることが、私が『サカイ』でずっと続けている挑戦」という阿部さんの言葉にもある通り、日常の中にある少しの大胆さというのがsacaiの凄み。
これまでも『THE NORTH FACE(ザ・ノース・フェイス)』や藤原ヒロシの『Fragment Design(フラグメントデザイン)』、『UNDERCOVER(アンダーカバー)』など様々なブランドとコラボレーションを手掛け、その度に世間のイメージをアッと覆す新しいデザインを発表してきました。特にノース・フェイスとのコラボレーションは、グラミー賞も受賞したことのある世界的ミュージシャン、ファレル・ウィリアムスも着用していたことで一気に世界的に火が付きました。
sacaiが手掛けた、ナイキのスニーカー
そんな『sacai』がコラボレーションしたスポーツメーカー、それが(やっぱり)『NIKE(ナイキ)』です。ナイキのモデルをsacaiはどのように解釈し、再構築したのでしょうか?早速見てみましょう。
ファーストインプレッション、いかがでしょうか!?
これは、ナイキの『BLAZER MID(ブレーザーミッド)』というモデルがベース。オリジナルは1972年にバスケットボールシューズとして誕生し、NBAの「ポートランド・トレイルブレイザーズ」のチーム名が由来とも言われています。そんなブレーザーが45年以上の時を経て、sacaiの手によってアップデートされたのがこの一足なのです。
元はシンプルなデザインのブレーザーがここまでアップデートされたインパクトは図りしれず、発売当時から大きな反響を呼びました。定価の3倍以上の価格で取引されており、買えなかった筆者の財布もかなり痛い思いをしました。
それではデザインをじっくり見てみましょう。
ブレーザーのレトロかつクラシックなシルエットはそのままですが、まず目に付くのがサイドのスウッシュロゴ。なんと2重になっています。しかしながら片方の色がベースカラーと同じブラックで統一されているので、決してくどい印象にはなりません。
さらにシューレースやシュータン、アイステイまですべて2重構造になっています。特にシューレースは注目すべきディテール。全体がブラック基調な中で、白とグレーのダブルカラーがここに入ることで、洗練されたシルエットながらボリューム感とラグジュアリー感も発揮されています。色が増えてもモノトーンで収まっているのが秀逸ですね。
そしてsacaiの細部へのこだわり最も凝縮されたポイントのひとつが、ヒールカウンターの部分です。かかとを覆うように、フォクシングテープが幾重にも不規則に貼ってあります。「こんなところまで!?」と思うかもしれませんが、どれだけルーズなパンツを履いてもかかとは必ず露出する場所。そんなところにしっかりとこだわりを持ってデザインするというのもsacaiらしいといえましょう。
改めてオリジナル版のブレーザーの写真を見ると、また違いもわかりやすいと思います。普及の名作ブレーザーの変わらぬ魅力を残しつつ、sacaiらしさがとことん体現されたデザイン、それはデザイナーの阿部千登勢さんが日々sacaiで挑戦している「裏切りと安定のバランスをうまく見極める」という言葉を確固として裏付けるものでした。
実は、ナイキとsacaiとのコラボレーションはここ2~3年で活発になっています。今回紹介したブレーザーに限らず、往年の名作『LD WAFFLE(LDワッフル)』も素晴らしいデザインにアップデートされ大きな話題を呼びました。
ちなみに今年もまた新作が発売すると言われており、今度は「BLAZER LOW(ブレーザー ロー)」がベースモデルとして採用されるようです。いったいどんなデザイン・カラーリングで発売されるのでしょうか?争奪戦は間違いなしの一足なので、是非気になった方はチェックしてみて下さい。
2021年5月公開