もう25年以上もさかのぼる大学時代、熱心に読んだスポーツノンフィクション。山際淳司、沢木耕太郎のファンだった私は、あるときから日本から世界へ飛び出したくなった。海外の作家が書いた東京書籍のスポーツノンフィクションシリーズは片っ端から読んでいき、特にトマス・ハウザーの「モハメド・アリ――その生と時代」はその後も繰り返して読んだ。
海外の作品で最も好きだったのは、デヴィット・ハルバースタムの「男たちの大リーグ」(常盤新平・訳)。東京書籍ではないが、水道橋の書店で目を留め、思い切って購入したことを覚えている(お金がないのに単行本を買うには勇気がいったものです)。
分厚い一冊で野球のグローブとバットが描かれたブックデザインがとにかくカッコ良かった。帯のグリーンは、グラウンドの芝生の色。毎日ドキドキしながら読み進めたことを覚えている。
舞台は1949年のメジャーリーグ。アメリカンリーグはニューヨーク・ヤンキースとボストン・レッドソックスが激しい優勝争いを展開していて1ゲーム差で最終2連戦に入り、直接対決で雌雄を決するというストーリー。スポーツノンフィクションというのは、人が織り成すストーリーなんだと納得させられた一冊でもあった。
ヤンキースのジョー・ディマジオ、レッドソックスのテッド・ウィリアムスというスターのみならず、両チームの選手、監督にスポットライトを当てていた。シーズンを追い掛けながら、その選手の今、そして過去を振り返っていて、一人ひとりの物語を丁寧につむいでいた。それぞれ違う人生が、グラウンドで交わっていくハルバースタムの筆力と構成力に舌を巻いた。こういう作品をいずれ書いてみたいと思った。
野茂英雄がまだ海を渡る前の話。
大学時代、地上波で放送されていないメジャーリーグを熱心に見た記憶はないが、映画や本は大リーグを扱った作品を好むようになっていた。ケビン・コスナー主演の「フィールド・オブ・ドリームス」は何度観ても泣いた。チャーリー・シーン主演の「メジャーリーグ」も好きだった。パート2には石橋貴明が出演。確か大学4年生の頃だったと思う。いつかアメリカに旅行したら、メジャーリーグを見るんだと誓った。
と言いつつ、スポーツ新聞社時代でアメリカに行ったのはラスベガスのボクシング取材のみ。その後はサッカー担当になって、海外取材もヨーロッパが中心になった。
ようやくメジャーリーグを観戦したのは2014年のこと。ブラジルワールドカップの事前合宿がフロリダのクリアウォーターだったため、仕事のない日にタンパベイ・レイズのゲームを観戦した。
本拠地トロピカーナ・フィールドは屋根付きのドーム球場。お客さんの入りは全体の半分くらい。とはいえ、メジャーリーグのノリは最高だった。ファンが一斉にカウベルを鳴らすのがここの名物らしい。チャンスになれば、あちらこちらでカウベルの音が鳴り響いた。
イニング間にはトリビアのクイズあり、某飲料会社のマスコットレースありと飽きさせない。来場者もみんな参加して盛り上がっている。
7回に入るとノリのいいミュージックが流れ、みんな席を立って踊り出す。私は3階席で観戦したが、見やすかった。そして楽しかった。バックススクリーンには大きな水槽があり、そこにはチームのシンボルであるデビルレイ(エイ)が泳いでいた。
本の話から随分と外れてしまったが、初めてのメジャー観戦を終えてブラジルワールドカップから帰国した際にまた「男たちの大リーグ」を読み直した。
メジャーリーグは、アメリカの文化として息づいている。
ファンも自分たちの楽しみ方を分かっている。
ボールパークに連れていって。
この原稿を書いているうちに「メジャーリーグ2」のタカ・タナカがまた観たくなった。
終わり
2021年3月公開