パラアスリートが力いっぱい練習できる環境を――。
2018年6月、東京・品川区東八潮にパラスポーツ専用体育館「日本財団パラアリーナ」が完成した。アリーナは2035㎡の大きなフロアスペースを誇り、そのほかにもトレーニングルームやミーティングルームもある。
コロナ禍までは稼働日率はほぼ100%。パラアスリートにとって大切な練習拠点となっている。アリーナの床は車いす競技を考慮して二重にコート剤を塗装するなど工夫されており、トレーニングルームは車いすで利用できる器具もそろえている。推進戦略部の金子知史ディレクターは「日本財団パラアリーナ」のオープンにも携わってきた。
日本財団パラアリーナ建設現場にて。左から2人目が金子さん。写真提供は日本財団パラリンピックサポートセンター
――「日本財団パラアリーナ」の計画も「走りながら考える」に近かったのでしょうか?
「はい、半年で設計して半年で建設するというスケジュールでしたから。ただ共同オフィスの経験が凄く活きましたね。誰もが使いやすいユニバーサルデザインと、カッコいいクリエイティブデザインの両方を入れていきたいと考えました」
――使いやすくは分かりますが、カッコよくというのはどのような考えから?
「選手にとっては本番さながらに練習に臨む場所だと思うんです。エントランスに入っただけでスッと気持ちが高まっていくような、そんなデザインがいいな、と」
――エントランスの床には「i enjoy!」「楽しむ人は、強い」と大きなメッセージが入っています。
「我々のキーメッセージを記しているのも、厳しい練習に行く道なんですけど、楽しむという原点を忘れずに頑張っていただきたいなという思いを込めるために、ちょっと大きくしました」
――共同オフィスのエントランスにはパラサポのスペシャルサポーターである香取慎吾さんが描いた大きな壁画があります。パラアリーナのエントランスには、香取さんの作品がレゴで再現されていますよね。
「香取さんの壁画を見ると気持ちが高まるというアスリートが多くいまして。ただ外に持ち出せるものではないので、レゴビルダーの方にご協力いただき、壁画を実寸大で再現したレゴ壁画が制作されました。2018年3月のパラ駅伝でお披露目してから、3カ月に完成する日本財団パラアリーナのほうに置かせてもらうことにしました。それからずっとアスリートに、パワーを送ってもらっています(笑)」
――この施設が完成して、パラアスリートが実際に練習しているのを目にすると感慨深かったのではないでしょうか?
「感動しました。オープンして最初の週末に車いすラグビーの4チームがやってきて、待ち切れない感じですぐに練習を始めて、そして試合をやって……。待ち望んでくれていたんだなって思いましたし、挨拶した際に感謝の言葉もいただきました」
――稼働日率はコロナ禍まではほぼ100%と聞いています。
「年末年始とメンテナンスの日以外は、毎日使っていただいていました。ただただ車いすを走らせるとか、トレーニングルームで汗を流すとか、みなさんの努力を陰から見せてもらっていますけど、頑張っているアスリートが代表に選ばれたりすると我々としてもうれしかったりしますよね。パラアスリートは準備一つ取っても時間が掛かったりします。限られた時間に思いをつぎこんで練習に臨む姿勢は素晴らしいし、凄く輝いて見えます」
日本財団パラアリーナでパラアスリートたちと記念写真。右奥が金子さん。写真提供は日本財団パラリンピックサポートセンター
――話題を競技団体の支援に話を戻したいと思います。日本財団からの助成金支援は2021年度までと決まっています。競技団体の完全な自立は簡単なことではないとは思うのですが、どのように促してきているのでしょうか?
「完全な自立をしていくためにお互いに考えながら頑張っていきましょう、と。そのことを念頭に置いて助成金制度を2018年に変えています。企業スポンサーも増えてきてパラサポが支援しなくても大丈夫なくらいの財政水準になっている団体も出てきています。しかし一方で企業スポンサーもつかず、パラサポの助成金がないと事務員さんを雇えない水準にある団体もあります。こういう事情もあって一律にしていた制度を変えることにしたんです。財政水準が高くなっている団体はもっと自己財源を伸ばすようなやり方にしてもらって、逆に財政水準がなかなか高まっていかない団体は敢えてスリムな体制にしていくようなプランです」
――スリムな体制と言いますと?
「たとえば自立が現段階で難しいと思われる団体が10あるとします。事務員をそれぞれ1人雇うのではなく、全体で3人とか5人とかにしていけば費用は当然減ります。バックオフィスという呼び方もシェアードサービスに変えました。助成金や強化費の報告書だけでなく一般会計丸ごとサポートできるようなことをやろうと考えています。どういう形であれば自立しやすいのか。各競技団体さんともそこはコミュニケーションを取りながらやらせてもらっています。スリム化といっても〝助成金は少なくなりますけど、後は頑張ってください〟などという意味ではありません。自立を可能とするために、ほかのサポートを考えていくということです」
――今は、将来的に団体が継続してしっかりと活動していけるための大切な準備期間とも言えるわけですね。
「本当にそうですね。パラサポが立ち上がってから5年半経ちましたけど、お互いにいいコミュニケーションを取ってきたと思います。競技団体から申請いただいたものをいわゆる査定みたいなこともやらせてもらっていますけど、単純に〇とか×とかつけるとかじゃなく、何が必要で、何が必要じゃないのか、お互いに考えながら、議論しながら進めてきました。だからこそ完全な自立というものを、果たすべきミッションとしてこれからもやっていきたいと考えています」
第3回に続く
2020年11月公開