東京2020オリンピック・パラリンピックの開催に向けて日本のパラスポーツにおける財政面、環境面を支えているのが日本財団パラリンピックサポートセンター(以下、パラサポ)である。
日本財団の職員としてパラサポの立ち上げに関わり、パラリンピック競技団体の基盤強化やパラスポーツ専用体育館「日本財団パラアリーナ」の設立など多くの実務を担当してきたのが、推進戦略部の金子知史ディレクター。学生時代にはアメフトに熱中していたスポーツマンは、全身全霊を傾けてやり甲斐のあるこの仕事に取り組んできた。サポート体制はいかにして進んでいったのか――。
――早速、お話を聞かせていただければと思います。まずは金子さんがパラサポの設立に関わる経緯から教えてください。
「日本財団は障がい者福祉、スポーツのボランティアの分野においても長年活動をしていまして、2013年に東京オリンピック・パラリンピックの招致が決まったことでこれまでの知見を活かして特にパラリンピックのほうで貢献できないか、と。翌2014年に日本財団のなかに『パラリンピック研究会』というものが立ち上がって、私も会の運営に関わることになりました。競技団体が十分なサポートを得られていないとか、パラリンピックに対して人々の関心が高まっていないとか、いろんなことが分かってきて、日本財団の外に専門に取り組む団体をつくって本腰を入れてサポートしていこうじゃないかと決まりました。1年の研究期間を経て2015年5月のパラサポが設立すると同時に私も日本財団からの出向という形で携わることになりました」
――研究会に入る前まではパラスポーツ自体への関わりはあったのでしょうか?
「それまではなかったんです。学生時代にアメフトをやっていたのでコンタクトスポーツ自体に元々興味はあって、テレビで車いすラグビーを見たときに『うわっ、凄いな』と衝撃を覚えた記憶はあります。この仕事をすることになって間近で試合を見たり、アスリートと触れ合ったりして、同じような衝撃を受けました」
――パラサポが立ち上がって、金子さんは競技団体の支援を担当していくことになりますよね。
「サポートの中身をどのようにつくっていけばいいか、すべての団体に実情を聞きながら進めていきました。日本財団は2015年度から2021年度までの7年度で100億円規模の支援を発表していましたから、サポートの本気度を示しながらヒアリングを行ないました。競技団体のほうも『今だから言えますけど最初はちょっと疑っていました』と半信半疑のところもあって、我々としては何よりも本気の姿勢を見せていくことが大事でした。細かいニーズまで聞いて支援メニューをつくり始め、立ち上げから3カ月後の8月末には支援策を完成させました」
――29のパラリンピック競技団体と関係団体がシェアするこのオフィスも支援策の柱となりました。
「競技団体の役員のご自宅が事務所代わりだったりして、オフィスが必要だなということはみなさんに話を聞いていて思っていました。このフロアがちょうど2015年10月に空くとなったので、10月に工事して11月から各競技団体に入ってもらうように動いていかなければなりませんでした」
――共同オフィスというのはパラサポの立ち上げ前から決まっていたことではなかったんですね。
「上司の小澤(直)常務理事が〝走りながら考えよ〟という教えの人で、まさにそんな感じで決まったんです。ただオフィスと併行して助成金制度と後方支援のバックオフィス体制、この3つを8月末に発表しました」
――ではまずオフィスの話から。どのようなコンセプトでつくったのか、あらためて聞かせてください。
「ユニバーサルデザインの専門家とオフィスデザインの専門家に入っていただきました。ユニバーサルデザインのほうで言いますと、10人ほどの車いすユーザーの利用想定があり、利用するすべての人々にとって使い勝手のいいオフィスというのを考えていただきました。オフィスデザインのほうで言いますと、実際の競技用具や映像、写真、そして香取慎吾さんに描いていただいた壁画などパラスポーツの魅力を体感できる仕掛けをエントランスに施し、中に入ると各競技団体が仕事をしやすい環境、お互いが刺激を受け合いながら仕事が進められるような、そんなデザインにしていただきました」
――壁もドアもなく、各競技団体がつながっているデザインです。
「コミュニケーションが取りやすいデザインだと思います。パラサポと各競技団体という関係だけではなく、各競技団体間でもコミュニケーションを取りやすいように。『お隣の団体がこんなことをやっているからウチもやってみよう』とか、『この業務についてほかの団体はどうやっているのか聞いてみよう』とか、そういうことでコミュニケーションが活発になっていきました」
――オフィスの中央には、フリースペースとちょっとしたステージもあります。
「2016年のリオパラリンピックの際に、代表選手の内定者をここで発表する団体があると『これ、いいじゃないか』とみなさん次々に使っていました。メディアの方もパラリンピック関連の情報が集まる場所という認識を持っていただけたのか、来ていただけるようにもなりました。また一方でパラスポーツを応援したいという企業の方もここを訪れるようになり、パラサポだけでなく、競技団体と個別でコンタクトを取ることも増えていきました。あらゆる面で段々と効果が見えてきました」
常に競技団体とのコミュニケーションを心掛ける金子さん
――続いて助成金制度についてお伺いしたいと思います。各競技団体に話を聞いていくなかで、どのようなところが大変だと感じたのでしょうか?
「マンパワーのところですよね。競技団体には国から強化費が出ていますが、事務でそういったお金を回せる人手が足りない。報告書をしっかり書いて戻さないと助成金は認められませんから、我々としては事務員の雇用など事務局を整備する資金を提供します、ということです」
――あともう一つがバックオフィス制度です。
「これは全団体が共通して行なっている事務作業をなるべく一極集中でやってしまったほうが効率化できるとの思いから、強化費の報告書作成などは我々で用意したスタッフで全部やりましょう、と」
――オフィス、助成金、バックオフィスを軸に、本格的なサポートが始まっていくわけですね。それにしても5月の立ち上げから3カ月後にサポート内容の発表とは、かなりスピード感ありますね。
「はい、そこはもう〝走りながら考えよ〟ですから(笑)」
2020年11月公開