停滞は成長をイコールとしない。
早稲田ア式蹴球部監督就任1年目で関東大学リーグ優勝を果たしたからといって、立ち止まるわけにはいかなかった。むしろ優勝して注目が高まる今だからこそ、攻めどきだと外池大亮は考えた。
1年目は自主性の促進という意識改革がメーンであったものの、2年目はプランニングしていた組織改革から動き始める。
まずはスポンサーの獲得。
ブランド品や骨とう品、美術品の買い取りや販売を営む株式会社SOUとオフィシャルパートナーシップ契約を結び、ユニフォームの胸部分にロゴが入ることになった。これは早稲田に44ある部のなかで初めての試み。大学と企業が契約し、大学からの給付という形で資金を管理する部のOB会にスポンサー料金が入る仕組みになる。お金を生むこの流れが「将来の財産になる」と外池は言う。
「今コーチングスタッフは8人いますが、みなさんにはOB会から日当と交通費しかお支払いできていない。つまりほぼボランティアの形で、早稲田のために協力していただいています。ほかに仕事もあって協力ベースでやってもらっているので、そこはどうしても限界が出てくる。そこで回せるお金が出てくれば、大学やOB会がスタッフの管理体制をしっかりやっていこうという空気が出来てくるとは思うんです。それこそが安心、安全なサービスを学生に提供できるというところにもつながってくる」
そしてもう1つは社会人の関東サッカー2部リーグに所属する早稲田ユナイテッド(ア式蹴球部OBを中心に発足した社会人チーム)の運営を継承し、早稲田大学ア式蹴球部FCとして関東リーグへの参加を決めたことだ。これは何より部員の強化が目的となる。
「社会人リーグには元Jリーガーもいて、試合を通じて今まで感じられなかったものを得ることができる。強化、成長の場とするのが一番です。ただ、大学生のうちから〝社会とつながる〟というのは自分の人生を考えていく意味でもプラスになると考えました」
運営費、登録料などお金が掛かることになるが、スポンサー料がここで活かされることになる。将来的には学生とOBを融合するチームができれば「次世代型の大学スポーツコミュニティ」を形成できるという構想もある。
学生が「日本をリードする存在になる」ことを目指すのだから、出来る限りのフォローをしなければならない。そればかりでなく、アイデアと実行力で物事を動かす模範を示していかなければならない。この2大改革の早期実現は、学生たちへの強いメッセージともなった。
新チームが始動したのは2月1日。
外池の第一声は、「本物になろう」だった。
「去年、早稲田史上最高の勝ち点で優勝しましたけど、新しいものにまい進してきて勢いにも乗って、ある種ビギナーズラックもあったと思うんです。何かうまくいかないことがあったら、じゃあそこに戻ろうってなりがち。その時点で偽物だと思うんです。去年は頑張ったという評価はあっても本物かどうか評価されたわけでなく、(成功を)続けることができた人たちに本物という評価がくだる。裏側に偽物というゾーンが常にあって、去年をなぞろうとすると偽物扱いされる。だから今年のミッションとして〝変化し続ける〟を加えたんです」
優勝体験は自信になる一方で、プレッシャーにもなる。岡田優希(町田ゼルビア)、相馬勇紀(鹿島アントラーズ)、小島亨介(大分トリニータ)ら4年生の強烈なタレントが抜けたなか、2連覇は簡単なことではない。しかし周りの期待は高まるばかり。去年は去年のやり方、今年は今年のやり方。過去に頼るのではなく、自分たちで変化を続けていくことが大切だと説いたのだった。
つい1年前は、何をやるにしても監督が部員の背中を押してあげることから始めなければならなかった。だが、それはもう必要ない。
たとえば練習後のクールダウンの方法も「学生が自分たちで考えてやりたがる」。だが、コーチも新しいものを模索していたため、学生のほうに一度待ったを掛けた。
コーチが試したのはダウンなのに、学年別の鬼ごっこみたいな形式。翌日のトレーニングの導入という位置づけだったが、急にスプリントをする選手もいてダウンとは呼び難かった。でもチャレンジすることこそ「変化しつづける」を可能にする。ナシではなく、これもアリにしていく。外池の呼び掛けは、学生にもスタッフにも響いていた。さらに外池はサッカーの理論に関心を持つ一般学生を2人、部に呼び入れた。彼らは実際には試合でプレーをしない。分析業を主な任務とした。
山あり谷ありが、外池ワセダにはよく似合う。
2019年4月6日、外池体制2年目の関東大学サッカーリーグ開幕戦。2部から昇格した立正大学を相手に先制しながらも、逆に3点を奪われて完敗した。
外池にいつもの元気がなかった。
「うーん、萎縮しなきゃそんなに難しくないゲームだったと思うんですけどね。1点リードして受け身に回って自滅した形になりました。去年は経験がない分、ガムシャラさがありました。でも今年は経験している分、違うやり方で引き戻していかなきゃいけない。苦しいシーズンがまた始まったなっていう印象です」
続く法政大学戦にも敗れ、その後も勝利が遠い。試合でプレーする部員とプレーしない分析担当の部員の間には温度差もあったという。
「分析する学生は練習の組み立てにも入ってくるし、大学サッカーの舞台で考えたことを実践に移せるのでモチベーションは高い。でも部員になった以上は部員としての心構えが必要になる。ちょっと時間に遅れてしまったりとかもあって、意外と融合って簡単じゃなかった。結果が出ないと〝それって机上の空論じゃないの?〟とほかの部員からネガティブな思いも出てくる」
必要な化学変化だと外池は捉えた。いやそれは部員たちも。
苦しいなかでも「変化し続ける」ことは忘れなかった。5月30日にはFリーグのエキシビジョンマッチで早慶定期戦(7月12日)をPRするために、部員が企画した早慶フットサル対決の実現も外池は後押しした。
結果が出れば周りは外池の改革を支持するが、結果が出ないとなるとOBから逆の声も外池の耳に入ってくる。今ここが踏ん張りどころなんだと、外池は自分に言い聞かせていた。
「大学生だから、いろんなチャレンジができる。負ける重み、苦しみというのは味わってみないと分からない。自分たちがどう乗り越えていくかが、そこが問われている。重ければ重いほど、乗り越え甲斐があると思ってやっていかないと」
開幕から1カ月が過ぎた。
成績は1分け5敗と、1勝もできていない。
変化の先にある成長を、それでも外池が疑うことはなかった。
2019年11月掲載