■座談会出席者
日本経済新聞運動グループ 山口 大介
SPOAL編集長 渋谷 淳
SPOAL編集者 二宮 寿朗
アーバンスポーツに新しい価値観 今大会のヒットに
渋谷 今回の東京五輪で盛り上がったのがアーバン(都市型)スポーツだよね。スケートボード、BMX、スポーツクライミング……。
二宮 編集長は「しぶさんぽ」でスケートボードやBMXの会場になった有明アーバンスポーツパークの周辺を歩きましたもんね。
渋谷 会場に近寄れないから、かなり遠くからだったけど(笑)。でもテレビで見ていて、アーバンスポーツって楽しそうだなって思った。
二宮 スポーツクライミングではボルダリングとリードで、選手たちがみんなでコースを下見してどう攻略するかって話をしている姿に、ちょっと感動したんですよね。ああ、スポーツってこういうところがいいんだよなって。
スポーツクライミングなどの会場になった青海アーバンスポーツパーク
山口 スケートボードやスポーツクライミング、サーフィンの採用は、コロナ禍でネガティブなニュースの多かった今大会のヒットでしたね。日本がメダルをいっぱい獲れたからよかったということじゃなくて、のちのち五輪を振り返ったときに東京大会のエポックとして思い出されるんじゃないかなと。
渋谷 そこ、詳しく聞きたい。
山口 つまり先ほど話に出た体操女子のシモン・バイルズ選手は、ある意味で「メダル至上主義」「商業主義」が進んだ五輪の被害者という見方もできると思うんです。スター選手であるがゆえに、個人に対してトレーナー、スタッフ、栄養士などいろんな人がついて、競技で結果を出すことが自分だけのためじゃなくなっている面がある。選手のためにあるはずの仕組みが、逆に負担になり始めているというか。だから余計に選手たちが心から楽しんでいたスケボーなどのアーバンスポーツが新鮮に映ったという気がします。スポーツが失いつつあるものが、そこにはありましたから。いろいろと考えさせられた大会であったことも事実です。
二宮 山口さんが言ったこと、よく分かります。BMXを見ていても、レース前なのに全体的に楽しそうな雰囲気でした。これから競技を楽しむぞっていう雰囲気が伝わってきました。
山口 子供に何かスポーツをやらせたいと思っている親も、(アーバンスポーツを見たら)上下関係とか監督、コーチの厳しい指導とかあるスポーツじゃなくて、楽しくやってもらいたいと思っても不思議じゃないですよね。
渋谷 トシオくんはほかに見ていて気になったスポーツはあった?
二宮 今回、熱中して見たのが柔道ですね。日本人選手が活躍したということも理由にはあるけど、ゴールデンスコアで決着をつけさせる試合形式だったので競技として非常に分かりやすくなっていた。
山口 そうなんです。きちんとした技じゃないと決まらないし、見ていても気持ちのいい場面が多かったですよね。
渋谷 そうか、山口さんは柔道もよく取材してたもんね。
有明アーバンスポーツパークはBMXの会場でもありました
スポーツマンシップが気持ち良かった柔道
山口 僕と渋谷さんが取材した2004年のアテネ大会もそうですけど「効果」「有効」「技あり」「一本」とあって、僅差の勝負は分かりづらいところがありました。
渋谷 昔はどっちが勝ったかよく分からない試合が多かったかも。
山口 尻もちついて「効果」とかね。納得いかない判定に陣営や応援席からブーイングが起きたり、選手たちが不満を示したりすることはよくありました。わずかの差で決着がついてしまうから、礼で終らなきゃいけないのに、ふてくされたような態度で相手の顔も見ずに軽く手を合わせるだけとか。でも今のルールは、納得して畳を降りざるを得ない。だから選手も納得できるし、ちゃんと礼で終わることができる。
二宮 柔道で山口さんが心に残ったシーンとかあります?
山口 一つは男子100kg級のウルフ・アロン選手とチョ・グハム選手(韓国)の決勝戦ですね。まさにお互いに力を出し切って、最後はウルフ選手の一本勝ち。一礼した後にチョ選手が手を差し出して、抱擁して。ウルフ選手の手を取って高々と上げたシーン。柔道をずっと取材してきても、あまり見たことのない光景でした。
二宮 僕もあれ見てジーンときましたね。
渋谷 もう一つは?
山口 男子81kg級の永瀬貴規選手とサイード・モラエイ選手(モンゴル)の決勝です。モラエイ選手はイラン出身。2018年の世界選手権王者で、翌年に東京・日本武道館で行われた世界選手権で国が対立するイスラエルの選手と対戦する可能性があったため、国の指示で棄権しろと命じられたそうです。彼は強行して出場したために国に戻るのは危険だということでドイツに渡って難民の認定を受け、その後モンゴル国籍を取得。永瀬選手はそういった背景も知っているから、試合が終わった後に彼を称えて、お互いの手を挙げて。とてもいいシーンだったと思います。
渋谷 どちらの話もスポーツマンシップで、凄くいい話。ゴールデンスコアで決着をつけさせるところも、大きかったんだね。
二宮 山口さんがほかに見ていて感動した競技やシーンってあります?
山口 金メダルを獲得したフェンシングの男子エペ団体。何度か取材していたので思い入れもありまして。
二宮 見ていて面白かった。ROCとの決勝も快勝でした。
山口 エペは「キング・オブ・フェンシング」と呼ばれて陸上の100m走や競泳の自由形と同じように、競技の花形なんです。頭の先から足の先までどこを突いてもいい。大黒柱である見延和靖選手が30代半ばで1年延期の影響を受けてしまっていて、(メダル獲得には)ちょっと難しいかなと思っていたら、代わりに補欠として選出された宇山賢選手が大活躍するっていうストーリーも良かったですね。そしてもう一つが、銀メダルを獲得したバスケット女子です。
渋谷 バスケ観たな~。 そこはじっくり話をしたい。
二宮 それでは一度休憩を挟んでから、座談会の後半はバスケ女子の話から始めましょうか!
2021年9月公開