2017年の年の瀬。セパタクロー日本代表は大きな決断を下した。翌年に控えたアジア大会でエントリーする種目を決めたのだ。インドネシア大会では4種目が実施されることになった。3人制のレグ、チームレグ、チームダブル、そして、クワッド。前回大会との変更点は2人制のタブルが団体戦になり、4人制のクワッドが初採用された点だ。この中から2種目を選ばなければならない。
過去の歴史をみてもチームレグは外せないと思われたが彼らはあえて外した。本命に据えたのはチームダブルだった。JOCから割り当てられた派遣枠の関係もあったけれど、一番は「金メダル」という目標を真剣に考えた結果だ。この4年間、世界選手権や新設されたスーパーシリーズと呼ばれる大会の影響で強豪国と戦う機会が増えた。その中で感じたのはサーバーの差だった。逆にレシーブやアタックでの駆け引き、データを集計して戦略的に戦う分野では手応えを掴んでいた。サーバーの差が一番でるのがレグなのだ。
代表合宿でのひとコマ
ダブルやクワッドのサーブはエンドラインから打たれるが、レグのサーブはエンドライン手前に描かれたサークルから放たれる。分かりやすく例えるならば、ソフトボールと野球の関係に似ている。ソフトボールで時速120キロの速球は野球に置き換えると体感速度は170キロにもなる。手前から打たれるレグのサーブは捕球が難しい。強豪国はこの強烈なサーブを高確率でコートインさせてくる。逆にダブルやクワッドのサーブは成功率に差が出にくい上に、エンドラインから打つため捕球がしやすい。ラリーにさえ持ち込めれば勝機が見いだせる。これは代表選手が共有していた感覚だった。
ダブルやクワッドで求められる能力はレシーブ力やジャンプ力だから、サーブに特化しているサーバーにとって、この決断は最大の武器を封印することになる。あるサーバーは「正直、キツいっす。でも今までで一番ボール蹴ってます」と話し、素人目にも慣れない動きでレシーブやブロックの練習に励んだ。なぜならば、レグで挑戦して敗れ去った仁川での経験、手ぶらで帰ってくる虚しさを繰り返すのはまっぴらだったからだ。彼らは「金メダル」と「セパタクローの未来」のためにエントリーする種目を自分たちで決めた。
このときから日本代表にはある習慣が作られた。練習前には挨拶代わりの握手をして、練習後のミーティングでも、最後は全員で握手を交わすようになったのだ。
2018年5月。新潟オープンは代表選考を兼ねた大会だ。代表候補選手は一足早く集まり合宿をはった。これまでも彼らと食事を共にすることはあったけれど、このときは初めて同じ部屋に泊まり、同じ釜の飯を食い、一緒に風呂にも入り、寝食をともにした。選考のストレスに顔を青くする若手もいたけれど、みんなでイジってリラックスさせて、いつも通り明るく振る舞っていた。
新潟での合宿では笑顔が溢れていた
そして、その時を迎えた。新潟オープンの表彰式を終えると、最後に代表選手が読み上げられた。寺島が可愛がっていた後輩は4年前の仁川に続き落選してしまった。この他にも若手のアタッカーと「正直、キツイっす」と話してくれたサーバーが漏れてしまった。
合宿中に撮った集合写真。コーチの飯田義隆(前列右から2番目)は選考直後「この写真はしばらく見れないです」と漏らした
控室で写真整理をしていると、合宿に参加したすべての選手が入室してきた。そこに笑顔はなかった。いつものように円になってコーチの言葉に耳を傾けている。その声は震えていた。
この展開に僕は戸惑っていた。まさか目の前でミーテイングがあるとは思っていなかったからだ。そして、撮るべきか控えるべきか逡巡した。そのとき寺島の言葉を思い出した。
「なんでも撮ってください」
このときほどシャッター音を忌々しく感じたことはなかった。しかし、このときほど人差し指に気持ちが入ったこともなかった。きっとこの瞬間を撮るために僕は彼らと5年を過ごしてきたのだ。
やっと彼らの気持ちにシンクロできた気がした。
控室でのひとコマ。寺島(左)と落選したサーバー坂本竜太郎(右)
2018年、インドネシアのパレンバンで開催されたアジア大会。セパタクロー日本代表はチームダブルで銅メダルを獲得した。そして、新種目だったクワッドでは銀メダルを獲得した。
どちらも金メダルには届かなかったけれど、チームダブルではタイからセットを奪い、クワッドでは史上初めて決勝の舞台に立ち、開催国インドネシアをあと一歩のところまで追い詰めた。
業界を知る者ならば、彼らが掲げた「金メダル」という目標がいかに高い目標だったかを知っている。正直に告白するならば、僕は「さすがに難しいだろ」と思っていた。しかし、彼らは前進してみせた。本気で覚悟を決め取り組めば不可能を可能にできることを、彼らはインドネシアの地で示してくれた。
彼らは今日もボールを蹴り、笑う。なぜなら、セパタクローが好きだからだ。
念願だったチームダブルでのメダルに笑顔
そして、僕も写真を撮る。写真で「伝えること」が好きなのだ。先輩に言われた「説得力」について、今は少しだけ分かる気がする。きっと僕が人として未熟だったから「説得力」に欠けていたのだし、覚悟が足りなかったから伝わらなかったのだ。そのことを教えてくれたのはセパタクローの選手たちだ。だから、僕も「高須の写真ってめっちゃ説得力あるよね」と言われるようになるまで、撮り続けようと思う。

セパタクロー 熱中時代。 終
2022年9月公開











