■座談会出席者
元プロボクサー、写心家 山口 裕朗
「Sports Graphic Number」編集者 西木 孝輔
SPOAL編集長 二宮 寿朗
SPOALカメラマン 近藤 俊哉
二宮 きょうはみなさんにボクシングの入場曲についてたっぷりと語っていただきたいと思います。まず今年(2026年)最大のビッグマッチ、井上尚弥選手と中谷潤人選手による東京ドームでの4団体統一世界スーパーバンタム級タイトルマッチも入場シーンが注目されましたよね。チャンピオンの尚弥選手はオーケストラによる「Departure」から布袋寅泰さんの生演奏による「Battle of Monster」で入っていきました。
5・2東京ドームでの井上尚弥選手、入場シーン
西木 ファンからすれば「Departure」なのか、それとも「Battle of Monster」か、どっちだろうと思ったらその両方でしたよね。「Departure」はドラマ音楽、インストの大家である佐藤直紀さんによる楽曲でドラマ「GOOD LUCK‼」の挿入曲。配信が見つからなかったので、僕はCDを購入してプレイリストに入れています。布袋さんが映画「新・仁義なき戦い。」「キル・ビル」のテーマを尚弥選手のためにアレンジした「Battle of Monster」も音源化されておらず、配信もありません。会場でしか聞けない特別な曲。ちなみに元WBC世界バンタム級王者、山中慎介さんが使っていた「龍馬伝」も佐藤さんの作品です。
山口 さすが西木さん、詳しいですね~(笑)。尚弥選手のビッグマッチでは布袋さんがよく登場します。ノニト・ドネア選手とのリマッチ(2022年6月)では布袋さんがリング上で演奏しましたよね。よく覚えています。
近藤 挑戦者の中谷潤人選手はいつもの長渕剛さんの「神風特攻隊」でした。
二宮 潤人選手にインタビューした際、中学の修学旅行先の沖縄で、戦争によって多くの人が命を落とし、自分とそう年齢の変わらない夢も希望もある多くの若い人まで亡くなった話を戦争の語り部から聞いたという話をしてくれました。「僕は幸せにもボクシングをやらせてもらっている。でもそれって当たり前のようであって当たり前じゃない。その気持ちは今も大切にしています」と。ボクシングができる感謝の意味こめて、あの曲を使っているのだと感じます。
中谷潤人選手の入場シーン
山口 彼の思いというものを強く感じますよね。長渕さんの曲は、いろんなボクサーが使っている印象ですね。元IBF世界スーパーバンタム級王者、岩佐亮佑さんは「SAMURAI」でしたよね。
西木 入場曲に多いアーティストというなら、AK-69さん。4階級制覇のレジェンドである井岡一翔選手、今は変更しましたけど、WBC世界バンタム級王者の井上拓真選手、元WBA世界スーパーフェザー級王者の内山高志さんもそうでした。また、20代ボクサーに多くなっていると感じるのはONE OK ROCKさん。日本、東洋太平洋、WBOアジアパシフィック王者、佐々木尽選手は「The Beginning」を、次世代のスター候補である藤木勇我選手は「I was King」を。過去形でいいのかとも思いますが(笑)。
二宮 THE BLUE HEARTSも多いと聞きますよ。
西木 そうですね。「TRAIN TRAIN」、「夢」は鉄板ですよね。
山口 元日本スーパーバンタム級王者の古橋岳也さんは、ギタリストの真島昌利さんと親交があって、入場時に真島さんからプレゼントされたライダース仕様のガウンをまとってザ・クロマニヨンズの「ナンバーワン野郎!」で入ってくる。THE BLUE HEARTSに凄く思い入れがあると聞いています。
二宮 マニアと言っていい西木さんと、元ボクサーの山口さんにぜひ伺いたい。キャラクターと、入場曲が最もマッチしていると感じるのは誰でしょうか?
西木 試合内容はお互いがあることなので、自分が出したいものを出せるかどうかゴングが鳴るまで分からない。でも入場曲やコスチュームというのは、自分が好きなものを選べますよね。自分はこういう人間、こういうボクサーだとアピールできるアイテム。その意味においてWBO世界スーパーフライ級王者の寺地拳四朗選手は、一番マッチしているんじゃないですか。
近藤 「北斗の拳」の主題歌、クリスタルキングの「愛をとりもどせ‼」ですね。主人公はケンシロウですから、確かにしっくりきます。
寺地拳四朗選手は北斗の拳スタイルで入場
山口 コスチュームもケンシロウ調ですもんね。
西木 2021年9月に矢吹正道選手に敗れて、復帰してからだったと思いますが「愛をとりもどせ‼」からケンシロウの名ゼリフ「お前は既に死んでいる」の後に、「北斗の拳2」の主題歌「TOUGH BOY」(TOM★CAT)につなげていくパターンに変えてきました。自分を変えていくぞというメッセージ性も感じました。ケンシロウのセリフが違うときもあってそこにも注目しています。
近藤 じゃあ二宮さんは?
二宮 僕は元日本、東洋太平洋ライト級王者、坂本博之さんが愛用したドボルザーグ「新世界」かな。大学生のときに後楽園ホールで坂本さんの試合を観戦して、「新世界」が流れてきて興奮したのを思い出しますね。クラシックなんですけど、KOへのこだわりという坂本さんの気高さが凄いマッチしていました。クラシックの入場曲というのはちょっと変化球のような気もしますが。
山口 その路線で言うなら井上尚弥、拓真兄弟の従兄弟である元日本、WBOアジアパシフィック王者の井上浩樹さんは自分=アキバ系アニソンというイメージを定着させましたよね。ちょっと印象深いのは昔、江口九州男さんと江口勝昭さんの兄弟対決(1993年6月)があって九州男さんは北島三郎さんの「兄弟仁義」、勝昭さんは鳥羽一郎さんの「兄弟船」で入場しました。
二宮 アニソン、演歌……確かに変化球ではありますね。
西木 元WBA世界フライ級王者のユーリ阿久井政悟選手も外せませんね。入場曲とコスプレがセットという新しいパターンで「シン・エヴァンゲリオン」、「グレムリン」、「スターウォーズ」……いつもファンや関係者の意表を突いてきます。
近藤 「バック・トゥー・ザ・フューチャー」もやっていましたね。ただ微妙にアンバランスというか、観ている人に今ひとつ伝わってない感もあります。
ユーリ阿久井政悟選手はコスチュームと入場曲をセットにするこだわり
西木 それも含めて、阿久井選手のサービス精神は魅力ですね。弊社のカメラマンには、彼の入場シーンは必ず撮っておいてくださいとお願いしてあります。
二宮 次は「インディ・ジョーンズ」あたりかな。まったく読めないところもいいですね。
西木 アニソンの話が出たのでもう一つ言っていいですか? WBO女子世界スーパーフライ級王者の晝田瑞希選手は海外での試合も多く、自分に関心を持ってもらうために知名度の高いアニメの「セーラームーン」のOP曲「ムーンライト伝説」を使っているんですよね。本人に確認したところ、外国の人に対してもインパクトがある、と。そういう目線で入場曲を設定しているのは、素晴らしいなと感じました。
二宮 変化球という括りにすると、実は現役時代の山口さんがそうなんですよね。休憩を挟んで後半戦はその話題から行きましょう!
(第2回に続く)
2026年10月公開









