女子バスケ日本代表、オリンピック銀メダルの秘密を解き明かす
女子バスケットボール日本代表がオリンピックで銀メダル! 日本のシュートが決まるたびにテレビの前で「よしっ!」と拳を握り、決勝進出を決めたときは「マジかーーっ!」と大声を上げた。あの歓喜と驚きの記憶を鮮明によみがえらせてくれる一冊が、今回紹介する『歴史を変えた最強チームの真実 女子バスケットボール東京2020への旅』(ベースボール・マガジン社)。感動の追体験こそはノンフィクション作品の醍醐味である。
本書はヘッドコーチのトム・ホーバス氏、出場した12選手すべて、さらには敏腕マネジャーまでじっくり話を聞いたインタビュー集。それぞれの選手たちのオリンピックにかける思い、各プレーヤーに与えられた役割、日本の目指したバスケットボールが余すところなく描かれている。
そもそも私が本書を手にした理由は、日本のオリンピック銀メダル獲得に喜びながらも、ちょっとしたモヤモヤがあったからだ。なぜ日本は銀メダルに到達できたのか? そこのところが今ひとつ分からなかったのである。
スピードを生かしたスタイルが奏功した。
3ポイントシュートがたくさん打てた。
その3ポイントシュートがたくさん決まった。
高い位置から激しく仕掛けるディフェンスが良かった。
猛練習が実った。
こうした指摘は一つひとつその通りなんだろうけど…。
体格で劣る日本がタイトなディフェンスで粘り、スピードやコンビネーションを重視し、身長差の影響が少ないアウトサイドのシュート(主に3ポイントシュートだと思う)で勝負する――というのは、私の理解だと昔から一貫して変わっていない。いわゆる「スモールボール」はいつの時代も(多少の違いはあれど)日本が世界に勝つために目指したバスケットボールだったはずだ。
素人目には今回の代表が過去の代表と比べて特別に才能豊かなメンバーだったようには思えない。なんといっても大黒柱、トップ外国人選手と互角に争える唯一のセンター、渡嘉敷来夢選手が出られなくなったのだ。となると「なぜ今回は好成績を残せたの?」という謎はますます深まるのである。
本書はそうした疑問に次々と答えを与えてくれる。「へ~」と感心したところひとつだけ紹介させてほしい。日本代表はオリンピックで3ポイントシュートの成功率、試投数、成功数がいずれに出場12チームの中で1位をマークした。そのことを問われたホーバス氏は次のように答えている。
ウチのスモールボールで注目してほしいのがシュートチャートです。シュートチャートを見たらわかりますが、ペイントエリアの得点か、3ポイントに徹底しています。
次のページに載っている全試合のシュートチャート(コート図の中でシュートを打った場所に印をつける。入ったら○、外れたら×)を見てみると、本当にほとんどのシュートがゴール近くのペイントエリアか、3ポイントラインの外から打たれている。他の選手のインタビューを読むと、そもそもペイントエリアの外側、3ポイントラインの内側の2ポイントシュートは基本的にNGであることも分かった。
出場選手全員にていねいにインタビューしているので、こうした「おおっ、そういうことだったのか!」という腑に落ちる話が随所に出てくるので読んでいて意気持ちがいい。読者は冒頭のホーバス氏のインタビューからグングンとページをめくっていくことだろう。
著者はチームとして「なぜ強くなれたのか」をしっかり抑えながら、選手の心の中にも踏み込んでいく。それぞれのメンバーがかかえる葛藤や悩み、オリンピックまでの起伏に富んだストーリー(代表選考のバトルは過酷だ!)は十人十色で興味深い。オリンピックでアシスト王に輝く大活躍を見せた町田瑠偉選手に代表に選ばれるかどうか瀬戸際の時期があったというエピソードには素直に驚いた。
女子日本代表はオリンピックの翌月には新たなスタートを切った。ヘッドコーチはホーバス氏から恩塚亨氏に代わり、若手主体のチームは9月のアジア選手権で史上初の5連覇を達成した。本書は新生ジャパンについても抜け目なく選手たちに聞いていて、先のオリンピックだけでなく、今後のジャパンも「楽しみにしたい!」と思わせる内容。ぜひ手にしてバスケの魅力に浸ってほしい。
おわり
2022年4月公開