二宮 中林先生は1969年生まれで新潟・十日町市のご出身。小学生のころから既にボクシングファンだったという情報がありますが。
中林 きっかけは具志堅用高さんなんです。
二宮 どのようなきっかけが?
中林 1978年8月にノンタイトル戦を終えてその2週間後に十日町に合宿でやってきたんです。10月に世界タイトル(WBA世界ジュニアフライ級)6度目の防衛戦があったので。
二宮 試合後2週間でもう合宿って凄いですね。昔は試合間隔も短かった。
中林 そのときにサイン会があって、僕もサインしてもらって「キミもチャンピオンになれるよ」って声を掛けてもらって。そこからボクシングに興味を持って、テレビ中継があれば必ず観るようになっていきました。サイン会の光景は今もよく覚えています。襟を立てたスケスケのシャツで、具志堅さん自体がきらびやかで。
二宮 オーラを感じたんですね。具志堅ファンが多いのはもちろん強いということもありますけど、具志堅さん本人のあのキャラクターもあるからだろうなと今聞いていて思いました。
十日町市で開かれた具志堅さんの激励会。貴重な写真です
中林 テレビで観るだけじゃなく、昔から後楽園ホールにも行っていました。
二宮 えっ、新潟からですか?
中林 母の実家が東京だったこともあって、最初、父親に連れていってもらったことも記憶に残っています。どのボクサーだったかは分からなかったけど、とにかくパンチが当たる音が凄くて。上のバルコニー席から立ち見でしたね。
二宮 バルコニー席からの観戦とはツウですね。お父さんもボクシング好きだったのですか?
中林 父は歯科医師で、あるボクサーのマウスピースをつくってサポートしていたそうです。そういう縁もありました。
二宮 先生はボクシングを実際にやってみようとまでは?
中林 中学まではアルペンスキーをやっていましたけど、ボクシングは完全に観る専門でしたね。
二宮 歯科医師を目指して日本大学松戸歯学部に進学されます。後楽園ホールが近くなりますし、ボクシング好きがエスカレートしていくのではないでしょうか。
中林 まず大学に合格してお祝いのお金ももらったので、東京ドームでマイク・タイソンの試合を観戦したんです。
二宮 1988年3月のトニー・タッブス戦ですね。
中林 5万円の席でしたけど、リングまでかなり遠くて(笑)。
二宮 海外のボクシングも好きだったんですか?
中林 それはもう大好きでした。黄金の中量級にバリバリはまりまして、僕は完全にシュガー・レイ・レナード派。WOWOWの「エキサイトマッチ」も初期から観ています。
後楽園ホールのバルコニーが、中林さんのお気に入りの場所
二宮 当然、後楽園ホールにも足を運ぶわけですよね。
中林 月に2回は必ず。学生ですからお金はないので、それこそ上のバルコニーの立ち見で観戦しました。
二宮 お父さんと初めて観た場所が〝指定席〟になる、と。
中林 バルコニーだとリングを上から見ることができるんです。上からの角度ならボクサーの足の動きがはっきりと分かるし、両方のセコンドも見える。この角度は後楽園ホール独特。横断幕を張った人がそこで応援したり、カメラマンがいたり、立ち見なのでタイトルマッチとかになると観戦できる場所に入っていかなきゃいけない難しさもある。でも僕はあの場所が好きなんですよ。
二宮 今、記者席も新型コロナウイルスの感染対策でバルコニーにあるんですけど、僕も昔からバルコニーで見るのが好きでした。試合全体が良く見えますし、あと、取材したい関係者がどこにいるかも把握できますから(笑)。
中林 下からの角度は、テレビ中継があれば後でそれを見ればいいわけなので。
二宮 上から観戦してテレビでは別角度から。かなりマニアックです(笑)。当時好きだったボクサーで言うと?
中林 勇利アルバチャコフですね。そのときはチャコフ・ユーリ、ユーリ海老原のリングネームでしたけど、最初に見たときの衝撃は忘れられません。凄いボクサーが出てきたなって興奮しましたよ。
二宮 オルズベック・ナザロフらと一緒に日本にやってきて、いくらアマの元世界チャンピオンだと言ってもプロデビュー前はそこまで注目度が高かった感じはなかったですよね。
中林 今、絶頂のボクサーというよりも次に来そうなホープを発見するのが僕は好きでしたね。
二宮 お父さんが地元の十日町市で経営する歯科医院をいずれ引き継ぐという青写真があったと思いますが、歯学科は6年制。それからもしばらくは東京にいたんですよね。
中林 計10年、大学で勉強をする一方で月2回の後楽園ホールでの観戦もそうですけど、ボクシングだけはずっとチェックしていましたね。十日町に戻って歯科医院をやり始めてからも月に1度は必ず後楽園に行くようにしていました。
二宮 休みじゃないと行けないですよね。
中林 木曜日の午後、土曜日の午後、そして日曜日が休診なんですけど、観たい興行が結構木曜日にぶつかって、午後に新幹線で移動して試合を観戦して最終で帰るということも普通にやっています。それは今でも(笑)。
二宮 ボクシングへの情熱、ハンパないです(笑)。
※写真はすべて中林靖さんからの提供写真です
2022年2月公開