2021年のワセダは勝負強い――。
そんな評判がささやかれていた。関東大学サッカーリーグ1部開幕戦となった4月3日の拓殖大戦に1-0で勝利すると、筑波大、慶應大にも〝ウノゼロ〟で3連勝を飾ったのだ。3戦目の慶應大戦は清水エスパルスへの入団が決まっているエースの加藤拓己が奪ったゴールをしっかりと守り切った。
就任4年目となる外池大亮監督はSNSでこう綴る。
「この”ウノゼロ”は、決定機を逃がさぬ攻撃陣と、事故のような失点すらも許さぬ守備陣により成し遂げられる。この結果は、チーム全体に対し、4年生中心に全部員がしっかり支えようとする意識の繋がりから生まれている」
実際、手応えは感じていた。
2021年のリーグ戦を振り返ってもらう今回のインタビュー。46歳の指揮官はその冒頭、かなりの期待感を持ってシーズンに臨んだことを明かしている。
「ちょうど僕がワセダに来たときの1年生が最終学年になりました。今まで築いてきたワセダらしさの延長線上にありましたし、結構やれるんじゃないかなと。ただ、昨年主力だった選手がケガでいない時期もあったので、何とかやりくりしながらという戦いではありました」
昨年までAチームの経験がない4年生GKの抜擢など、チーム全体の力が3連勝の背景にあるのだと、外池はSNSを通じて強調したかったに違いない。
だが、続く4戦目の立正大戦(4月28日)でちょっとした違和感を覚えるようになる。
青森山田高から入学したスーパールーキー、安斎颯馬が後半26分に先制点を挙げて、いつものようにこのまま逃げ切るかと思いきや、2点目を奪おうと前に向かったところをカウンターでやられてアディショナルタイムで同点に追いつかれてのドロー。自分たちで連勝を止めてしまった。
これまではみんなでチームにベクトルを向けていたのに、〝オレはもっとできる〟といつしか自分に向ける部員も出ていた。
まとまってようやくウノゼロで勝ってきたのに、背伸びしてチームと自分を見失ってしまえば、どうなるか。
外池はチームにそのシグナルを送りつつも見守ることにした。ここに気づければ、選手にとってもチームにとってもそれが成長につながるからだ。
開幕3連勝の勢いは、かすみ始めていく。勝ち切れない試合が続くなか、6月26日に前期最終節となる明治大との一戦を迎えた。2連覇中の絶対王者であり、昨シーズンはリーグ戦で一度も勝てていない。成長を示すには、これ以上ない相手だ。
場所は千葉・成田にある中台運動公園陸上競技場。有観客が認められたこともあって、コロナ禍で声は出せなくとも部員が応援に駆けつけることができるのはかなり大きいと外池は考えていた。
しかし—―。
試合当日、指揮官はスタンドの光景に目を疑った。応援に来ると思っていたワセダの部員たちがいなかったのだ。対するメイジは、駆けつけているのに……。
4年生から「ほかのメンバーはオンライン観戦にしました。明日(27日)にはインディペンデンスリーグの試合もあるのでコンディションを考えました」と報告があった。そこでは何も言わないことにした。
試合は0-3完敗。前半15分に先制され、反撃に出ても流れをつかむには至らずに失点を重ねた。外池からしてみれば、必然の完敗だと捉えることができた。
試合後、厳しい顔つきのまま選手に語り掛けた。
「リーグ戦に勝る優先順位はないし、リーグ戦を勝つってそんな簡単なことじゃない。お前たち、大事なものを失っていないか」
言葉には怒気が含まれていた。
部員はリーグ戦に出るトップチームに入ることを目指し、そこで優勝することを目指す。試合に出られなくても、メンバーに入らなくても一緒になって戦う。だからこそ試合に絡むメンバーたちはみんなの思いを背負って、持てる力を振り絞って戦うことができる。いや、そうじゃない限り、優勝なんてできやしない。その成功体験を、彼らは1年生時にナマで体験している。それなのに……。
インディペンデンスリーグを軽く見ているわけでも、そこに出場する選手のことを考えていないわけではない。ただ、根幹にある軸を見なければ、すべてが崩れてしまう。スタンドで応援しないというそのスタンスから、チームよりも自分にベクトルを向ける現状が浮かび上がっていた。
外池が振り返る。
「トップチームとの関わり合いをみんなが持つことによって、チームは大きな姿で体現することができます。これを伝統的にやってきたはずなのに、〝トップチーム以外もみんな試合がありますから〟と外に向いてしまっては組織全体の力が出せない。全体としての〝チーム〟なのに、それぞれが違うところを向き始めたらどうなってしまうか。僕としてはそのままにしておくことはできませんでした」
7月に入るとエースの加藤が練習中に左ひざ前十字じん帯断裂の大ケガを負い、長期離脱を余儀なくされることになった。復帰が遅れている主力選手もいた。新型コロナウイルスの陽性者が出たことで活動休止の時期もあった。
浮上するか、それともこのまま沈むのか。
ワセダはその分岐点に立たされていた—―。
2021年12月公開