大好きなスニーカー界で、チャレンジしたい!
その想いは人を呼び、そしてチームができ、アイデアが生まれました。いよいよ実現へ向けて動き出します。
前回のミーティングで、チームの第一手としてスニーカーのかかと部分に貼り付ける「ヒールプロテクター」の製造・販売という目標を設定しました。早速コーディネーターが中国の関係者と連携し、まずは現在流通しているヒールプロテクターを取り寄せることに。
待つこと数週間、コロナ禍で厳しくなった国外からの輸送でしたが無事手元にやってきました。ヒールプロテクターの原材料は、ゴム。エア・ジョーダン1やダンクといった、今最も流通量および取引量が多い人気モデルの足裏にマッチする形状で作られています。その裏部分に接着剤が貼付されており、シールを剥がしてそのままペタッと靴裏に貼るというもの。
これは画期的なアイテムだと思いました。
簡単に貼るだけでカカトの減りを防ぐことが出来るのです。スニーカーのアイテムでは“手軽さ”というのも大切な要素だったので、事前にこのハードルをクリアしているのは評価できるポイントといえます。
ただ、一方で多くの問題、つまり我々にとっては差別化のポイントもありました。例えば色味は、ジョーダンやダンクのソールとは完全には一致していないので、どうしても「なにか付いている感」が出てしまっていました。また、予め貼付されている接着シールの強度も弱く、数時間歩いただけでズレてきてしまいます。特に夏場では路面温度も上昇するので、接着シールの強度は強くなければいけません。
こうして現状のサンプル品を分析したことで、
・ソールの色を完璧に踏襲したラバー
・ちょっとやそっとじゃ剥がれない接着シール
という点を国内生産でクリアすることが、キーポイントだとわかりました。裏を返せば、これが実現すればまだ世の中には存在しない、ソールの色と完璧にマッチした手軽に貼れて耐久力のあるヒールプロテクターが完成するということです。チームのテンションも上がってきました。
コーディネーター、奔走する
少しずつ現実味を帯びてきた事業、ここからはコーディネーターの出番です。
①様々な色が出せるラバーを作れるところ
②強度の高い接着シールをつくれるところ
この2社を探すというミッションが始まりました。彼の拠点が関西だったこともあり、大阪周辺から様々な会社を当たってくれました。まず動きがあったのは、接着シール。なんと泣く子も黙る世界的なシールメーカーの「3M」さんにいきなりヒットしたのです。早速コンタクトをしてもらったのですが、なかなかヒールプロテクターの形状にマッチし、接着力を維持できるようなものはなく、様々なサンプルを送ってもらい試したのですが結局うまくいきませんでした。
他にも様々なメーカーのものをテストしてみてはうまく行かず、試行錯誤に疲れてきたある頃、コーディネーターが「そういえばコニシも大阪ですね、ちょっと当たってみます」と言いました。コニシとは、あの黄色い木工用ボンドで有名な会社。ボンド事業だけでなく、そこから土木建設や化成品まで手広く行う大企業です。そんなコニシさんのボンドは、接着シールにも応用されており、建設業では結構幅広く使われているのだそう。
早速コーディネーターがコンタクトを取り相談したところ、合いそうなものはいくつかあるとの回答がやってきました。ひとまずサンプルを依頼し、到着を待つことに。
さて、こうして少し見えてきた接着シールの一方で、ラバーメーカー探しは難航していました。コーディネーターの尽力で大阪エリアを中心に色々な会社を当たってみたものの、コロナ禍ということも合って先の見えないチャレンジに乗ってくれるところはありませんでした。
東京の方でもヒアリングしたり、周りの友人に聞いて回ったりするなど、チームで探し続けること数ヶ月。念願のパートナー候補が見つかったのは秋のことでした。そしてそれは、わたしの人生を大きく左右することになる出会いでもありました。
決死のアポ、人生の出会い。
秋も深まったとある夜、毎週恒例と化したチームのミーティング中にコーディネーターから「やっといいところが見つかった」という話がありました。
それは神戸・長田にある由緒あるラバー会社で、コーディネーターがダメ元で問い合わせたところ、一度話を聞きますと言ってくれたのだそう。この戦いは、絶対負けられない…!!ということで、コーディネーターの案内のもとチーム全員で神戸に直接乗り込むことにしました。
事前段階で、既に製造自体の対応は問題ないということは聞いていました。先方は社長も参加されるとのことだったので、つまり一緒にビジネスを進める相手がふさわしいかどうか、きっとそんな判断をされるのでしょう。であればこちらも総動員で挑まねばなりません。ここが解決すれば、一気に実現まで加速します。
そして11月、神戸へと向かいました。
以前訪れたのは、新入社員だった頃にサッカー日本代表の試合運営でノエビアスタジアムに行った時だったので、もう10年以上前のこと。
道中の車の中でふと横を見ると、宅万さんも少し緊張している様子。そんな普段見ることが出来ない顔を見れて少しうれしくなり、そしてまたこの場をしっかり決めるのは自分の役割だなと再認識。曲がりなりにも新卒から広告代理店で働き、逃げ出したくなるようなプレゼンテーションは何度もありました。そんな経験を思い出したら、心も体もスッと楽になり、終わったら何食べようかなと考えるくらいのゆとりは持てました。今までの自分、本当にありがとう!
大阪から1時間ほど車に乗り、目的地に到着しました。
株式会社富士高圧、神戸・長田に戦後から構える国内有数のラバーメーカーです。
迎えてくれたのは、コーディネーターとやり取りしていた専務の方。応接間で待つこと数分、
「はじめまして!社長の東田です!」
静寂を切り裂く快活な声で入ってきたのが、富士高圧の社長である東田文太郎さん。チームの紹介、実現したいビジネスとそのビジョンを語る私の声に真剣に耳を傾ける、東田社長。ひとしきりディスカッションをした後は、富士高圧がこれまでに手掛けてきたソール事業の話や、今回のForefootのプロダクトの実現度を東田社長自ら説明してくれました。
チームが目指すヒールプロテクター、それはナイキの人気モデルエア・ジョーダン1やダンクに付けられるもの。特に赤や青といったカラーは「バーシティレッド」「ロイヤルブルー」というネームングとしてアイデンティティになっているので、下手な色ではリリースできません。
これが我々の最大の懸念だったのですが、東田社長に言わせれば「うちならできる!」という言葉で終わり。それを裏打ちするかのごとく見せてくれたのは、事前に作成頂いていたカラーサンプル。最初に手配した中国製のサンプルでは逆立ちしても出せないような完璧な色味に、チーム一同仰天でした。
そんなサンプルを踏まえ熱い話を繰り広げてあっという間に2時間が経ち、最後に東田社長から、「是非やりましょう!」というお言葉をいただくことができました。ミッションコンプリートです。
どこの馬の骨かもわからないチームがいきなり飛び込みで相談し、それを怪しむこともなく(怪しんでいたのかな?)門戸を開いてくれた富士高圧の皆様。そして話を最後までしっかり目をそらすことなく聞いてくれ、そして導いてくれた東田社長には感謝しかありませんでした。
こうして、数ヶ月にもおよぶパートナー探しは無事終了。
これでいよいよ、Forefootの事業が実現できることになりました。
「山手くん、ちょっと東京でも会えるかな?」
渾身のプレゼンテーションを終えた後に、東田社長から個別にかけられたこの一言。実はこの日は、Forefootのプロダクトが前進しただけではありません。東田社長からの依頼で、私が富士高圧のブランドマネージャーとしての役務に就くきっかけにもなった日なのでした。
出会いはまた新たな出会いを生む。
チャレンジはまた新たなチャレンジを生む。
これだから人生はたまらない。
好きを仕事に。 『恋するスニーカー』番外編 episode1 おわり
2021年12月公開