「私達4人とカラオケ、12万でどうですか?」
みなさんご存知、映画「ラブ&ポップ」(1998年)からの一言。女子高生の援助交際をテーマにした村上龍の同名小説を、エヴァンゲリオンでおなじみの庵野秀明監督が、実写としては初めて手掛けた作品。
映画の中身を簡単に言うとエヴァ、変態、仲間由紀恵。
ひとり語りのモノローグ、テロップやクラシック音楽の入り方。好きな人ならすぐに解る、エヴァンゲリオンを彷彿させる庵野節とでも言うのでしょうか。軽く酔ってしまうほどの変態的なカメラワークも監督の「構図」へのこだわりを感じます。
援助交際をもちかけるオジサン達が今となっては同年代として恥ずかしいやら情けないやら。冒頭のセリフのように、カラオケするだけでこの値段(実際はカラオケだけではないのですが)をこの時代の人は平気でやり取りしていたのでしょうか。バブルというのは恐ろしい時代。
オジサン役には渡辺いっけい、手塚とおるにモロ師岡。さらには浅野忠信といった役者陣が気持ち悪い中年達を演じております。
そして最後にこの映画の白眉。主人公の女子高生グループの中には売出し中の仲間由紀恵が。
仲間由紀恵が仲間由紀恵として完成され、圧巻のオーラを放っております。これだけでも一見の価値あり。
部活ってキツイっすよね。
さて、今回の「SPOALの本棚」は援助交際とスポーツのつながりというテーマではもちろんなく、三羽省吾著、「厭世フレーバー」(2005年 文藝春秋)をご紹介しましょう。
リストラされた父親の突然の失踪後、残された5人の家族のそれぞれの物語をポップに描いた作品。
第1章、14歳の次男ケイは駅伝大会の代表に選ばれそうな実力を持ちながらも陸上部をやめ、家計を助けるためというよりは自立するため新聞配達のアルバイトを始めます。
中学生にとって、部活というのは自分の周りを形成する数少ない重要な要素の一つ。それを辞めてしまうというのは相当勇気がいることじゃないかと。
私の中学時代には「部活を辞める」という文字は辞書に載っていませんでした。
一度入ったら絶対に辞められないシステムというか雰囲気。「水を飲むな」と同じで、今思えば何だったのでしょうか?
第2章、17歳の高校生の長女カナは優等生キャラをやめ、毎晩毎晩、帰宅が遅くなり、援助交際の噂まで立つ始末。冒頭の「ラブ&ポップ」では“テレクラ”や“伝言ダイヤル”がツールの一つでしたが、時を経て“出会い系サイト”が登場。実は帰宅の時間を遅くするためアルバイトをしているのですが、このアルバイト先のおでん屋が後々効いてきます。
第3章、27歳の長男リュウ。第4章、母42歳の薫。このあたりから家族の複雑に絡み合った関係が明るみに出始め、そしてラストの第5章、祖父73歳の新造の章で全ての謎が明らかに。
ちょっと変わった家族の面白話という枠を飛び越え、その時代、その時代のあおりを受けつつも脈々と受け継がれる「家族の本質」を考えさせられる作品に。
部活を辞めようかと思っている中高生、また思春期のお子さんを持った親世代にも是非読んでほしい一冊です。
終
2021年12月公開