バルセロナはスペインのカタルーニャ州の州都にして、サグラダファミリアやグエル公園、地中海を望む港など世界有数の観光地として有名な街です。中でもFCバルセロナのホームスタジアム、カンプ・ノウはサッカーフリークにとって、一度は足を運んでみたい聖地のよう場所です。今回の欲張りツアーを企画するときに絶対に外せないと思ったのが、このカンプ・ノウでした。
バルセロナではドルトムントで知り合った編集者の方と行動をともにする約束をしていました。何度もバルセロナに行ったことがある方の存在は心強いものです。宿で落ち合うと初バルセロナを祝ってくださるということで、早速、カタルーニャ広場に繰り出し、ちょっとお高めのレストランへ連れていってもらうことになりました。
思えば、海外出張でまともな食事にありつけたのはこの日が初めてだったように思います。それまでは空腹を満たすためにファーストフードをビールやコーラで流し込むような食生活で、レストランと呼べるような場所へ行こうと思ったこともありませんでした。
しかし、初めて食べた本場のパエージャに感動し、美しく陳列されたバルのピンチョス(一口サイズのおつまみ)には心が踊りました。この経験から初めていく土地ではなるべく現地でしか食べられないものを、一度は試すように心がけるようになりました。ちょっとだけ大人の階段を登った瞬間でもあります。
さて、肝心の試合です。僕が行こうと考えたのはリーガの一戦で、バルセロナが対するはデポルティーボ・ラ・コルーニャでした。デポルティーボといえば、この数年前に人口25万人の足らずのローカルクラブでありながら、バルセロナ(160万人)やマドリード(300万人)のような大都市のクラブを破ってリーガを制して、スーペルデポルと呼ばれて話題になったクラブです。
ただでさえカンプ・ノウでバルセロナが撮れるのに、その対戦相手がデポルティーボですよ。クラシコとまでは言えませんが、欧州初心者にとっては最高の舞台です。いくつかある最寄り駅の中から選んだマリア・クリスティーナ駅からスタジアムへ向かう人並みに乗る足取りが軽かったのをよく覚えています。もしかしたら、前夜に味わった絶品料理と美酒の余韻が影響していたのかも知れません。
あれ? なんかいい思いだけしてない? そんな自慢話なんてどうでもいいんだけど? と思ったあなた! すっかり僕のドタバタ劇に魅了されていますね。ご安心ください。しっかりとあります。トラブル、はい。
ウッキウキで到着したプレスや関係者のパスを発行する受付に到着したときのことです。
受付「あなたの名前はないわ、次の人どうぞ」
(スペイン語はまったく分からないので、完全な脳内変換)
差し出した申請書のコピーと取材者リストを見比べた受付の女性はそれ以降、正真正銘に固まっている僕には見向きもしてくれませんでした。
ま、まじか、、、。ここまで来て、そんなことってあるのか、、、。
実はこの日の取材について一抹の不安がなかったわけではありません。前夜に編集者の方と食事をしているとき、取材OKの連絡がないことを相談したところ、お断りのときだけ返事くることもあるから気にしないで大丈夫でしょ、と言われていたのでそれからは考えないようにしていたのです。
今回、バルセロナ以降の取材申請はお世話になっていた雑誌の編集者さんに申請をお願いしていました。しかし、この雑誌は創刊されて2年に満たない媒体であったこともあって、媒体としての認知力が弱かったのか、海外での取材申請に慣れていなったのか、その真意はわかりませんが、結果として、人気カードだから定員オーバーで断られたのか、申請書がそもそも届いていないのかすら分からぬまま門前払いを食らってしまったのです。
行きはあれほど軽かった足取りですが、チャントを歌いながらカンプ・ノウに行進するサポーターの波に逆らう形になったこともあり、ズッシリと肩に食い込む機材の重さばかりが気になる帰り道になってしまいました。
すっかり意気消沈してしまった僕を励まそうと、翌日には同行していた編集者さんが僕を市内散策に誘ってくれました。サグラダファミリアやグエル公園を巡り、夕方にはモンジュイックの丘にやってきました。
モンジュイックの丘はバルセロナ市内の南側にある小高い丘で、かつては街を外敵から守るためのお城が建設され、そのお城はフランコ独裁政権下では政治犯の収容所や銃殺場として利用された暗い過去があり、バルセロナ五輪のベニューとして整備されるなど、バルセロナを語る上で忘れることのできない要所です。
丘にはケーブルカーもありましたが、この日は歩いて登ることにしました。軽く息があがりながらモンジュイック城にたどり着くと、そこにはバルセロナの街並みが一望できる大パノラマが広がり、美しい夕日が傷心の僕を優しく包み込んでくれたのでした。
続くッ
2021年11月公開