———BMXレーシング
Photo by 龍フェルケル
「BMXは一回のレースで狙える場所は一箇所だけです。ただレースの本数は多いので、ロケハンをしたときに『ここでこう撮ろう』と決めて、そこで狙い続けました。
何本かレンズを試したのですが上手くハマらなかったので、スローシャッターも試しましたが、それも違いました。そこで多重露光を試してみることにしました。多重露光は複数回シャッターを切って、それを一枚の写真にする技法です。通常、多重露光はアングルを固定して、被写体の動きを分解して見せたいときに使うのですが、私はシャッターを切る度に少しずつ縦に動かしてみました。
こうすることで1本の手すりが、壁のように見えて面白いんじゃないかと思ったのですが、それに気がついた時点で残りのレースが3本になってしまいました。このアイデアのポイントは手すりを均一に表現することです。そのためには一定のスピードでカメラを動かしながら撮らなければなりません。レースの合間で何度も練習をして、少ないチャンスで決めなければならなかったので、その緊張感が楽しかったです。
あともうひとつのポイントは選手たちがバンクのどこを通るのかも重要でした。インコース気味に走ってしまうと、被写体が小さくなってしまうので、アウト気味に膨らんでいることが大切です。これはレースの展開次第なので、違った緊迫感も楽しめました」
———BMXフリースタイル
Photo by 龍フェルケル
「この会場では私が撮っていたポジションの反対側が人気でした。そこから撮ると5色の五輪と跳んでいる選手が一枚の絵になるからです。ただ人と同じことをしたくなかったので、自分なりにポジションを探ることにしました。
この会場のフォトマネージャー(フォトグラファーを仕切る役職)が前日のBMXレーシングのときと同じ方で、すでに意気投合していたこともあってこのポジションで撮影して良いのか聞いたら許可をもらえたので、ここでも思い描いている瞬間が撮れるまで粘りました。
こだわったのは自転車の向きです。被写体が小さくなる構図なので、自転車が縦回転してしまうと何をしているのか分かりません。そこで横回転するトリックをする選手を待ち続けました。選手によってトリックも違えば、ジャンプの高さも違います。選手がコースのグレーの部分にハマらないと見にくい写真になってしまいます。
最終的に残ったのがこちらの写真なのですが、個人的に気になるのは被写体が少しだけグレーの部分からはみ出していることです。写真にすればホンの数ミリですが、すごくイライラしますね。この前後の写真は自転車の向きが悪かったり、高さが足りないんです。なので、今もまだ少しモヤモヤしてます(笑)」
———バスケットボール3×3
Photo by 龍フェルケル
「これは準決勝での写真なのですが、真夏にしては影が長く伸びる午前の早い時間帯に競技が始まったので影を利用した絵作りを心がけました。こうしたイメージ的な写真は雰囲気だけ撮るのは簡単ですが、それだと物足りないので選手たちの動きと影の形、バランスなど色々と考えなければいけません。
ずっと晴れているだろうと思っていたのですが、すぐに曇ってしまったんです。ゆっくりブラッシュアップしていけると思っていたのに、開始5分で急に雲がガーッときて終わり、みたいな(笑) この写真はその中から選んだベストの1枚です」
———スケートボード・パーク
Photo by 龍フェルケル
「この会場はもっと広いのですが、広角で撮ってしまうと余計なものが写り込んでしまうので、シンプルに被写体とオリンピックマークだけを切り取る構図を模索していました。で、目を付けたのはイギリス人の彼女です。この場所で跳んでいるのが彼女しかいなかったんですね。
あとはパークの起伏が分かりやすいようにコントラストを高めにして撮ることを心がけました。影のバランスも考えたかったのですが、太陽の向きと高さの関係もあって、なかなか思い描いたような分かりやすい影になることはありませんでした」
———クライミング
Photo by 龍フェルケル
この写真は多重露光を利用した写真です。アイデアをくれたのは日本代表の外国人コーチでした。彼とは代表チームがヨーロッパ遠征でやってきたときに仲良くなって以来、よく話をするようになっていました。
その彼が「この課題はテンポよく進んでいくから、龍がこの前やっていた表現(ここでは多重露光を指します)がハマるんじゃないの?」と。
本当は三脚が欲しいところですが、フォトグラファーは一脚しか使ってはいけないので、プルプル震えながらカメラを支えて撮りました(笑)
この写真は彼がアドバイスをくれなかったら撮らなかったので感謝してます」
———体操
Photo by 龍フェルケル
ここはオリンピックのために新設された会場なのですが、フォトポジションが限定されてしまってかなり苦戦しました。そこで天井の形が面白いことに気がついて、利用できる種目を探しました。
目をつけたのはちょうどいい場所に設置されていた吊り輪です。被写体が小さくなってしまう構図でしたので、なるべく動きが大きくでている瞬間を狙うようにしました。
———障害馬術
Photo by 龍フェルケル
6歳になる娘が馬が大好きで「撮ってきて」と頼まれたのですが、スケジュールを確認したら最終日にいけることが分かったので行くことにしました。まずビックリしました。馬が大きくて(笑)
このときは180°写せるフィッシュアイレンズを持ってきていたのに、ほとんど使っていないことを思い出して、せっかく持ってきたのだから使うことにしました。
撮り方は色々あると思います。流して撮ったり、障害を跳ぶところを狙ったり。ただもう少しルールを知っていたら、撮れた瞬間はもっとあったと思います。他のフォトグラファーはリモートカメラで撮っている人もいたのですが、その発想が私にはなかったので次は準備をしていきたいと思います。
———最後に3年後にはかつてお住まいだったパリにオリンピックがやってきます。意気込みはありますか?
「今回はコロナ禍という特殊な状況だったこともあり、準備不足だったと思います。知識不足で失敗をすることも多かった。しかし、新しい発見も多かったです。これから撮りたいと感じた競技もあるので、ゆっくり考えたいと思います。
ただオリンピックは誘惑が多いですね。色々な競技が同時進行するので(笑) エージェンシーのフォトグラファーは決められた競技を撮り続けるので大丈夫だと思いますが、自由に選べる立場だからこそ、しっかりとテーマを決めて臨まなければ、結果として中途半端になってしまうと思うので、今度は写真集を作れるくらいのテーマを決めて撮影に望みたいですね。
昨夜の閉会式でも明らかになりましたが、パリ大会は観光名所を活かした運営です。エッフェル塔でビーチバレーやベルサイユ宮殿で馬術など魅力的な演出だと思いますが、狙いたくなる絵がすでに見えているとも言えます。
だからこそ、その裏をかかなければいけないと思います。みんなをアッと言わせるようなアイデアが欲しいですね。そのためにも今回興味を持ったスポーツを追いかけてみてインプットする期間を大切にしようと思います。
あ、その前に来年のカタールでワールドカップがあるので、そこで3冊目の写真集を頑張りたいです(笑)
2021年8月公開