———撮影していて難しいと感じた競技はありますか?
「水球は選手もそうですが、不規則なタイミングで水しぶきもあがったりして良い瞬間を狙うのが難しかったです。あと基本的に上からの撮影になってしまうので、ローアングルでの撮影が好きな私には難しかったです。ただ自ら水中に入って近くで撮れたら面白い写真が撮れるんじゃないかな(笑)
あと陸上はフォトポジションそのものが厳しかったです。プールフォトグラファー以外は外周に作られた掘り下げられた通路から撮るので、アングル自体は低くできましたが、プールフォトグラファーやテレビ中継用のステディカム、移動式のロボットカメラ、広告看板などが我々の視界を遮ることも多かったですね」
———実際に行ってみないと分からないこともありますよね。
「そうですね。陸上は会場内の動線も複雑で融通が効かないことがありました。例えば、外周を移動するときは反時計回りになっていて、第4コーナーから第3コーナーに戻りたいときは、グルっと一周しなければいけなかったのは『おいおい』ってなりましたね。
このフォトポジションを考えた人は、我々にどんな写真を撮らせたかったのかなと逆に聞いてみたくなりました。望遠レンズを使って遠くの出来事を記録するだけならできますが、みんなが同じような写真しか撮れないようでは、競技の魅力を視覚的に訴えることもできません。だから、陸上は男子100M決勝を撮った一日だけで断念しました。これなら他の競技を撮ったほうがいい写真が撮れると思ったので。
あと初見の競技には難しさを感じました。撮り慣れたスポーツだと、どこで何が起こるとか、そのあとの流れなども予測がつくのですが、初めてのスポーツだと、どのタイミングでリアクションがあるのか先を読むことができませんでした」
———競技を知らないと撮れない瞬間は多いですからね。
「はい。それは今回、すごく感じました。特にオリンピックのような舞台では勝敗が付いたときの感情の爆発やゆらぎのようなものを撮りたかったのですが、、。実際に写真を振り返ってみると撮り慣れているクライミングは良いリアクションが撮れていますが、そうじゃない競技はその部分がほとんど撮れていませんでした。悔しかったですね。本質に近いところを撮るには競技を知らなければいけないということを痛感しました」
———大会前から心配されたことでしたが、猛暑での大会はフォトグラファーにとっても過酷だったのではありませんか?
「むちゃくちゃ暑かったです。でも炎天下というのは長くて3時間くらいでした。帽子をかぶって、首に濡れタオルをまいたりしました。辛かったですが、そこは水分補給をして我慢すればいい話です。だけど、やっぱり室内競技に行ったときは救われました(笑) 特にフェンシング会場は寒いくらいでしたね」
———フェンシングは選手が全身スーツを着ているから、それに合わせて冷房を強めているのかも知れませんね。
「そうだと思います。フェンシングといえば、選手たちのテンションがあがるのが印象的でした。特に勝ったときの雄叫びは凄かったです」
———フェンシングは一瞬の空きに全神経を集中させる競技なので、溜め込んだ感情が一気に爆発するのかも知れません。
「だからこそ、観客がいたらなぁとも思いました。結局、行き着くところはそこなんですよね。観客がはいればもっと大きなドラマが生まれたかもと」
———撮影する上で観客は関係あると思いますか? 例えば、あえて構図に取り入れるようなことをしたりするのでしょうか?
「私は基本的には入れないです。ただ観客のリアクションにアップダウンがあることで、選手のテンションにも影響がでるので、その意味では大きな存在だと思います。今回はやはりエキシビションマッチを見ているようで、私が行った屋内競技では競技音だけが響き渡っている時間が長かったように思います。
テレビで見ているとそこまで感じないと思うのですが、現場にいるとその違いは大きく感じました。盛り上がれば選手もテンションが上りますし、それを撮っている私もアガります。そうすると自然といい写真が撮れます。
あと試合が終わった後にも影響がありました。選手の家族やファンが客席にいるとそこでリアクションが生まれます。キスしたり抱き合ったりプレゼントを渡したり。今回はそれもなく、選手たちも試合後は淡々と引き上げていくことが多かったので、競技中のアクション以外の写真が少なくなってしまったと思います。
———観客がいると競技の緊張感や興奮がスタンドにも伝播して、その空気がさらに選手たちにも伝わってより大きなウネリのようなものが生まれるのかも知れませんね。
「不思議ですよね。今までは観客がいるのが当たり前の中で写真を撮ってきたので、それがまったくないというのは変な感覚でした。先月、ユーロの撮影でアリアンツ・アレーナに行ったときファンの声援を聞いてドキッとなりました。久しぶりに聞いたなぁって。だから、耳をつんざくような声援が聞けるように早くなりたいですね」
2021年8月公開