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しぶさんぽシーズン4 VOL.2

斎藤佑樹も清宮幸太郎も地方球場で活躍した

1980年の都立国立はついにベスト8入りを果たし、甲子園まであと3勝のところまで勝ち上がってきた。このとき、国立の試合は準決勝まですべて昭島市民球場なのだが、言うまでもなく、西東京大会の試合は他の球場でも行われている。

必ず高校野球の会場となる府中市民球場

西東京のチームで甲子園を沸かせたといえば、近年では早稲田実業が有名だろう。思い出すのは“ハンカチ王子”こと斎藤佑樹、そして高校記録を打ち立てるホームランを量産して話題を呼んだ“怪物”清宮幸太郎ではないだろうか。

ピッチャーの斎藤は2006年の西東京大会で上柚木公園野球場に登場している。八王子市にある球場は、京王線南大沢駅から徒歩18分。多くの球児たちはJR八王子駅からバスで通う。早実など強豪校は学校のバスで乗り込むのだろう。

3年生エースの斎藤はこの球場で4回戦の都府中西戦に登板し、リリーフで2回1/3を投げた。準々決勝の東海大菅生戦も同球場で9回を投げ切り、7-3で勝利している。

同7月27日付け朝日新聞東京版には「攻守に支えられ完投 早実 斎藤投手」のタテ3段見出し。「調子はいま一つだった。仲間が支えてくれた」と殊勝に語っているが、被安打8の147球という数字から、苦しいピッチング内容が伝わってくる。

大会になれば球場脇は選手、応援団であふれかえる

斎藤の西東京大会の記事は、いわゆる“スター扱い”されていないが、対照的に清宮は地方大会の時点で完全なスターだった。中学時代にリトルリーグ世界選手権の優勝に貢献し、早実では1年生からチームの主軸で、甲子園でも活躍している。父親がラグビーの有名監督、清宮克幸さんというバックグラウンドもあったから、注目されるのも無理はなかった。

清宮が3年生になった2017年、シードの早実は3回戦から登場。このときの会場はダイワハウススタジアム八王子(冨士森公園野球場)だ。JR西八王子駅から徒歩15分、あるいはJR八王子駅からバス。広々とした球場はどうしてもアクセスの悪いところに立地する。

春のセンバツに出場していた早実は強く、清宮の実力は圧倒的だった。初戦の南平戦は清宮が先制ホームランを放って9-2の8回コールド勝ち。4回戦は同じ球場で芦花と対戦して14-0の7回コールド勝ち。清宮は7回に満塁ホームランを放ち、これは最多高校通算本塁打数にあと2本に迫る105本目のホームランだった。都立高が付け入るスキはまったくなかったのである。

06年の斎藤は準決勝から、17年の清宮は5回戦から戦いの場を神宮球場に移した。2人の神宮球場での活躍は後半に譲ることにしよう。

40年前、昭島のスコアボードにはゼロが並んだ

舞台は再び1980年の昭島市民球場─。

7月27日、第1試合で行われた国立と佼成学園の準々決勝は大変な激戦となった。佼成学園が2回に先制、国立が5回に追いついて試合は延長へ。国立のエース市川武史は13回、一死満塁のピンチをピッチャライナーからの併殺という奇跡的なプレーで切り抜け、18回を投げ抜いて1-1の引き分け。勝負は翌日の再試合に持ち込まれた。

28日付け朝日新聞東京版はもちろん身長168センチ、体重62キロという小柄なエース市川を称えた。ここまで5連投、4試合で完投している市川は「明日も力一杯投げます。連投? ちょっと疲れたけど大丈夫です」(朝日新聞東京版)と記者の質問に元気に答えている。

一夜明けると今度は国立の打線が奮起。佼成学園の2投手に15安打を浴びせて6-3で勝利をつかみ取る。エース市川はまたしても完投した。

 都国立、31年ぶりのベスト4
気迫の続投63イニングス 市川投手
佼成、追撃及ばず

7月29日付け朝日新聞東京版の見出しだ。ちなみに見開きページの右側には東東京大会の結果が掲載され、二松学舎と早実が決勝に進んだと伝えている。そう、この当時早実は新宿区にあり、東東京大会に出場していたのだ。西東京地区にある国分寺市に校舎が移ったのは2001年のことだった。

 一年生投手が奮闘
早実、帝京を投打で圧倒

なんてことはない見出しなのだが、「1年生投手」があの甲子園のアイドル、荒木大輔だと気づくとちょっと興奮してくる。「練習中、負傷したエースに代わって登板した一年生投手とは思えない心にくい投球内容だった」。まだアイドルになる前の荒木はこのように記事で評されていた。

昭島球場に6500人 都国立ついに決勝へ

7月30日、西東京大会の準決勝が行われた昭島市民球場には、超満員となる6500人の観衆が詰めかけた。まさか国立が甲子園に出るとは夢にも思わなかった高校野球ファンも、ここまでくると「ひょっとしたら」の気持ちが芽生えていたことだろう。

そして国立は期待にこたえ、堀越との投手戦を2-0で制し、ついに決勝進出を決めてしまう。またしても“小さな大投手”市川が完封勝利。散発3安打の快投だった。都立高が決勝に進出するのは2年前の東大和に続き通算3度目。決勝の相手は同じくノーシードから勝ち上がった駒大高に決まった。

30日付け朝日新聞東京版には、翌日の決勝に向けた国立と駒大高の監督コメントを掲載している。

都国立・市川忠雄監督「決勝戦は無欲で臨みます。駒大高とは四、五年前に練習試合の経験があるだけ。今大会でも一度もゲームを見たことがないので、どんなチームか、まったく知りません。おそらく駒大高さんは『いただき』と思っておられるんじゃないですか」

駒大高・涌井清監督「決勝戦まで残るなんて思っていなかったから、決勝のことはまだ何も考えていません。準決勝は三回目でしたが、決勝進出は初めてですし…。国立は投手がいいようだから、点がとれないんじゃないですか。相手のチームのことがよくわかりませんから、これからじっくり考えます」(ともに抜粋)

両監督とも本音はゼロという印象がして面白い

舞台はいよいよ決選の地、神宮球場に移った。

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2020年7月掲載

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