ゲスト 福田直樹(カメラマン)
パネラー 近藤俊哉(SPOALカメラマン)
パネラー 高須力(SPOALカメラマン)
司会 渋谷淳(SPOAL編集者)
「うまい写真だけでなく、ヘタな写真を見るのも大事」高須
高須 福田さんは編集を長くされていたから、いろんな人の写真を、うまい写真もボツ写真も見ているから、こういうのがいい、こういうのがダメというのが頭に入っていたので、写真を始めたときにスッとやれた要因なのかなと思いますね。僕もフォトエージェンシーで4年間、写真のセレクトのバイトをしてたんですよ。
近藤 最初から?
高須 大学出て1年間はバイク雑誌の編集者をしてたんですけど、これは違うと思って、スポーツの写真を撮ろうと思ったんですよ。それでエージェンシーに入って、昔のフィルムやネットの写真をセレクトして、キャプションをつけるという作業をずっとやってたんです。当時はサッカーが全盛で、月曜日になると世界中からドバっと写真が出てくる。
渋谷 かなりの量?
高須 ですね。そうやってたくさん写真を見ているとすっごいうまい人がいるんです。たとえばオールスポーツ(写真のエージェント、集団)。今はゲッティに吸収されたんですけど、ほんとにすごかったんですよ。圧倒的な写真のうまさというか。日本のスポーツ写真の「いつ、どこで、だれが、何をした」みたいのじゃなくて、ほんとに作品性が高くて、かつこれが有名選手の大きな舞台でそういう写真を撮ってくるというすごい集団だった。一方で、ものすごい下手な人もいる。
渋谷 ヘタな写真はスルーするわけですね。
高須 というかヘタな写真を見るってすごく大事なんです。これがヘタなんだと分かりますから。よく(写真がうまくなりたいなら)雑誌を見ろと言われましたけど、雑誌ってきれいなうまい写真しか載ってないじゃないですか。それだけ見てもうまくはならないんですよ。僕はそう思っているんです。あそこでうまい写真と下手な写真を4年間見たことで、僕がフリーになってある程度やれた要因なのかなと思ってますね。
福田 アメリカのスポーツの写真ってものすごくレベルが高いんですよ。
高須 高いですね。
福田 段違いに高いですね。使っている道具も違うし、撮り方も違うし、一人ひとりのステータスというか、考えているレベルも高いんですよ。日本とは相当違うと思いますね。
高須 たとえば野球とかでも日本だと撮れる場所って限られてくると思うんですよね。アメリカだとカメラマンが「ここから撮ったら最高の写真になるから、ここで撮らせてほしい」とか交渉するんですよ。キャットウォークみたいなところとか、理由をちゃんと説明して、それが通れば、それいこうぜみたいな感じで協力してくれるんですよ。日本だとそこは危ないとか、保険に入ってますか?とか、全然写真を撮らせてもらえないというか。
渋谷 みなさん平等にお断りしてるんです、みたいな。
高須 そうそう。
福田 ポケットウィザードを使って天井から撮ったりとか、いろいろなことをやってますよね。無線の撮影ですね。同調させて上から撮ったりするんです。
近藤 バスケのNBAのゴール裏から撮るのがそうですね。ダンクの迫力のある写真とか。
渋谷 それってけっこう昔からあるんじゃないですか?
近藤 だれかが始めたということですよね。カメラが進化したというのもあるけど。あそこにカメラを仕込みたいと考えた人がいたというのがポイントですよね。
福田 ボクシングでいうとパッキャオvs.ハットン(2009年5月2日、ラスベガスMGMグランド)のときに、パッキャオがハットンをバーンと倒した。あれを真上から撮ってすごくはまったんで、みんな一斉に始めたというのがありましたね。
高須 もしそういうのが日本でOKになるとしても、できるのはオフィシャルだけとか、スポンサー絡みだけとか限られた人になるんだけど、アメリカでNBAだったら日本のフリーランスの人がアピールしてもタイミングが合えばOKが出るんですよ。
近藤 日本なら高須さんにOKなのに何でオレにはOKじゃないんだ、という話になっちゃったりするから、許可するほうも一律になっちゃうんでしょうね。
福田 アメリカでは広報が前日に「ポケットウィザードつけますか?」とか聞いてくるんですよ。ぼくは一人なんで使ったことはないんですけど。助手がいるとやり取りしながらできるんですけど。それに心配性だからあんなやぐらの上にカメラをつけて、落ちてきてメイウェザーにあたったらどうしようとか思っちゃいますね(笑)。
渋谷 近藤さんはまた違った経歴ですね。
近藤 そうですね、僕は普通に大学の商学部を出て、そこから専門学校に行って、文藝春秋に98年くらいにアルバイトで入って、スポーツ写真というジャンルがあることも知らなかったんですよ。カメラマンはアイドルから事件までなんでも撮るものだと思ってましたから。そうしたら違いましたね。
渋谷 確かにそうですね。
近藤 先輩たちがフィルム、ポジで撮ってくるんですけど、それを切るのを手伝わされて、連続で撮った写真があって、「あ、ここなのか」というところを見たりして勉強になりましたね。それを4、5年やってカメラマンになったんですけど。僕はスポーツだけじゃなくて、化粧品を撮影したり、いろいろやりましたね。
「張り込みでは服に穴をあけて隠し撮りしたことも…」近藤
渋谷 張り込みもやったとか?
近藤 それは言えないですけど(笑)。
福田 スリルありそうですね。
近藤 いや、ただ建物の入口をずっと見てるだけとかですね。
福田 分からないからちょっと興味ありますね。
高須 大変ですよ。
福田 福山雅治の映画でカメラマンのありましたね。「SCOOP!」でしたっけ。
近藤 あれはちょっと大げさではありますけど、ああいう感じですね。望遠レンズだったり、カメラを服の中に隠すとか、道具を作らなくちゃいけないんですよ。
渋谷 作るんですか? 探偵みたいですね。
近藤 作りましたよ。服に穴あけたりして。カメラマンというより探偵の仕事ですね。スポーツと全然違うんですよね。
2020年1月公開