WWEのスーパースター、SHINSUKE NAMAMURAの2年ぶりとなる参戦を実現させた2025年元日の日本武道館大会。5088人の観客を動員し、そのなかには小中学生らしき子供たちの姿も目立った。
現在、プロレスリング・ノアは一部の大会を除いた小中学生の無料観戦サービスを実施している。当日対応のみでチケット完売の際は利用できないが、子供たちの観戦数は明らかに増えた。高校生にも割安の「高校生シート」が用意され、NOAHは若いファンの開拓に力を入れている。
NOAHを運営する「Cyber Fight」の武田有弘取締役は意図をこのように説明する。
「狙いとしてはふたつあります。ひとつは、小中学生のうちからプロレスファンになってくれたら、その先の(ファンとしての)キャリアも長くなる。もちろんNOAHのファンであってもらえればうれしいですけど、プロレスファンで長くいてくれたらプロレス界全体の財産になるわけじゃないですか。学校や自分の活動範囲で、プロレスのことを話してもらったらそこからまた輪が広がってくるかもしれないという期待もあります。
そしてもうひとつは、プロレスに触れることで将来プロレスラーを目指す子供たちが出てきてほしい。昔はジャイアント馬場さんやアントニオ猪木さんたちを見て、憧れて、実際にプロレスラーになった人って多かったと思うんです。たとえば新日本プロレスの内藤哲也選手が武藤敬司さんに憧れていたという有名な話もあります。いつか、清宮海斗選手みたいになりたいとか、拳王選手みたいになりたいって思ってくれる人があらわれたらいいなって。プロレス会場に子供の数が減ったことで、レスラーになりたいという人も少なくなったとずっと感じていたことではありましたから」
ファンの拡大と、レスラー志望者を増やしていきたいという思い。プロレス界の〝未来への投資〟であり、今後も変わらずやっていく方針だという。ただフルハウスとなった1月11日の後楽園ホール大会のように、小中学生無料が適応できない場合もあるだけに「何とか対策を考えていきたい」とも話す。
武田は試合時、観客の反応をチェックすることを忘れない。
「日本武道館大会のダブルメインイベントの清宮対OZAWAのGHCヘビー級タイトル戦。子供たちはどちらを応援しているのかなって気になったんですけど、どちらかと言うと清宮選手のほうに声援を送っていましたね。でも会場全体となるとOZAWA選手のほう。タイトルを獲った後の事後反応も凄くて、びっくりしました。メディアが言うように、ダークヒーローですよね」
GHCヘビー級新王者となったOZAWA
OZAWAは闇落ちから徹底的に清宮を挑発してタイトルマッチにこぎつけると、ラフファイトを駆使したうえで清宮を下して王座を獲得。デビューからわずか2年4カ月で頂点に立った。普通ならブーイングに支配されてもおかしくないが、身体能力に長け、スター性を感じさせるOZAWAを支持するファンの声が多かったのは事実だ。
「自分はこの業界に30年近くいますけど、OZAWA選手のようにパッと現れてお客さんの心をあれだけつかんでしまうパターンをあまり経験したことがない。リング外で忙しくてなんだかんだとしているうちに、リング上で勝手にOZAWA選手が誕生していたという感じです(笑)。彼のように前に出ていこうとするレスラーがこれからはもっと出てくるだろうし、高水準の競争が生まれればいいなって思っています」
NOAHは今年、旗揚げ25周年を迎える。三沢光晴が立ち上げ、紆余曲折を経ながら航海を続けてきた。2020年からサイバーエージェントグループに参画し、武田が運営にかかわるようになってからは6年。コロナ禍の厳しい時期を乗り越え、武藤の加入など〝仕掛人〟ぶりを発揮して建て直しを図ってきた。陣容もそろい、地固めは整いつつある。
25周年記念大会としては3月2日の神奈川・横浜武道館大会を皮切りに、5月3日の東京・両国国技館大会、6月下旬の大阪大会(日時、会場は後日発表)、7月19、20日の東京・後楽園ホール大会が予定されている。
「何をやるかはまだ決まっていませんが、25周年をしっかり盛り上げていきたいと考えています。プロレスリング・ノアの歴史を大切にしながら、ファンのみなさんに喜んでいただけるようなものにしたい。そして2026年元日も日本武道館大会をやって、これを恒例にしていきたいとも思っています。そのためにも今年が大事だと思っています」
NOAHが活気づけば日本のプロレス界全体も盛り上がる。そうなってくれば小中学生の観戦率も高まってくるはずだ。
OZAWAというダークヒーローの登場、内部の競争激化、WWEとの次なる展開……25周年のノアから目が離せそうにない。
(終わり)
2025年1月公開