偶然見つけたサムライ体験ミュージアムに驚き
東京日仏学院から逢坂を登り、警察官の詰め所があるような屋敷の脇を抜けていく。大久保通りを渡り、住宅街を歩いていると、はためく幟が目に入ってきた。お寺で何を? 吸い込まれるように近づいてみると半地下の扉が開いていて、板敷きの道場のような空間が広がっていた。
牛込神楽坂駅近くの袖摺坂
そーっとのぞくとだれもいないので帰ろうとしたところ、後ろから「あっ、あっ、どうぞう、どうぞ、見ていってください」と声をかけられた。宝国寺正定院地下一階。ここが「サムライエクスペリエンス東京」だ。
声をかけてくれたのは俳優の相良元城さん。この場所で主に外国人観光客を相手に「サムライ体験」、「甲冑体験」、「日本刀試し斬り体験」、「侍パフォーマンスショー」といったサービスを提供している。壁際に甲冑がズラリと並んでいるのはそのためだ。
相良さんによると、欧米やオーストラリア、東南アジアから毎月500~600人ほどのインバウンド客が訪れる。なかなかの人気でいまや俳優業よりもこちらがメインの仕事になっているそうだ。
「またぜひ遊びに来てください!」。帰り際、さわやかにあいさつしてくれた相良さんに、近藤カメラマンがすかさず「では、ポーズを!」。カメラを構えると、さすがはプロ、バチッと決めてくれたのでした。
我々を快く迎えてくれた相良元城さん
サービス精神も旺盛でした
「いや~、なかなか興味深いものを見せてもらいましたね」。2人で感心しながら宝国寺をあとにし、再び神楽坂に入る。「神楽坂にはフランス人が多く住んでいる」と言われる通り、街には確かにフランス料理店が多い。昼食を摂り、暑いので神楽坂から早稲田まで東京メトロ東西線を使おうかとも考えたが、大丈夫そうだったので歩くことにした。
神楽坂を抜けて弁天町の交差点を渡り、左、右と折れていった先にあるのが新宿区立漱石山房記念館だ。明治の文豪、夏目漱石は新宿区で生まれ育ち、同地で生涯を閉じた。漱石が晩年の9年間を過ごし、数々の名作を生み出したのが「漱石山房」。その地に整備されたのが山房記念館である。
今回、ここをコースに入れたのは漱石がなかなかのスポーツ好きだったと読んだからだった。学生時代は器械体操などに親しんだとか。ちなみに東大で同窓、交流の深かった俳人の正岡子規は日本に輸入されたばかりの野球に夢中になったことで有名。2002年に野球殿堂入りしている。
漱石ポーズを真似ているつもり
漱石とスポーツといえば3年前にNumberwebに出た「日本人初の卓球プレーヤーは夏目漱石?」という記事が興味深い。編集部員の齊藤裕さんの記事で、1901年に漱石が留学先のイギリスで流行っていた卓球にはまった、という事実を基に、これより先に卓球をした日本人がいたか、いなかったかを検証した。結果は「現時点では見つからなかった」。言うまでもなく、卓球はオリンピックにおける日本の有力種目である。
さあ、明治の文豪とスポーツとの関係に思いを巡らせたあとは、この日の最終目的地、“都の西北”早稲田大学へと向かう。目指すは戸山キャンパス内の早稲田アリーナ3階、早稲田スポーツミュージアムだ。
数々の名選手を輩出 早稲田スポーツミュージアム
2019年3月にオープンしたとあって新しさを感じさせる施設は、“早稲田スポーツ栄光の歴史”そのものだ。ホームページには「大学のみならず、日本全体のスポーツの発展に寄与してきた早稲田スポーツの存在意義を改めて共有し、その比類なき個性を学内外へ広く発信する」とある。何せ創立は1882年、142年の歴史を誇るだけに、スポーツにまつわる財産もたっぷりある。
早稲田スポーツミュージアム
早稲田スポーツといえばまずは織田幹雄だろう。1928年のアムステルダム五輪で日本人初の五輪金メダリストとなった“陸上の神様”だ。なんと当時の競技名「ホップ・ステップ・アンド・ジャンプ」を「三段跳び」と訳したのが織田なのだとか。金メダルに輝くのも納得である。同じく三段跳びで1932年ロサンゼルス五輪金の南部忠平もこの大学を出ている。
1936年のベルリン五輪棒高跳びで銀メダルを獲得した西田修平も早稲田。大江季雄と2、3位を分け合い、帰国後にお互いのメダルを切断して「友情のメダル」を作成したエピソードはあまりに有名だ。ちなみに大江は慶應義塾大。これも初めて知りました。
ほかにもサッカーの元日本代表でJリーグ設立に尽力した元日本サッカー協会長の川淵三郎、メキシコ五輪得点王の釜本邦茂、元代表監督で“岡ちゃん”こと岡田武史もこちらの卒業生。SPOALに登場してくれた46歳にしていまだ現役バスケットボール選手、宮田諭(B3東京ユナイテッド)の写真パネルが飾ってあったのはちょっとうれしかった。
パリ五輪に出場する現役選手もチェックしておきたい。ホームページにある「代表内定者一覧」を見ると、その数なんと32人(うち一人は韓国代表)、パラリンピックが5人。これは大学別最多なのではないかと思い、ライバルになりそうな日体大をチェックしてみると、代表内定者は38人、パラが10人だった。さすがに国内随一の体育大は違う。
早稲田の有名どころは、マラソンの大迫傑、競泳の瀬戸大也、レスリングの須崎優衣、卓球の張本智和、フェンシングの松山恭助といったあたりか。米データ会社「グレースノート」は、東京で金メダルに輝いた須崎、男子フルーレ団体をパリの金メダル候補と予想している。
さあ、そろそろ散歩は終わりにしよう。この日の東京の最高気温は35.5度、帰宅すると歩数計は1万6095歩をマークした。ヘロヘロにはなりましたが、今回も味わい深い散歩になりました!
早稲田大学戸山キャンパス正門
<おわり>