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しぶさんぽ Season17 VOL.1

フランスとの出会いを求め神楽坂を歩く

7月某日午前11時、JR飯田橋駅西口に相棒の近藤俊哉カメラマンと待ち合わせ。この日、計画したのは神楽坂から早稲田へ抜けるコースだ。どこまで暑くなるのかは心配だが、帽子にタオル、バックパックに水筒を入れ、神楽坂下に足を踏み入れた。

神楽坂といえば帝拳ボクシングジム

 

数十メートル入ったところにボクシングの「帝拳ジム」がある。ボクシングに携わる人間であれば足を向けて寝られないほどの名門だ。選手のインタビュー、外国人選手の公開練習などでたびたび訪れているので、私の中では「神楽坂=帝拳ジム」という感覚。この日はビル5階のジムに顔を出さず、心の中で頭を下げて通過した。

帝拳ジムが入るビルの向かいには、志満金(しまきん)という老舗うなぎ割烹が店を構える。実はこの割烹、国民的作家、夏目漱石の小説にも登場したという由緒あるお店だ。15年くらい前だったか、帝拳ジムの会長とマネジャーにこの店でうなぎをごちそうになったことがある。無知とは恐ろしい。当時は漱石にゆかりのある店なんてまったく知らなかった。

神楽坂界隈には素敵な坂が多い

 

さて、この日の最初の目的地は東京日仏学院だ。帝拳ジムと志満金を通り過ぎて神楽坂を少し登り、左に折れて庚嶺坂(ゆれいざか)を下る。外堀通りに出て西に進み、右に曲がって勾配の急な坂を少し登ると東京日仏学院に到着した。

東京日仏学院は、「1952年創立のフランス政府公式の語学学校・文化センター」で、ホームページには、「フランスの雰囲気を感じる 東京の中のフランス!」というタイトルの記事もある。

東京日仏学院を見上げる

 

それもそのはずで、フランスの生んだ近代建築の巨匠、ル・コルビュジエに師事した坂倉準三が設計した旧校舎(1951年完成)、南仏の小さな村をイメージして作られた藤本壮介設計の新校舎はいずれも洋風で、ひとたび足を踏み入れると別世界に飛び込んだような錯覚に襲われる。レストランに加えて映画館。フランスは料理だけでなく、映画だって世界に誇る大国だ。

パリ五輪 注目の日仏対決は柔道、バスケ!

で、パリオリンピックは? ちゃんとありました。小さくはあるけれど、パネルを並べたオリンピック・コーナーが。ではここで、パリオリンピックに出場するフランス選手を何人か紹介しよう。

柔道女子63㎏級のクラリス・アグベニュヌは東京五輪金、世界選手権6度優勝の猛者だ。出産をへて23年の世界選手権は授乳しながら優勝したとか。日本のこの階級は高市未来。まだ旧姓田代だったころ、1度インタビューさせてもらったことがある。リオ、東京と2大会連続で出場してメダルを逃しているだけに、今回にかける思いはことのほか強いに違いない。アグベニュヌの牙城を崩せるか!

2大会連続で金メダルを狙う柔道女子のエース、52㎏級の阿部詩のライバルはアマンディーヌ・ブシャール。こちらは盤石の阿部が優勢だろう。男子柔道100㎏超級のテディ・リネールはロンドンとリオで金メダル、東京は銅メダルと長らく日本人選手の壁となってきた実力者。今回、リネールに挑む我らがジャパンはあの五輪2大会金メダリスト、斉藤仁の二男である斉藤立だ。斉藤も取材経験ありでなかなかのナイスガイだった。がんばれ、たつる(と読む)!

もう一つ、バスケットボールにも触れさせてほしい。男子はフランスと日本が予選リーグで対戦する。フランスにはNBAで今シーズン、センセーションを巻き起こした身長219㎝(NBAでは224㎝と表記)の20歳、ビクター・ウェンバンヤマ、同じく216㎝のルディ・ゴベアという注目のツインタワーを擁する。フランス人は母国と“スター軍団”アメリカとの対戦を楽しみにしているとか。くそーっ、デカすぎるぞフランス! 意地を見せてくれ、ニッポン!

図書館でフランス語の本を手にしてみる

 

散歩に話を戻そう。

図書館でフランス語本の背表紙を眺めながらもの思いにふけり、板倉設計のらせん階段のある塔を見学してひと休み。最近はめっきり減った喫煙所が敷地内にあったので、気になってちょっと調べてみた。WHO(世界保健機関)の2023年版データによると、フランスの喫煙率は33.4%で世界15位、日本の20.1%で89位。これは男女合わせての数字だ。けっこう吸いますな、フランスの方は。

と、そんなことを考えながら椅子に腰掛けて一服していると、近藤カメラマンが話しかけてきた。

近藤「渋谷さん、大学のとき第2外国語は何でしたか?」
渋谷「中国語です」
近藤「実は私はフランス語だったんです」
渋谷「ほう、フランスと接点がありましたね」
近藤「渋谷さんはフランスに行ったことがありますか」
渋谷「あります。はて、いつだったかな……」

思い出した。最初は2005年4月29日、マルセイユで行われたWBAスーパーバンタム級タイトルマッチ、沖縄のハードヒッター、仲里繁が地元の王者マヤル・モンシプールに挑戦して6回TKOで散った試合。2度目が06年9月28日のパリで、のちに世界王者となる坂田健史がパナマのロベルト・バスケスに惜敗したWBAフライ級暫定王座決定戦だった。仲里も坂田もがんばったなあ。現在、仲里はオキナワジムの会長として、坂田は稲城市議会議員として活躍している。

さて、フランスの思い出に浸ったところで、東京日仏学院にお別れしよう。学院を出て逢坂を登り始める。東京は坂の街だ。日差しが容赦なくなってきた。今日はゆっくり歩こう。

木々の茂る中庭は少し涼しかった

 

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