二宮 3月20日に東京・後楽園ホールで行なわれた日本バンタム級タイトルマッチ(王者・堤聖也-挑戦者・南出仁)をメインイベントに置く「DANGAN256」は、僕も会場に足を運びましたが、お客さんもかなりの数が入っていましたね。コロナ禍によって客足がなかなか戻ってこないのはプロボクシングも同じ。しかし〝聖地〟で感じることができた会場の熱気は僕自身、コロナ禍以前に戻っていきそうな希望を持ちました。
古澤 あの興行は具体的な数字を出すと、当日券だけで60万円ほど売り上げが出ました。コロナ禍になってからは人数制限もありましたからこの3分の1から半分ほどでしたし、コロナ以前なら注目のカードで80万円とか100万円とか。ちょっとずつ(客足が)戻りつつあるというのは僕も感じています。
二宮 客足がなかなかすぐには戻ってこないというのはどういう理由がある、と?
古澤 DANGANとしても試合を映像で視聴できる動画配信の「BOXING RAISE」を展開していますが、こちらに慣れてしまったファンもいるようには思いますね。動画配信のサービスが増えたことで、別に会場まで足を運ばなくてもいいや、と。
二宮 ただやっぱり熱気とかパンチの音とかは、実際に会場に来ないと分からないですからね。ああやっぱり後楽園でボクシングを観るのはいいなって僕も思いました。
古澤 そういうお客さんが増えてくるんじゃないでしょうかね。
日本バンタム級タイトルマッチは王者・堤聖也(右)が同級1位・南出仁に7回TKO勝ちを収めて2度目の防衛に成功
二宮 「DANGAN256」でメーンを張った王者の堤選手、挑戦者の南出選手ともに元WBC世界バンタム級王者・山中慎介をアンバサダーにした「GOD’S LEFT バンタム級トーナメント」(2019年7月~2020年1月)の出場者。ストーリーはこうやってつながってくるのか、と。トーナメントはやっぱり大事ですね。
古澤 DANGANの歴史から言っても、トーナメントは大切にしてきたつもりです。5月20日の興行(墨田区総合体育館メインアリーナ)では井上尚弥4団体統一記念モンスタートーナメント1回戦を行ないますが、これは元々(大橋ジムの)大橋秀行会長の構想にあったものが実現する形になり、我々もお手伝いさせていただくことになりました。
二宮 優勝賞金1000万円ですからね。日本王者の堤選手を筆頭に日本ランカーが続々と出場しますし、かなり注目度の高いトーナメント。インパクトもあるし、業界にとってもプラスになると思います。いろいろとトーナメントを実施してきたDANGANのノウハウもあって、頼りにされている部分もあるように感じます。
古澤 (大橋ジムの)フェニックスプロモーションとはプロモーションも一緒にやらせていただいています。DANGAN創設者である瀬端幸男さんからトーナメントを大事にしてきたその積み重ねがあるからこそ、今回のように絡むことができるんだと思います。きちんとやっといてよかったなって思いますね。
二宮 大手のジムともDANGANが絡むことが増えているように感じます。
古澤 やっぱり(帝拳ジムの)本田明彦会長、(大橋ジムの)大橋秀行会長はボクシング業界全体を考えて大きな視点で動かれているので、そのなかで(ビジネスの)プレーヤーとして参加できることはとても光栄です。
二宮 ボクシング界の流れで以前と大きく違っているのが、試合の放映権ビジネスです。これまでは世界戦を中心にテレビの地上波がメーンでしたが、2022年4月の村田諒太選手とゲンナディ・ゴロフキン選手の一戦を境に、一気に動画配信メディアに切り替わっていきます。このメガファイトは日本国内においてはアマゾンジャパンの「プライムビデオ」が、海外は「DAZN(ダゾーン)」が配信するという新機軸によって2人のファイトマネーが捻出されたと聞きます。同年6月の井上尚弥選手とノニト・ドネア選手の再戦も「プライムビデオ」でした。また、同年12月の尚弥選手とポール・バトラー選手の世界バンタム級4団体統一戦は「ひかりTV」。ABEMAも加わってくるなど、この大きな変化を、古澤さんは予想できていました?
古澤 いや、もうまったく(笑)。2021年には思いもしなかったこと。確かに村田―ゴロフキン戦から世界が変わったなって感じますね。地上波での放送が極めて少なくなったことをネガティブに捉える声はありますが、動画配信の大手がそうやって集まってきているのはボクシングがそれだけ魅力的なコンテンツであるということ。村田―ゴロフキン戦、尚弥―ドネア戦、この2つに凄く需要があったことが大きかったとは思います。
二宮 DANGANは昨年からABEMAでも動画配信されています。
古澤 これもまったく予期しなかったこと。逆に「BOXING RAISE」での展開がなかなか増やせていない状況になっていますから。
二宮 今年4月、フェニックスプロモーションのフェニックスバトルとDANGANが合体した日本4大タイトルマッチは、NTTドコモの「Lemino」でした。いろんな動画配信サービスが参入してくることによって国内のボクシングが活気づいているんだなと実感できます。
古澤 業界にとって間違いなくプラスです。とはいえ、いつまでも続くと思っていたら危険。チャンスではある一方で、踏ん張りどころでもあります。
二宮 それでは最後に、これから古澤さんはどんな仕掛けをやっていきたいと考えていますか?
古澤 DANGANは興行会社ではありますが、将来的にやってみたいのは選手育成。やっぱり業界の発展は、スターが出てくるかどうかのところってあるじゃないですか。業界全体を底上げするための取り組みにチャレンジしたいという気持ちはあります。
二宮 日本人ボクサーのポテンシャルを感じているからこそ?
古澤 村田選手や尚弥選手が示してくれているように世界的に見ても日本人ボクサーのポテンシャルは高いし、もっと可能性を広げられるはず。その部分においてもDANGANがもっとやれることってあるんじゃないかなと思っています。
堤聖也も次世代スター候補の一人だ
(終わり)