――元日の日本武道館大会において世界最大のプロレス団体であるWWEからSHINSUKE NAKAMURA(中邑真輔)を招聘してグレート・ムタと一騎打ちを実現するとは正直思ってもみませんでした。
「いや、僕も(可能性は)最初0%だと思っていましたよ」
――1%でもなく? これはムタの〝代理人〟である武藤敬司さんの強い希望だったんですか?
「引退を表明してからファイナルカウントダウンの試合は全部インパクトを残したい、何か未来につなげたい、すべてをかっさらいたいという武藤さんの思いがあるなかで、中邑選手(との戦い)は外せなかったということ。もちろん中邑選手の意思も確認しました。ただ繰り返しますけど、WWEの所属選手ですからまずもって無理だろう、と。どのルートで(WWE側に)話を持っていけばいいか、ありがたいことにいろいろ紹介も受けて交渉したんですけどことごとくダメだったんです。もちろん中邑選手も現場責任者のトリプルHさんに話をしてくれていました。でも全然0%から動かなくて」
――引退表明が2022年6月でしたから、その後から動かれていたんですね。いつ状況が変わったんですか?
「アントニオ猪木さんの通夜で中邑選手と会った際にちょっと話をして、10月中旬から一気に進んでいきました、結局、中邑選手がトリプルHさんを説得してくれたことが大きかった。と言いますか、そこしかもう頼れるところがなかったんです。中邑選手には感謝しかないですね。トリプルHさんの許可が下りてWWEの各セクションもOKになった。逆流してもダメで、やっぱり現場トップと話をして理解を得られたことが決め手になりました」
――日本武道館には9500人の大観衆が集まりました。
「ありがたいことにチケットは(カードが決まった)瞬間に、まさに飛ぶように売れましたね。ABEMAの無料視聴も、NOAH史上最高の数字だったと聞いています」
――演出もかなりこだわっていました。SHINSUKE NAKAMURAの入場シーンはバイオリンと和太鼓。ちょっと幻想的な世界観は、試合の高揚感がありましたよね。
「正月だからということで和太鼓は中邑選手の発案でした。バイオリンは私が中邑選手にお願いしました。入場シーンは本当にカッコ良かったですね。ただ白装束とは知らなかった。演奏もそうなんですけど、まずもって中邑選手のたたずまいが素晴らしかった。本人のその雰囲気がやっぱりマスタークラス。暗いところからスポットライト1個の光で入場してきても、カッコ良かったんじゃないかって感じました。個人的には彼のあの入場シーンを目にしただけで感動しました。本当にこの試合が実現するのかなってどこか疑う自分がいて……だって0%だと思っていたわけだから(笑)。ああ、もう大丈夫だなって不思議な気持ちにもなりました」
SHINSUKE NAKAMURAは白装束姿で入場
――おそらくこのワンマッチだけでも観客は埋まったと思うのですが、GHCヘビー級選手権(王者・清宮海斗対挑戦者・拳王)もマッチメークされました。この意味を教えてください。
「ノアの『元日・日本武道館』は今年で2回目。新日本の1月4日東京ドーム大会のように定着していくためにも、『元日・日本武道館』はGHCヘビー級をやるのは絶対外せなかった。あくまで今回はムタ対NAKAMURAがイレギュラーで重なっただけなので」
清宮VS拳王のGHCヘビー級タイトルマッチは意地と意地のぶつかり合いに
――そして1月のビッグマッチはもう1つ。1・22横浜アリーナ大会ではグレート・ムタのラストマッチが行なわれ、WCW時代に抗争を繰り広げてきた最大のライバルであり盟友であるスティング選手とAEWのスターであるダービー・アリン選手が登場しました。
「ムタと言えば横浜アリーナ、そしてスティングですからね」
――1990年に首都圏初見参で天井から降りてきたシーンを覚えています。スティングとの交渉は大変じゃなかったんですか?
ムタのもとスターが横浜アリーナに集結
「AEWはスティングの意思を尊重するということで、スティングも『ムタのためなら』と快諾していただきました。
――対戦相手には白使。これもムタの歴史には欠かせませんよね。
「そういうことです。こちらとしてはムタの世界観を大事にしたうえで、いろいろなことを実現していこう、と。もちろん僕は元々新日本プロレスにいましたから、中邑選手にしてもスティング選手にしても白使選手にしても新日本時代の人脈が活きたところはもちろんあります。ただやっぱり一番はレスラーたちの『武藤さんのためなら』『ムタのためなら』という気持ちが実現に至った最大の理由だと思います」
ムタと白使。あの名勝負が思い出されます
――ちょっと興味深いのは、現在のAEWのスターであるアリン選手をわざわざ呼んだことです。ムタの絡みはないはずなのに。
「武藤さんが希望するカードって、未来が入ってくるんです。歴史や過去だけでは済まさないというか。アリン選手はまさにこれからの世界におけるプロレス界の未来。だから彼の登場も絶対に必要だったんです」