■出席者
山口大介 日本経済新聞社運動グループ
二宮寿朗 SPOAL編集長
渋谷淳 SPOAL編集者
近藤俊哉 SPOALカメラマン
プロレスのカリスマ アントニオ猪木が遺したもの
二宮 今回の“語ろう”もいよいよ最終回です。プロレスの話をしていいですか?
渋谷・山口 もちろん。
二宮 そう、10月にアントニオ猪木さんが亡くなりました。これは一般紙でも大きなニュースだったと思います。
山口 大きいですね。日経新聞でも社会面で評伝を載せました。 編集委員の方 がすごくいい記事を書いていました。たぶんプロレスが大好きな方だと思います。
渋谷淳
二宮 猪木さんには2回インタビューしたことがあるんですけど、僕が好きなのは酷評されたモハメド・アリ戦(1976年6月)なんですよ。
渋谷 猪木さんがすごいことに異論はない。けど、異種格闘技戦は個人的にあまり好きじゃないんだよなあ。スポーツとして見られない。
二宮 しぶちゃんみたいに思う人はいるのは百も承知。でもね、猪木さんの異種格闘技戦はザ・モンスターマンとかウィリアム・ルスカとかあるけど、アリ戦は他と比べても別格だと思うんですよ。
山口 いまの総合格闘技の礎を築いたということですよね。「だれが一番強いのか」という格闘技の永遠の浪漫の根っこに迫ったという。
二宮 あれはプロレスの地位を引き上げるという意味が大きかったんですよ。それこそプロレスはまやかしだとか言われている中で、プロレスラーは強いんだ、という猪木さんの主張が好きなんですよ。その情熱でアリを引っ張り出しただけでもすごい。
山口 マッチメーク交渉の大変さは今の フロイド・メイウェザーを連れてくる比じゃないですね。
渋谷 それはよく分かる。
二宮 あの試合、当時は評価されなかったと言われてるじゃないですか。確かにブーイングあるんですけど、今見るとけっこう“乙”ですよ。ローキックだけで15ラウンドやったってすごいよ。
渋谷 猪木さんは亡くなってしまったけど、大物選手引退ニュースもメディアを騒がせた1年だったね。フィギュアスケートの羽生結弦選手、体操の内村航平選手、スピードスケート金メダルの小平奈緒選手もいた。
体操の絶対エース 内村航平の言葉
二宮 山口さんは内村選手を長く取材していたんですよね。
山口 内村選手は2011年から17年くらいまで取材させてもらいました。取材が楽しかった選手 の一人ですね。言葉を持っている選手。競技者としてのアカウンタビリティー(説明責任) が高い。
二宮 言葉を持っているアスリートって取材したくなりますよ。
山口大介
山口 スポーツ選手ってド素人の人から競技のことを聞かれると 「勉強してこいよ」って人いるじゃないですか。特に記者が相手だと。
二宮 言葉には出さなくても、昔は特にそうですね。そんなことも知らないのか!っていうリアクションだったりして。
山口 内村選手って体操のことをしゃべりたくて、説明したくてしょうがないのが伝わってきました 。僕らは体操をしたことがないから素人の質問をする。内村選手は、たとえば鉄棒や跳馬から手 を離して着地するまでの間にどういうことが起きているのか、ここがポイントで、こういうところがうまくいくとこの技は成功するとか、そういうことをすごくしゃべってくれる。競技への理解や関心 が深まるんですよ。
渋谷 そういう選手は取材していて楽しいだろうな。
二宮 それは内村選手の体操を広めたいという思い?
山口 体操はオリンピックで花形競技ですけど、普段は全然メディアでも取り上げられない 。だから彼は体操がマイナー競技に甘んじているという忸怩たる思いがすごくあったと思います。他の競技に負けていないくらい難しいことをやっているのに評価されないというか、「知られていない」ということをかなり気にしていました。
渋谷 う~ん、どの競技もトップ選手はそういう思いを抱くのかも。
山口 体操で多くの人が思い浮かべるのって「栄光の架け橋」じゃないですか。アテネ五輪の団体金メダル。内村選手は個人として圧倒的な存在だけど、団体はアテネの次の北京、その次のロンドンは中国に負けて銀メダルだった 。3度目のリオのとき、「団体で金メダルを取らないとみんな見てくれないし、喜んでくれない」ということをずっと言ってたんですよ。
二宮 そういう思いでリオの団体金メダルが生まれたんですね。
山口 今年3月 、内村選手の引退試合をやったのを覚えてますか?
渋谷 申し訳ないけど覚えてません。
山口 「KOHEI UCHIMURA THE FINAL」って東京体育館でやったんですけど女性ファンを中心に超満員なんですよ。発表は6500人。一番高い席で3、4万円したのかな。土曜の昼です。ものすごく雰囲気もよかった。翌月 に同じ場所で全日本選手権が開催れれてトップ選手がみんな出ていたけど1300人くらいしか入らなかった。内村選手は12月30日に地元の北九州で「体操展 動く芸術」 というのも開催しました。これも体操のステータスを上げたいという取り組みの一つです。
渋谷 スターって簡単にできないよね。競技の実力だけじゃなれない。羽生選手もそうですけど。
山口 羽生選手は今度、2月に東京ドーム公演をやりますよ。
近藤 満員になるかもしれないですね。
二宮 スーパースターと言えば、やっぱりプロ野球ヤクルトの村上宗隆選手じゃないですか。
山口 三冠王、打ちまくりでしたね。
二宮 今年、息子と神宮に3回行ったんですけど。ホームランは1回かな。神宮球場でビール飲みながらホームランを見るのはすごく気持ちいいですよ。
渋谷 ああ、ずいぶん前だけどプロ野球ニュースの「今日のホームラン」ってコーナーは好きだったなあ。
二宮 あったね。ホームランって気持ちいいのよ。
山口 プロスポーツといえば2022年はプロスポーツの復権というか、プロ野球とか、ゴルフとか、ボクシングもそうですけどプロスポーツがすごく盛り上がった印象があります。
二宮 女子ゴルフは人気ありますね。
山口 いま、男子も盛り上がってきているんです。 日本オープンをアマチュアで95年ぶりに制した蟬川泰果(せみかわたいが)選手とか河本力選手とか中島啓太選手とか。女子が盛り上がっていてスポンサーがどんどん増えていくのに男子はスポンサーが減っているという流れがありましたけど、男子に若手のスターが出てきて期待は高まってますね。
二宮 Bリーグは?
山口 新聞やテレビなど既存メディアに登場する機会はそれほど多くなくても、 ファンをつかまえていて盛り上がっているスポーツっていっぱいあると思うんですよね。
二宮 その話でいくと、メディアに取り上げられるかどうかが人気の指標だったみたいな時期があったじゃないですか。今はだいぶ変わりましたね。SNSとかの力で盛り上がりって、それをメディアが後追いするなんてことも起きています。
渋谷 B3の東京ユナイテッドBCがBリーグの入場者数記録を開幕戦で作ったんですよ。9295人。B3の新規参入チームでB1も含めての記録だよ。なんでこんなにバズったのか不思議。
山口 それはすごいですね。
3人とも同世代です
二宮 さて、そろそろまとめに入りましょう。ゲストの山口さん、最後に番外編でも珍プレーでも何でもいいので2022年のまとめをお願いします。
山口 番外編でいいならボクシングマガジンの休刊ですね。なんでそう思うかというとマガジンがなくなって、ボクシングを観る意欲が少し減ったような気がするんですよ。いずれにしても寂しい出来事でした。
近藤 私はネット中継が少し気になってます。追っかけで見られるし、ハイライトも充実していてすごくいいんですけど、何となくテレビつけたらボクシングやってた、そのまま見てみたら意外と面白かったっていうのがなくなっちゃいますよね。難しいですけど。
二宮 新規のファンを取り込めるかどうか、そこが大事なのはすごく分かります。では最後はしぶちゃんに締めてもらいましょう。
渋谷 番外編&珍プレーといえば私自身のアキレス腱断裂かな。
近藤 ギブスつけて一緒にしぶさんぽに行きましたね。村田×ゴロフキンのさいたまスーパーアリーナも松葉杖で来てましたね。
渋谷 いや、ほんと大変だったのと、周りのサポートに感謝です。けがに泣くアスリートの気持ちがほんのちょっとだけ分かったような気がしました。
二宮 山口さん、今回もありがとうございました!
山口 ありがとうございました。来年もよろしくお願いします。
2022年のスポーツ界を語ろう おわり
高須力撮影