■出席者
山口大介 日本経済新聞社運動グループ
二宮寿朗 SPOAL編集長
渋谷淳 SPOAL編集者
近藤俊哉 SPOALカメラマン
締まった試合の多かったカタール大会
二宮 サッカーのワールドカップは日本のグループリーグ突破、アルゼンチンの優勝で幕を閉じました。山口さんは今回の大会をどう見ましたか?
山口 昔はもっと疑惑の判定とか、遺恨の残る試合とか、そういうのがあったじゃないですか。それこそ今回なら準々決勝のオランダ対アルゼンチンがそうでしたけど。
二宮 イエローカードが18枚出たという。
山口 昔はああいう試合、言い方が悪いけどグダグダな試合がけっこうあったと思うんです。それが今回はクリーンなファイトというか、すごく面白い試合が多かったと感じました。それはルールやテクノロジーが理由 なのか。二宮さんはどう思いましたか?
二宮 ルールもありますけど、時期の問題は大きかったと思います。これまでの6月開催だとヨーロッパのシーズンが5月に終わって選手は1回休んでからコンディションを上げる。今回はシーズン中だからみんなコンディションがいいんですよ。6月じゃなくてこの時期にやるのもアリだなと思っちゃいましたね。
日本は準々決勝で敗れたものの、采配の巧みさでも存在感を示した
山口 逆にシーズン中だからけがして出られない人もいましたね。
二宮 そうそう。でも全体的にコンディションがよかった。試合勘もある。次回のカナダ、メキシコ、アメリカの3カ国共催による大会はまた6月に戻りますけど。
山口 森保一監督の采配についてはどう思われましたか?
二宮 すごくよかったと思います。
山口 今までの日本って同じポジションでただ交代させるというイメージで、采配で試合が大きく動いたというのはあまり見たことがない。昔、オランダ人監督のフース ・ヒディングとかルイ・ファン・ハールといった監督は、1人の選手を入れ替えるだけで3つくらいポジションが代わって全然違う布陣にするみたいな采配をしていたじゃないですか。それが日本は全然できないみたいに言われていたけど、今回初めて采配によって全然違う布陣になって、一瞬これは何がどうなっているんだと頭が混乱しました。
二宮 それはありますね。5人交代制も今回初めてでしたし。
渋谷 今回、日本は躍進したと言っていいと思うんだけど、これが今後の日本サッカーに与える影響ってどんなことがあるの?
二宮 今回の日本の活躍で日本のサッカーに興味を持つ海外の選手が増えて、結果としてJリーグのレベルが上がることを期待しています。Jリーグの外国籍選手ってブラジル選手が多数を占めているのが現状なので、もっと欧州からも入ってきてほしいです。
渋谷 それだけJリーグとブラジルの関係性が深かったということ?
二宮 そう。ブラジルの選手たちは世界中で活躍しているし、どこに行ってもアジャストする能力がある。ヨーロッパの選手は基本的に自国のリーグでやる。でも今、アンドレス・イニエスタがJに来たりして、ヨーロッパからJに来る選手が少しずつ増えているんですよ。今回のワールドカップでさらに「日本って面白いな」となったとき、そういう選手がもっと増えると思うんですよ。
Jリーグの充実が日本代表の強化につながる
渋谷 でも、今のサッカー日本代表って基本はヨーロッパ組が中心だよね。
二宮 だからヨーロッパでやっている選手は大事なんですけど、国内組という軸がもう一つしっかりするとさらにいいんですよ。今回、フロンターレの谷口彰悟選手がスペイン戦にいきなり出ていい仕事をした。国内組が見せてくれたのも今回のワールドカップでした。海外だけじゃなく、国内の選手が活躍できる土壌があることが大事ですね。
渋谷 国内リーグのレベルアップは代表強化においても重要だと。
山口 僕もそう思います。たとえばですけど、渋谷さんがいまの代表メンバーで今大会が始まる前に知っていた選手っていますか?
渋谷 パッと口に出たとすれば長友佑都選手かな。
山口 たぶん多くの人が渋谷さんみたいな感じだったと思うんですよ。それは何かっていうと、中村俊輔、小野伸二、中田英寿くらいのときはJリーグでスターになった人が日本の顔として海外に挑戦しましたよね。プロ野球で活躍した人がメジャーに行くみたいに。それが今はJリーグでレギュラーになったかならないかくらいの段階でヨーロッパに行く。青田買いみたいな感じで。
渋谷 ヨーロッパは選手不足ということ?
二宮 そうじゃなくて、それだけ世界中にいっぱいリーグがあって、世界に目を向けているんですよ。昔は新たな市場といえばアフリカだったんだけど。
山口 冨安健洋選手にしろ、堂安律選手にしろ、Jリーグでそんなにたくさん出ていない。久保建英選手も鎌田大地選手もそう。
渋谷 それだけワールドワイドになってきているということか。今回アジア勢が3チームも決勝トーナメントに進出したし。
サウジアラビアは予選リーグにアルゼンチンから番狂わせの勝利
二宮 ただ、これでアジアと世界のレベルが縮まったというのは早計だと思う。ちょっとは縮まったと思うけど。
渋谷 おっ、それは厳しいね。
二宮 なんでかというとベスト16とベスト8はだいぶ違うんですよ。8に残れるかどうかはだいぶ違うんですよ。
渋谷 日本は3位になったクロアチアとPKまでいったし、サウジアラビアは優勝したアルゼンチンに勝ってる。確実に成長はしてると思うけど。
二宮 そうなんだけど、あれもクロアチアからしたら次のブラジルに照準を合わせたかもしれないし、大会全体を見て全力をどこで出せばいいかトータルで考えていると思うんですよ。
渋谷 予選リーグの初戦からすべて全力100%ではないということか。う~ん、確かにそこは違うかも。
二宮 で、今回はモロッコがアフリカ勢でベスト4に入ったんだけど、モロッコが強いのは最初から言われていたんですよ。どうしてかというと中心選手がヨーロッパで活躍している。アジア勢は韓国が2002年の日韓大会でベスト4に入ったけど、あれ以降はベスト8に入っていないんですよ。みんな16まで。そういうのもあって、そこまでレベルが縮まっているわけでもないのも事実だと思います。
アメリカとイランの選手は試合後に互いをたたえ合った
山口 今回はカタールという国への批判が多かったし、ロシアとウクライナの戦争もあるし、大会に熱がない、気もそぞろみたいな部分もあったと。欧州の数チームが多様性を認めろという抗議の腕章をしようとしたら止められたり、ちょっとヨーロッパのチームが試合に集中できてないというのはあったんじゃないですかね。
二宮 そこはあったかもしれません。やっぱり人権問題、スタジアムの建設にあたってたくさんの労働者が亡くなったとされる問題は、ヨーロッパでかなり報道されてましたしね。一方でアメリカとイランが戦って、アメリカとイランの選手が互いに健闘をたたえ合うシーンを見ると、スポーツってそうだよね、みたいなね。選手同士はいがみ合わないという。それがスポーツかなと思いますね。
渋谷 話は尽きないけど2022年はサッカーだけじゃない! 次回はそれ以外のスポーツをテーマに話を進めていきましょう。