フリーランスになるにあたって、僕にはいくつかの目標がありました。サッカーのワールドカップへ行くこと。個展を開催すること。そして、サッカーの本場でもあるヨーロッパへいくことでした。
今でこそ日本人選手が至るところでプレーするようになったヨーロッパですが、当時は中田英寿さんを筆頭に日本代表の中心選手だけがプレーすることを許される特別な世界でした。それまでアジアを出たことがなかった僕は、彼らと同じ空気を吸い、その雰囲気に浸り、写真を撮ってみたいと思い描いていました。
そして、その機会は思っていたよりも早くやってきたのです。2006年3月。6月に控えたワールドカップドイツ大会に向けた日本代表の強化試合がドイツのドルトムントで組まれたのです。対戦相手はボスニア・ヘルツェゴビナ。これは行くしかない! そう思った僕は早速、旅支度を整えることにしました。
しかし、早くも問題が発生することになったのです。
当時はスポーツ雑誌が全盛期だったとは言え、日本代表を一試合取材するだけでは採算が合いません。どうしたものかと思案しているとき、日本戦の翌日にスイスのバーゼルでクロアチアとアルゼンチンが対戦することがわかりました。クロアチアは日本が本大会で対戦するライバルでした。写真をストックしておけば大きな需要が見込めます。
テンションが上ったのも束の間。またも新たな問題にぶち当たりました。
「取材申請はどこに出せばいいんだ?」
海外で取材をするようになったばかりの僕は、開催地のサッカー協会に申請を出せば良いだろうと安易に考えていましたが、今回はクロアチアとアルゼンチンがスイスで試合をします。スイスサッカー協会の管轄ではありません。これが日本とアルゼンチン、もしくはクロアチアとの試合であれば、日本サッカー協会が取りまとめてくれるところですが、この試合に関してはJFAもノータッチです。
すると、ドイツ遠征にいく同業の大先輩から、現地のイベント会社が取り仕切ってるから、そこに申請すればいいと連絡先を教えてもらえました。慣れない英文での申請書作成から申請書をFAXとメールで提出。悪戦苦闘の結果、なんとか申請を終えることができました。
が、しかし、安心するのはまだ早いです。さらに大きな問題を抱えていることに気がついたのです。
「ドルトムントからバーゼルってどうやって行くんだ?」
今ならiPhoneを立ち上げれば、Google先生がサクッと教えてくれますが、当時はガラケー全盛期。iPhoneなんて影も形もありませんでした(初代iPhoneの発売日は2007年6月29日)。2005年7月14日に日本でサービスが開始されたGoogle Mapも参考にならないレベルで、10年後に先生と呼ばれるようになるなんて想像もできないレベルでした。
そんな時代に一番手っ取り早いのは旅行代理店を頼るか、自ら航空会社に問い合わせるかの二択です。旅慣れた上級者であれば、現地の時刻表を読み解くなり、地図を調べるなり対処はできたと思いますが、旅素人の僕にそれは無理な相談でした。
悩んだ挙げ句、バーゼルでの試合のことを教えてくれた先輩に相談すると、世界中を巡った経験がある先輩がレンタカーに同乗させてくれることになったのです。まさに渡りに船とはこのとこ! ありがとうございます!!!
その先輩によれば、バーゼルでの試合の2日後にフランスのディジョンで大黒将志さんが出場予定の試合もカバーするのとのことでした。末っ子の甘えん坊モードを全開にした僕はそこにも同行させてもらい、さらにパリのシャルル・ド・ゴール空港まで送ってもらうことにしたのです。
今でこそヨーロッパの主要各国の位置関係をある程度把握できるようになりましたが、当時の僕からすると、その道程がどれほどのものか知る由もありませんでした。ちなみにドルトムントとバーゼルは600km、バーゼルとディジョンは260km、ディジョンとパリは300km。およそ1200kmのドライブ旅になったのです。
ここまで来ると僕は採算のことは忘れて、せっかくだから他の国々も巡ってみたいと欲をかくようになりました。そして、考えた最終的な日程がこちら。
2/28 日本vs.ボスニア@ドルトムント
3/1 クロアチアvs.アルゼンチン@バーゼル
3/3 ディジョンvs.グルノーブル@ディジョン
3/4 バルセロナvs.デポルディーボ@バルセロナ
3/7 ユヴェントスvs.ブレーメン@トリノ
3/8 ACミランvs.バイエルン@ミラノ
3/11 アヤックスvs.PSV@アムステルダム
ドイツ、フランス、スペイン、イタリア、オランダ。ヨーロッパサッカーの5大国をすべて歴訪する欲張りツアーが完成! パリ以降の移動は飛行機にしましたが、ヨーロッパ内での総移動距離だけで4500kmにもなりました。今、思うと「若いって凄いな」としか思えない無謀な旅のはじまりです。
続くッ
2021年11月公開