近藤 ホペイロを主人公にした作品が日本にあったとは正直、知らなかったです。人気小説を映画にしたんですね。同名の小説も今度ちょっと読んでみようかなと思います。
二宮 時間があったら観たいと思っていた映画だったんですけど、気づいたらもうだいぶ経ってしまいました(笑)。スポーツを題材にした映画を語るというなら、これをぜひ取り上げたかった。
近藤 ホペイロはポルトガル語で「用具係」の意味。サッカーファンなら大体、知っているとは思いますが、「ホペイロって何?」と分からない人、結構多いんじゃないですかね。
二宮 言葉の響き的には、金平糖に聞こえそうですもんね。
近藤 いや、まったく(笑)。むしろ今の子供たちは金平糖のほうが聞き慣れないかも。
二宮 ホペイロを演じるのが白石隼也さん。超イケメンです。架空のJ3クラブ、ビッグカイト相模原が舞台になっていますが、J2から今季J3に降格してしまったSC相模原がモデルになっています。SC相模原のロゴマークが六角形で、大きな凧に見えることから「ビッグカイト相模原」なんだなと。
近藤 チームカラーもグリーンで、ホームスタジアムも相模原ギオンスタジアムを使用していますからね。相模原でオールロケですから、どうしてもSC相模原とかぶっちゃいますよね。
二宮 逆にリアルな感じがあるから、ストーリーに入っていきやすいところがありました。
近藤 クラブ広報に水川あさみさん、監督に佐野史郎さん、元日本代表のベテランに永井大さんと、キャストも豪華でした。ホペイロは本来の用具係の仕事だけじゃなくて、ポスター破りの犯人捜しとかいろんな問題に主人公が出ていくという〝何でも屋〟的な役回りでしたよね。
二宮 まあ、ホペイロの仕事だけじゃストーリーをつくるのは難しいでしょうからね。
近藤 選手たちのスパイクを磨くシーンが結構ありました。二宮さんはサッカーを取材することが多いと思うんですけど、ホペイロの方って実際どうなんですか?
二宮 ホペイロの仕事は多岐にわたります。選手のスパイク、ウエアなどサッカー用具を管理、準備するばかりじゃなくて、選手が口にするドリンクづくりや、荷物の搬送などもありますからね。僕は一度、横浜F・マリノスでホペイロをしている緒方圭介さんを取材したんですけど、試合の日になると朝5時くらいから準備をしている、と。マジ、大変そうなだと思いました。好きじゃないとなかなかやっていけないですよ。
近藤 映画のなかでも主人公が、ピッチ内を聖域のように語っていたじゃないですか。自分はそこでプレーをしたくても、できない。だからサポート側に回っているんです、みたいな感じで選手に熱く語るシーンはちょっとジーンとしちゃいましたね。
二宮 F・マリノスの緒方ホペイロも元々はGKで中学時代には全国大会を経験しているんですよね。高校は強豪・鹿児島実業の出身。ただそこで実力的に限界を感じて、裏方を目指していくことになったそうです。
近藤 やっぱり元々、プレーヤーだった人たちだから選手の気持ちやニュアンスも細かいところまで分かるんでしょうね。
二宮 近藤さんも中学時代はサッカー部でしたよね?
近藤 はい、3年間やっていましたよ。
二宮 部活で用具係と言うと、やはり1年生がやるものなんですか?
近藤 遠征になると3年生のスパイクを1年生が持っていくっていうルールがあったんですよ。それはちょっと不満でしたね。1年生が忘れてしまう可能性だってあるじゃないですか。だから僕は3年生になっても自分のスパイクは自分で持っていくようにしましたよ。
二宮 僕がもし同じ立場でも、1年生には持たせないかな。近藤さんが言うように大事な試合でもし忘れられたら……。もちろんそんなケースはレアなんでしょうけど。
近藤 あとボール運びはやっていましたね。5個くらい網に入れてという感じで。今となってはいい思い出ですけど、用具係って大変だなってやっぱり思います。それこそスパイクとか用具が好きじゃないとっていうところもあるんですかね?
二宮 緒方さんの話で言えば、超がつくほどのスパイク好きです。
近藤 なるほど。
二宮 スパイクに囲まれているのが幸せみたいですよ。思い入れは半端なくて、選手が同じスパイクを何足か使っていても「それぞれ顔が違う」と仰ってましたね。
近藤 スパイクの手入れってどんなふうにやるんですか?
二宮 試合後はスパイクを回収して紐を取って丸洗いし、乾燥機で一足ごと乾かしていくという手順だったような。そこからまた紐を通して、と。
近藤 メチャメチャ手が掛かってる。
二宮 そのスパイクによって凄いプレーが生まれるんだと思うと、愛情を目いっぱいに注げるみたいですよ。
近藤 ほかにも練習ウエアの洗濯とかもやらなきゃいけないんですよね? 「ホペイロの憂鬱」では川上麻衣子さん演じる女性スタッフの方がやっていましたが。
二宮 緒方さんは洗濯もかなりこだわってます。洗濯機に入れる前の下処理が大切みたいで、クリーニングのプロにどんな洗剤がいいのか聞いたり、手荒れしないためにどんなハンドクリームがいいのか調べたりしたそうです。選手もその努力を知っているから、緒方さんにはリスペクトしていますね。
近藤 こうやって裏で支える人がいるから選手たちも頑張れるんですね。それが伝わってくる映画でもありました。
2022年10月公開