59歳にして、トップレスラーの地位は揺るがない。
それがスーパースター、武藤敬司である。2021年2月にノアの最高峰、GHCヘビー級王座を奪取。この試合はプロレス大賞の年間ベストバウトに選ばれている。ノアに入団を果たし、次なるチャレンジは注目を集めてきた。しかしながら人工関節置換手術に踏み切った両ひざに加えて今度は股関節のケガが限界に達したことでついには引退を決断。6月のさいたまスーパーアリーナ大会で表明するに至った。
ファイナルカウントダウンシリーズと題して武藤はスポット参戦し、2月21日の東京ドーム大会がラストファイトになる。
引退までの経緯、そしてファイナルカウントダウンシリーズの〝仕掛け〟について「CyberFight」武田有弘取締役にじっくり聞いた。
二宮 まずは武藤さんの引退の経緯についておうかがいしたいと思います。股関節の痛みを感じながらも2022年元日の東京・日本武道館大会、5日の東京・後楽園ホール大会、そして8日の新日本プロレスとの対抗戦(横浜アリーナ)とこなした後、16日の仙台大会を最後に、欠場することになりました。
武田 しっかり休んでもらって、股関節の痛みが引いてくれるかどうか。その希望は持っていたんですけど、武藤さんから「話がある」と言われたときに妙な胸騒ぎがありました。もしかしたら引退ってこともあるだろうな、と。
二宮 5月の東京・大田区大会で復帰しましたけど、この前本人にインタビューした際にはその前から意思を固めていた、と。
武田 呼び出されたときにも5月の試合で(続けられるかどうか)何となく自分で分かると思うとは言っていました。試合後のバックステージで「近々、報告することがある」とコメントしていたから、これはもう(引退に)傾いているなと。再度呼び出されたときは、引退のことだなって思いましたよ。武藤さんの体のことは言うまでもなく武藤さんが一番分かっていますから。いつかそのときが来るだろうなって覚悟しましたけど、今、それが来たんだなっていう感じでしたね。
二宮 6月のさいたまスーパーアリーナ大会で武藤さん自らリングインして自分の言葉で表明しました。でもロープワークして、あれ、違う報告なのかなって一瞬、思ったんですけどね(笑)。
武田 それ、自分も思いましたよ。えっ、言わないのって(笑)。
二宮 武藤さん一流の駆け引きでした。
武田 まあ湿っぽいのは武藤さん嫌いだから。明るく表明するのも武藤さんらしいですよ。
二宮 引退が決まったら、次はどのようにラストファイトまで持っていくか。ファイナルカウントダウンシリーズと題して7月16日の日本武道館大会からスポット参戦していき、2月21日の東京ドーム大会でフィニッシュを迎えるという引退ロードになりました。
武田 周りにはプロレス以外の格闘技に関わっている人も少なくなくて、普通は1試合とかエキシビションマッチとかだから「結構試合数やりますね」っていう反応なんですよ。
二宮 プロレスの場合は、ちょっと違いますよね。アントニオ猪木さんで言えば、「ファイナルカウントダウン」として4年くらい掛けて12試合ほどやっていますよね。確かその一発目の試合がグレート・ムタでした。
武田 武藤さんの場合は7月から来年2月までだから半年ちょっと。
二宮 現在発表されているもので言えば7月の日本武道館、9月の名古屋、10月の福岡と東京・有明、ムタとして来年1月の横浜、そして最後は東京ドーム。
武田 これでも絞ったほうなんですよ。後付けじゃないけど、武藤さんって他のレスラーと違ってたくさんテーマ曲を持っているんです。その分くらい(試合を)やろうかなって。
二宮 10曲前後はありますもんね。
武田 だから第1弾となった7月の日本武道館大会の副題は「THE FINAL COUNTDOWN」。
二宮 あれ、ジーンと来ましたね。新日本プロレス時代、凱旋帰国してスペースローンウルフだったころに使われた「EUROPE」の名曲。入場のときにビジョンにもそのころの映像が流されていて、武藤ファンにとってはたまらなかったと思いますよ。悠然と花道を入場する姿は、やっぱり別格と言いますか、スーパースターだなって感じました。
武田 清宮海斗とのシングルマッチはどうでした?
二宮 見せ場はトップロープからのフランケンシュタイナー。股関節が悪いんだから無理にやらなくていいのに、と思いましたけど、やってのけてしまうのが武藤さん。コロナ禍で声出し禁止にもかかわらず、思わず「オオーッ」と声に出し手唸ってしまいました、すみません。
武田 武藤さん、動けていましたよね。20分以上やりましたし、さすがだなって思いましたよ。
二宮 入場曲の話に戻ると、10月16日の福岡大会は小島聡、ニンジャ・マックと組んで、丸藤正道、ジャック・モリス。HAYATAとの6人タッグ。そして10月30日の東京・有明大会では丸藤正道、稲村愛輝と組んで棚橋弘至、真壁刀義、本間朋晃の新日本勢とぶつかります。それぞれ入場曲も違ってくると?
武田 そうです。福岡が「TRANS MAGIC」、有明が「TRIUMPH」ですね。
二宮 僕は武藤さんと言えば「TRIUMPH」か、やっぱり「HOLD OUT」の印象強いですね。
武田 2・21東京ドームのラストファイトは、「HOLD OUT」になります。
二宮 やっぱりそうですよね。それでは休憩を挟んで、なぜ東京ドームでの興行にこだわったかをおうかがいしたいと思います。