2022年4月8日、東京・後楽園ホール。
プロレスリング・ノアを運営する「Cyber Fight」の武田有弘取締役は、2階バルコニーから試合をじっと見つめていた。
「プロレス興行仕掛人」その名のとおり、仕掛けまくっている。プロレス界初となる〝聖地〟日本武道館での元日興行に始まり、1月8日には業界最大手の新日本プロレスとタッグを組み、5年ぶりとなる対抗戦を実施。そして4月29、30日には両国国技館2日間連続興行を控えており、それも29日はジュニアヘビー級のレスラーのみが出場するという団体初の試みを実施。同30日はノアに入団した〝野獣〟藤田和之が潮崎豪と2度目の防衛戦を行なうGHCヘビー級タイトルマッチがメーンとなる。
彼の視線の先にあるものとは—―。
次々に仕掛けていく武田取締役に「2022年の戦略」を聞いた。
4月8日のノア後楽園ホール大会。人気ユニット「金剛」のパフォーマンスに会場も盛り上がりを見せる
二宮 昨年10月の「プロレス興行仕掛人」では新日本プロレスの社員から出発した武田さんがプロレスリング・ノアに携わる経緯を中心に聞きましたが、きょうは興行そのものについてもっと伺っていきたいと思います。4月29、30日には両国国技館2日間連続興行があります。ビッグイベントを2日続けて打つというのは、業界最大手の新日本プロレス以外、なかなか打てなかった現状があると思うのですが、狙いを教えていただけますか。
武田 我々の最重要課題は、「ABEMA」で試合を観ていただいた方に(オフィシャル動画配信有料サイトの)「レッスルユニバース」に加入してもらうこと。29日はABEMAでの無料放送になりますが、30日はレッスルユニバースのみの視聴になります。つまり29日に翌日の宣伝をして、レッスルユニバースの加入者を増やしたい、と。
二宮 そのために大会場での2日間興行に打って出たところもあったわけですね。
武田 そこが狙いの一つではあります。
二宮 もう一つ面白いなと思ったのが、29日は「美麗のジュニア」とポスターにあるように、メーンは王者EitaがHAYATAの挑戦を受けるGHCジュニアヘビー級選手権、セミファイナルが小峠篤司、YO-HEY組対小川良成、クリス・リッジウェイ組のGHCジュニアヘビー級タッグ選手権など、ジュニアヘビー級レスラーのみの興行となります。かなり思い切りましたね。
武田 せっかく2日連続でビッグイベントをやるなら色を分けたかった。いつもは「どんどん面白いことをやっていきましょうよ」と言ってくれるABEMAの担当者も、今回だけは「うーん」と考え込んでいましたね。
二宮 ジュニアヘビー級だけでは視聴数が伸びないんじゃないか、と。
武田 そういうことでしょうね。でもABEMAでは初めてノアを観る人だって少なくないし、ジュニアは動きがスピーディーなので初めての人は見入ってしまうと思うんですよ。
二宮 あとイケメンが多い。
武田 それもありますよ(笑)。ジュニアヘビー級のレスラーたちが「俺たちにやらせてほしい」と言ってくれていますし、ここは彼らの可能性に懸けてみたい。確かにリスクはありますよ。でもノーリスクのチャレンジなんてないですから。
二宮 いい言葉ですね。30日は〝野獣〟藤田和之が潮崎豪と2度目の防衛戦を行なうGHCヘビー級タイトルマッチがメーンとなります。ポスターでは「轟音のヘビー」と。ここで興行ポスターについて聞かせてもらいたいのですが、ノアの場合、一つの興行に何バージョンかポスターを用意しますよね。
武田 ビジュアルは相当、意識してやっています。大きな興行になるとABEMAのデザインチームと、ノアのチームが別々につくっていて、チケット発売に合わせてまず我々が用意し、大会が近づいてくるとABEMAのデザインチームがつくったものに入れ替えます。
二宮 なるほど、第1弾がノア側で第2弾がABEMA側だと。
武田 ABEMAのほうはスタジオ撮影でじっくりつくり込みますから時間が掛かるんです。ただ別々とはいっても、共通のルールはいろいろとあるんです。レッスルユニバースもビジュアルにこだわっていますから、そこも見ていただきたいですね。
二宮 30日でメーンを張る藤田選手のノア入団は結構なサプライズでした。アマレスで実績を残し、プロレス、総合格闘技でも活躍した彼が野獣キャラを返上して、ノアの一員になるっていう。
武田 藤田選手のスタイルはやっぱり分かりやすいんですよ。あれだけ迫力がありますから。
二宮 加えて野獣ぶりを本当に封印したのかどうか、あの礼儀正しさは本物なのか、ストーリーも目が離せない感じですよね。
武田 レッスルユニバースの会員を増やすことを第一に置くなら、市場を広げていかなきゃいけない。新しいノアファンを呼び込んでいくには、「分かりやすさ」は大事な要素ですし、彼には知名度もあります。
二宮 ノアがターゲットにしているファンの年代層はどのあたりですか?
武田 まず試合会場における現在のコアファン層で言うと40代男性。これは調査会社を入れたマーケティングで分かっています。
二宮 やはり調査をされているんですね。40代男性だと、まさに藤田選手のことをよく分かっている年代でしょう。
武田 ただターゲットと言われると、若い方でも年配の方でも構いません。あくまで新規ファンを開拓したいということ。ただ、年代によって好みが違うところがありますし、新規ファンがどれだけ入っているのかも含めて、企画を立てるところでは気をつけなければなりません。あと、サブスクリプションを好む傾向の年齢層があるので、そこも押さえないといけないですね。
二宮 レッスルユニバース会員のコア層で言うと?
武田 ここも40代男性です。
二宮 なるほど、一緒なんですね。
武田 コア層に支えられているのは間違いないです。
二宮 それでは続いて、元日の日本武道館大会、新日本プロレスとの対抗戦に話題を移していきたいと思います。
2022年4月公開