『スラムダンク』の聖地、鎌倉高校前へ
鎌倉大仏を見物したSPOAL編集者の渋谷淳と近藤俊哉カメラマンは江ノ電の長谷駅に戻り、再び藤沢行きの電車に乗った。ほどなくして湘南の海が見えてきた。晴れ渡った海にサーフィンを楽しむ人たちの姿が見える。サーフボードを抱えてアスファルとの上を歩いている人の姿も目についた。生活にサーフィンが自然に溶け込んでいる街。それが湘南だと実感した。
街ではサーフボードを抱える人が珍しくない
やがてビーチの近くに大きなフックをつけたバイクや自転車がズラリとならんでいることに気がついた。これはサーフボードを運ぶために自転車やバイクに装着するもので、サーフキャリアと呼ぶらしい。何も知らなかった私は「へ~、こうやってボードを運ぶのか、便利じゃん!」と妙に感心してしまった。
電車は極楽寺、稲村ヶ崎、七里ヶ浜ときて海辺の駅、鎌倉高校前に滑り込んだ。ターゲットは駅の鎌倉側にある踏み切りだ。ここが今回のテーマ、バスケットボール漫画『スラムダンク』の“聖地”なのである。
こちらがサーフキャリア
さて、『スラムダンク』を簡単に説明しておこう(知らない人は少ないと思うけど)。週刊少年ジャンプで1990年から96年にかけて連載されたバスケットボール漫画で、アニメはテレビ朝日系列で93年から96年に放送された。単行本のシリーズ累計発行部数は1億2000万部超え。台湾や韓国でも人気を博したいまや伝説の漫画である。
私は連載が始まったときには既に高校を卒業していたので「スラムダンクを見てバスケを始めました!」という世代ではない。ただ、作者の井上雄彦さんがほぼ同世代で、高校時代にバスケ部だった私は描かれている世界にたちまち共感した。
名シーンは数あれど、ここでは“最強”山王工高を上げたい。あのころ、バスケに燃えていた少年たちにとって、能代工高の強さ、名前を聞いただけでブルってしまう金看板は別格だった。漫画における山王工高の描かれ方が、能代工高のイメージとピタリと重ねるところにグッとくる。
ちなみに山王は実際に秋田市内にある地名で、山王中学校が今でも存在する(能代工高は秋田県能代市)。天才スイマーとして中学時代から注目を集め、84年のロサンゼルス五輪に出場した長崎宏子さんの母校だ。
というわけで鎌倉高校駅前の踏切である。これはアニメのオーブニングで登場し、物語の主役である桜木花道とヒロインの赤木晴子が出会う場所でもある。すっかり有名になってしまい、日によっては写真撮影をするファンが数多く集まって、微妙なムードが漂うこともあるのだという。
『スラムダンク』伝説の踏み切り
私と近藤カメラマンが訪れた日は、私たちを含めて10人ほどのギャラリーがいた。道行く鎌倉高校の学生は“おのぼりさん”をどう見ているのだろうか。そんなこともチラッと考えながら、できるだけ周囲に迷惑をかけないようにパチッと撮影し、そそくさと現場を立ち去った。
ちなみにこの風光明媚な神奈川県立鎌倉高の校舎は、湘北ではなく、ライバル陵南のモデルになっているのだとか。湘北の校舎のモデルは東京都武蔵野市にある都立武蔵野北高とされる。熱心なファンがすっかり調べ上げてしまっているのだ。
鎌倉高校前駅付近のビーチ
オリンピックの舞台に2度なった江ノ島ヨットハーバー
さて、私たちはここから道路を渡ってビーチにおり、海をバックにちょこっと撮影を済ませて再び江ノ電へ。次なる目的地、江ノ島へ向かった。江ノ島駅で電車を降り、駅構内にあった地図を見て江ノ島までの距離を確かめる。
「15分ですか、いや20分? まあまあありますね」(近藤)
「とりあえず行ってみましょう」(渋谷)
そんな会話を近藤カメラマンとかわしながら江ノ島に向かって歩く。時刻はちょうど昼どき。照りつける太陽がギラギラとパワーを増しているようだ。
「これ、気温は35度以上、絶対にありますよね」(渋谷)
「あるんじゃないですか、ヤバイですね」(近藤)
あとから調べてみると、この日の鎌倉市の最高気温は33度。とはいえ遮るものが何もない海辺の道は暑いことこの上ない。海沿いだけに湿度も高い! 私は汗だくだくでもはやTシャツはびしょ濡れ状態。それでもなんとか歩いて江ノ島ヨットハーバーにたどりついた。
暑さにやられヨットハーバーのレリーフに寄りかかる
ここは1964年、2020年の東京オリンピックで2回ともセーリングの会場になった由緒あるヨットハーバーだ。セーリングにおける日本勢の記録に目を向けてみると、2020東京大会では女子470級の吉田愛・吉岡美帆、男子470級の岡田奎樹・外薗潤平がそれぞれ7位に入賞。世界を相手に奮闘した。
ちなみにセーリングは1900年のパリ五輪から正式競技に採用されている歴史ある競技だ。長らく欧米諸国が上位を独占してきたものの、近年では中国が東京大会で2個のメダルを獲得するなど力を発揮している。日本勢は1996年のアトランタ五輪、女子470級で重由美子・木下アリーシアが銀メダルに輝き、日本セーリング史上唯一となる五輪メダルを獲得している。
江ノ島ヨットハーバー
ここまできて体力は限界に近づいてきた。私は少しフラフラとしながら元来た道を戻り、江ノ島駅まで足を引きずるようにして歩いた。体力の回復を願って駅前のラーメン屋さんに飛び込み、ようやく一息。早速「江ノ島ビール!」と注文しようかと思ったけど、ここでビールを飲むと深刻なダメージを負うと直感して我慢した。
醤油ラーメンでようやく元気を取り戻した私と近藤カメラマンは江ノ島駅から再び江ノ電に乗り込み藤沢方面へ。新たな目的地へと足を向けたのだった。