二宮 サッカー日本代表のカタールワールドカップ、アジア最終予選、中国代表、サウジアラビア代表とのホーム2連戦(1月27日、2月1日)を取り上げていますが、今、高須さんの写真を見せてもらっているなかでやっぱり〝デュエルキング〟遠藤航選手の攻防シーンが目を引きますね。
高須 僕の場合は日本がボールを持ってから、ファインダーをのぞくことが多いんです。
二宮 攻撃を撮るためね。
高須 だから遠藤選手の守備時におけるボール奪取を撮ろうと思ったら、たまたま撮れることもありますけど基本的には遠藤をずっと意識しないといけない。ただ彼はボールに絡む回数がとても多いので、普通に写真を撮っていけばかなりの数になります。かつボールをキープしてくれるので撮りやすい。逆に田中碧選手は球離れが早いから、非常に撮りづらい。昔、バルセロナの試合でも、みんな球離れが良すぎて全然、撮れなかった。シャビやイニエスタも、もっとドリブルしてよって思いましたもん(笑)。
2022年1月27日、この日、中盤で何度もデュエルを繰り広げた遠藤航と呉曦(ウー・シー)
二宮 中国戦でのこの写真も、必死感が伝わってきていいですね。ここのこだわりって何かあります?
高須 ボールは写っていませんが、その視線の先に「ボールがある」と思わせることですかね。ボールが写ってないのはナンセンスと言われることもありますが、写真には出来事を伝えるだけではなく、見る人の想像力をかきたてる力もあると思っています。
二宮 なるほど。カメラマンらしい視点ですね。他にサッカーを撮るときのテクニカルなエピソードはありますか?
高須 技術的なことで言えば、例えば、セットプレーを撮るときは右目でファインダー越しに見て、左目でもピッチの状況を見ることがあります。望遠レンズで狙っているとどんなボールが来るのか、ニアなのか、ファーなのかも分からない。だから、ファインダーをのぞきながら、左目で確認しながら、あっ、これはニアだと思ったらすぐに右目に切り替えるようにしています。
二宮 その間0.01秒。
高須 少年ジャンプの「呪術廻戦」みたいに言わないでください(笑)。後はターゲットを絞るっていうこともします。中国戦では板倉滉選手を結構見ていたかな。遠藤選手、酒井宏樹選手、谷口彰悟選手とかも。昔は中澤佑二選手、田中マルクス闘莉王選手を狙って、そのままゴールっていうのもありましたし、昨年のU24のアルゼンチン戦でもゴールを決めてくれましたから。
2021年3月29日、U24アルゼンチン戦でゴールを決めた板倉滉
中国戦の後半、セットプレーで日本のゴール前になだれ込む瞬間。中央に写るのが中山雄太
二宮 この写真は中山雄太選手にピントを合わせている。
高須 中山選手は僕のいた位置からだと一番撮りにくいポジションでした。それなのに途中出場してすぐにアシストを決めたじゃないですか? ある意味で試合の流れを引き寄せたMVPのような存在なのに、まともな写真が一枚も撮れない状況でした。そういうとき便利なのが、セットプレーです。走り込む瞬間なら動きもあるし、迫力も演出しやすいのでシャッターチャンスだと思ってます。
二宮 高須さんの写真で僕が好きなのは監督の写真。オシム監督、ザッケローニ監督、ハリルホジッチ監督ら外国人監督の表情をうまく押さえていたなっていう印象があります。
高須 ありがとうございます。
二宮 表情を撮るポイントは?
高須 気に掛けているのは瞳の位置ですね。そこがちょっと違うだけで、顔の印象って変わるんですよね。だから結構、連写しちゃいます。コロナ禍で今はできないですけど、以前は試合後の記者会見でも監督の表情をよく狙っていました。
2007年9月11日、アウェーのスイス戦。試合前のオシム監督の表情を連写。瞳の位置で印象が変わるわかりやすい例
二宮 森保一監督を撮っていて、何か感じることってありますか?
高須 監督に就任して間もないころ、試合前、君が代斉唱の際に目がウルウルしていたのを撮ったことがあります。日本代表として「ドーハの悲劇」を経験していたりするわけじゃないですか。やっぱり日本代表の戦いって特別で、熱いものがこみ上げてきたのかなって思いました。
二宮 クールを装ってますけど、熱い監督ですからね。
高須 でも絵になる監督で言えば、僕のなかではオシムさんが一番かなと思います。どんな表情でも絵になっちゃうんですよね。
二宮 かつオシムさんの人気はメチャメチャ高かったから、Numberでもよく表紙とかになってましたもんね。
高須 森保さんみたいにクールな人もいれば、ハリルさんみたいに感情を思い切り出す人もいます。監督ウオッチングは結構、楽しいですよ。
2022年3月公開