勝負どころのシュートが心憎いほどにうまい。
40歳のフットボーラー、山瀬功治を見ているといつも唸らされる。愛媛FCでの契約満了に伴ってレノファ山口に移籍した2022年シーズン。第2節のホーム、ブラウブリッツ秋田戦に先発した彼は、後半5分に先制ゴールを奪った。
ペナルティーエリア内で半身になって味方の縦パスを受け取ると、半身の姿勢からすぐに前を向いてフェイントを入れ、左足でニアを射抜いた。一連の動きにはよどみなく、一切のムダがなく。ベテランの味と言ってしまえばそれまでだが、相手を手玉に取ってしまう駆け引きとテクニックはまさに彼の真骨頂だ。遠藤保仁に次ぐ歴代2番目となるJリーグシーズン連続ゴールを「23」に伸ばした。
横浜F・マリノス時代の山瀬功治選手はドリブルで勝負する意識を強く持っていました
そんな山瀬の初の著書「ゴールへの道は自分自身で切り拓くものだ」(ワニブックス)が刊行された。これまでの半生を自分の言葉でつづった一冊。両ひざの前十字靭帯断裂や4度の契約満了など試練にさらされながらも、サッカーへの情熱と愛妻や周囲の支えによって困難を乗り越えてきた。筆者も何度かインタビューをさせてもらったが、この本で初めて知った事実もあった。彼の誠実かつ実直な性格も伝わってきて、「フットボーラー山瀬功治」の考え方、生き方が理解できる。帯にある「今日が〝自分史上最高〟」という表現も、実に彼らしい。
2017年シーズン、三浦知良に並ぶ18年連続ゴールを達成したときのことを振り返るくだりが興味深い。一部、抜粋させていただく。
「若くてもっと体が動く状況なら、何度もゴール前へ入っていけばチャンスの数は増えるだろう。でも35歳の自分がそれをやるのは難しいので、ここぞというタイミングに狙いを定めなければいけない」
これは守備に関しても当てはまると記しているのだが、確かに近年における彼のプレーを見ていると量よりも質にこだわっているように感じる。秋田戦のゴールがまさにそう。何回もゴール前に入っていけないかもしれないが、勝負どころで己のすべてを駆使してミッションを完遂する。この力があるからこそ、彼は必要とされるのだ。
個人的な好きなゴールシーンがある。
愛媛FC時代、2020年9月2日の町田ゼルビア戦(ホーム)だ。
1点ビハインドで迎えた前半アディショナルタイムだった。裏に飛び出して味方のパスをゴール前で受け取った丹羽詩温(現在はツエーゲン金沢)の動きに合わせて、ペナルティーエリア内にポジションを取った。丹羽はシュートを打つと見せかけてマイナスにパスを送り、山瀬は左足ワンタッチでボールをミートしてゴール左隅に滑らせている。
相手GKが触れそうで触れない、絶妙なコース、インパクト。高い技術なくして生まれないゴールであった。
後日、山瀬にこのシーンを尋ねた。
「スピードを使って相手の前に入っていくのは、今それほどできるわけじゃありません。(今回のように)入ると見せかけてマイナス気味にポジションを取るようにならざるを得ないところもあります。でも、あのシーンは(中に)入っていくのがちょっと遅かったんですよ。その前に一度、最前線まで入っていたのでちょっと疲れていましたから(笑)。(丹羽が)よく折り返してくれたと思います。抜け出した段階で彼がシュートを打ってもおかしくない角度でしたから。
自分としては監督から得点に絡むプレーの要求がずっとあるので、ゴール前にポジションを取ったり、裏に飛び出したりというのは意識してやっていることではあります」
マイナス気味の位置にフリーでいたことに意味があった。だからこそ味方もシュートではなく、パスという選択肢をしたはずだ。
パスが来る、来ないではなく、そこにいる。得点のにおいがするところに必ずいる。動きの質、シュートの質。あのゴールも、私には必然に見えた。
高須力さんが撮影した横浜F・マリノス時代の写真をもう一枚。10番をつけ、チームの大黒柱でした
本のタイトルのとおり、ゴールへの道を彼は自らの力で切り拓いてきた。「おわりに」にはこうつづっている。
「小さな努力をコツコツと積み上げてきた普通の人間だ」
その小さな努力の積み重ねは、今もこれからも。山瀬功治の生き様は、プレーの一つひとつを見れば実によく分かる。
終わり
2022年3月公開