バスケをプレー中に悪夢、ブチって音はしなかったけれど…
今回の「しぶさんぽseason13」は渋谷淳のアキレス腱断裂により松葉杖編。相棒の近藤カメラマンと2人、ターゲットに定めた立川立飛を目指し、JR国分寺駅から中央線に乗り込んだ。えっ、なんでアキレス腱を切ったかって? それを説明すると……。
あれは2022年1月22日、土曜日のことだった。私は仲間たちと体育館でバスケットボールを楽しんでいた。お楽しみも中盤、5対5のゲーム形式でプレーしていたところ、私は突然コートに倒れてしまったのだ。ドリブルを突き始めたときだったか、ディフェンスで相手の動きに合わせて動き出したときだったか。とにかくいきなり倒れて、見上げるとみんながのぞき込む顔、顔、顔という状態になったのである。
ギブスをして3週間強。足はかなりむくんでます
「あれっ? だれかオレに後ろからタックルしてきた? してないよね?」。そんな気分。アキレス腱を切ったと言うと、10人中9人から「ブチっ!って音がした?」と聞かれるけど、音が聞こえた記憶はない。
そもそも最初の段階でアキレス腱を切ったとは夢にも思わなかった。そんな経験はしたことがないし、アキレス腱を切ったら足がブラブラして、とてもじゃないけど歩けないと思い込んでいたからだ。その日はそれでプレーをやめて、子どもと一緒に自転車で家まで帰った。さすがに途中の坂を上るあたりはかなりきつかったけど、この時点では捻挫だと思っていた。
ところが――。
家に帰ってアキレス腱断裂の症例を調べてみると、「後ろからいきなりぶつかられたような感覚」というから実体験とピッタリと合致。青ざめた私は週明けの月曜日に病院に行き、医者から「断裂ですね~。部分断裂? いやいや、全部切れてます!」とあっさり宣告されてしまったのだ。
紆余曲折あって手術はせず、保存療法というアキレス腱が自然にくっつくのを待つ治療法を選択した。こうして私のギブス&松葉杖生活が始まったのである。
JR立川駅から多摩都市モノレールの立川北駅へ
はっきり言って松葉杖はかなり不自由だ。松葉杖は手首に全体重がかかるので、まずこれが痛い。慣れないうちは近くのコンビニやスーパーに行って帰ってくるだけでも大変だった。途中で休み、休みしながら、それでも家に帰るころにはTシャツが汗で濡れ、毎回シャツを着替えることになった(いい運動にはなった)。
地味にストレスを感じるのが買い物だ。両手がふさがっているため、買い物かごを持つことも、カートを押すこともできない。手にできるのはせいぜいビール一缶、ポテトチップス一袋くらい。スーパーで自分が食べるつまみや、家族が寝静まったあとの夜食、アルコール類をちょこちょこと買う私にとって、「買い物力の90%減退」はなかなかのストレスになった。
あとは食事。外食では目の前に食事を運んでもらえないと厳しい。トレーを持ったり、グラスを持って移動したりができないからだ。そうすると行ける店がけっこう絞られてくる。ファミリーレストランなんかでも、ドリンクバーとかスープバーはダメ。牛丼屋なんかでも最近はセルフの店がけっこうある。
ギブス姿のイニエスタに、己の姿を重ね合わせる
もちろんお店の人に運んでもらうという手はある。カフェなんかだと、たいていレジのところで「お席までお持ちいたします」と言ってもらえる。でも、私のソウルフード、立ち食いそば屋だったらどうだろう。あの狭い厨房から出てきてもらって席まで運んでもらうのはちょっとぉ……。頼めばきっと運んでくれるだろうけど、試す勇気はまだない。
そんなこんなで、松葉杖になってから「行けない店」、「行けなくはないけど行きにくい店」がはっきりできてしまった。車いすの人や高齢で足の弱い人の気持ちがほんの少しだけ分かったような気がする。飲食店一つとっても、彼らの選択肢は私たちに比べてかなり少ないのだ。やっぱ大変だよな~。そんなふうに考えるようになった。
こうして正面から見ると松葉杖はかなり幅を取る
生活の不便さをかみしめながら、私はギブスや松葉杖のアスリートを探してみた。いました! まず発見したのはテニスの錦織圭選手。左股関節の手術を受けたということで、松葉杖で歩く姿がSNSにアップされていた。いはやは、トップアスリートは松葉杖姿もサマになる! 我が身との歴然とした違いに妙に感心してしまった。
サッカーのJのヴィッセル神戸で活躍するアンドレス・イニエスタ選手のギブス姿も目に入ってきた。こちらは右大腿直筋近位部腱断裂。20年12月の試合がけがをしたそうで、イニエスタ選手は既に復帰している。2月にNHKで放送していた『証言ドキュメント イニエスタの決断~知られざる142日~』で知ることになった。
世界のスーパースター、イニエスタ選手は現役生活終盤の36歳にして選手生命の大ピンチといえる大けがを負った。番組はけがをしたところから始まり、母国スペインでの手術、日本で車いすからのリハビリ生活、復帰戦に出場するまでの142日を追った迫真のストーリーだ。サッカーへのあふれる情熱が復活への道を切り開いていく。さすが、一流のアスリートは違う!と思わせる内容だ。
オレだって50歳だけどバスケットボールに復帰する!
一瞬にして気持ちを高ぶらせたものの、はっきり言って自信なし。復帰したいけど、またやっちまったらシャレにならない。自分の境遇をイニエスタ選手と重ね合わせつつ、五十路の我が身を冷静に見つめる私なのであった……。
「渋谷さん、渋谷さん!」
おっと、近藤カメラマンに声をかけられて我に返った。車窓を眺めながらボーッとしてしまったようだ。
電車はJR立川駅に到着。私たちは中央線を降りて、多摩都市モノレールの立川北駅へ。目的地の立川立飛が近づいてきた。
2022年3月公開