二宮 中林先生は家族サービスもしっかりやっていらっしゃる。そのうえで趣味のボクシング観戦も両立させている。素晴らしいです。
中林 今、上の子が小学5年生で下の子が2年生なんですけど、上の子は生後10カ月で山中(慎介)さんが世界タイトルを獲った試合に連れていきました。リングサイドにベビーカーを置いて(笑)。
二宮 アマチュアボクシングも結構チェックされていたとか?
中林 それこそ高校6冠の粟生隆寛さん(元WBC世界フェザー級、スーパーフェザー級王者)の試合を高校総体で観て、この選手は凄いなって思いました。体型も余裕のある絞り方で筋肉が柔らかくて。プロになったら複数の階級で世界チャンピオンになるんじゃないかなって。
二宮 実際、2階級制覇ですもんね。
中林 亀海喜寛さんも富山国体で観ています。そのとき粟生さんほど強いインパクトはなかったのですが。いや、そんなことを言うと怒られてしまいますね(笑)。
二宮 亀海さんは本場アメリカでの評価が抜群でしたからね。2014年4月には4階級制覇のロバート・ゲレーロに真っ向から勝負を挑みましたし、アメリカ7戦目となった2016年4月には〝激闘王〟ヘスス・ソト・カラスと壮絶なファイトを展開して権威あるリング誌の年間最高試合賞候補にもノミネートされました。
中林 あのミゲール・コットとWBO世界スーパーウェルター級王座を懸けて戦っていますからね。素晴らしいボクサーです。
亀海さんからプレゼントされた試合用トランクスは中林さんの宝物です
二宮 筋金入りのボクシングファンであることはよく分かりましたが、まだアンチ・ドーピングとのつながりが見えてきませんね。
中林 実はあるきっかけがありまして。
二宮 そこ聞きたいです。
中林 きっかけは2006年のトリノオリンピック出場を目指すボブスレー日本代表との出会いでした。のちに監督になる石井和男さんとは趣味の車を通じて親交がありました。誕生日が同じだったり、僕が大学時代に住んでいた北松戸の出身だったり、いろいろと共通点が多くて。その石井さんから男女ボブスレー代表のマウスピースをつくってほしいという依頼があり、その専門の方を紹介したんです。
二宮 スポーツとの絡みがボブスレーだったんですね。
中林 そうです。医・科学スタッフに入ることになり、ドーピングの勉強をしてもらえないかという要請がありまして。そんな経緯でドーピングのことを勉強するようになり、日本アンチ・ドーピング機構(JADA)の資格を取得したんです。加えてマウスピースづくりのノウハウも覚えました。
二宮 ボブスレーをきっかけにいろんなスポーツにおいてアンチ・ドーピングの活動をやっていくことになる、と。
中林 サッカーもやりましたし、アマチュアボクシングも。そんななかボクサーと交流のある知人を通して「面白いボクサーがいるから会わないか」と紹介されたのが、亀海さんでした。その縁で亀海さんのアンチ・ドーピングをサポートするようになり、三浦隆司さん(元WBC世界スーパーフェザー級王者)、山中慎介さんとドンドン広がっていくことになりました。
二宮 サポートするボクサーとはどんな交流を?
中林 いや、もうLINEのやり取りだけですよ。ボクシングファンではありますけど、僕からしたらみなさん凄い人たちばかりですから。たとえば山中さんとも、試合会場で初対面でしたからね。自分からサインをもらったこともありません。小学生のときに具志堅(用高)さんにもらっただけ。ただ亀海さんがいろいろと僕に気を遣ってくれて、選手のサインやグッズを持ってきてくれるんです。
二宮 クールに見えて実は周りに気を配る亀海さんらしいですね。
中林 彼のおかげで多くのボクサーとの縁ができましたからね。LINEの連絡先だけで言えば、そうそうたるボクサーの名前が入っています(笑)。
中林先生はボクサーのサインを大切に飾っています
二宮 あらためてうかがいますが、先生がボクシングに惹かれる理由を教えてください。
中林 努力の結晶が見える場じゃないですか。体つきやボクシングを見れば、どれだけ努力をしてきたのか想像もできる。そのボクサーの人生が見える場所でもあるし、セコンドも含めて一つのチームになって勝利を目指していく。後楽園ホールに行くたびに、やっぱりボクシングっていいなって思いますよ。
二宮 アンチ・ドーピングの知識を持つ中林先生のような人が、プロボクシングのアンチ・ドーピング活動にもっと関わっていくといいんじゃないかと個人的には思いますが。
中林 世界アンチ・ドーピング機構(WADA)の統一ルールを国際オリンピック委員会(IOC)はじめ各国際競技連盟が採用しているわけですが、プロボクシングはWBAもWBCもVADAを採用していて、ちょっと独特なんです。さらにアメリカでは州ごとに規定や検査方法も違う。日本のプロボクシングで言えば、ドーピング規定が整備されていない状況。つまり日本のプロボクサーはアンチ・ドーピングの教育を受けていない人が少なくない。ここはしっかりやっておく必要があると思うし、ボクサーや日本のボクシング界に不利益がない形にするために手伝えることは手伝いたいですね。そして自分ができるもので言えば、もう一つあると思っています。
二宮 歯科医師の観点からでしょうか?
中林 そう、マウスピースですね。適正なものを使用すべきです。若いボクサーや学生は既製のものを使ったりしていますが、自分の歯型に合っていなかったら意味がない。マウスピースをただ付ければいい、ではダメなんです。自分の歯型に合ったマウスピースを使うことでケガ防止につながりますから。口の健康診断もボクサーには必要です。
二宮 いろいろとタメになる話をありがとうございました。これからも月1度の〝後楽園行脚〟は変わらず、ですか?
中林 もちろんです。これだけはやめられそうにありませんね(笑)。
(終わり)
※写真はすべて中林靖さんからの提供写真です
2022年2月公開