バスケ日本代表のスタッフとして五輪出場権獲得の歓喜を味わう
ジークスター東京のアナリスト、荒川哲史は2019年までバスケットボールのアナリストとして活躍していた異色の経歴を持つ。2017年4月、教員を辞めて日本バスケットボール協会(JBA)に飛び込んだ荒川はいきなり大舞台を踏むことになった。
「私がJBAで働き始めたときです。A代表のアナリストがドイツにいて、チームへの合流が少し遅れてしまうという事態になりました。そこで私がA代表に関わることになったんです。すぐに長野県で開催された東アジア大会がありました。新人の私にできることなんてほとんどありません。でも、周りの人に支えられて、なんとか遂行できました」
東アジア大会を終え、荒川は主にU-15など育成年代の育成合宿をサポートすることとなり、地に足を付けて仕事をするようになる。合宿試合の映像を撮影し、編集して全国の指導者に役立ててもらうようなビデオも作った。
U-18の国際大会に出場した際、対戦相手となったカザフスタンの映像がまったく入手できない事態に直面した。そこで荒川が目を付けたのが相手チームの監督だ。彼が普段、指導しているクラブチームの映像を偶然入手し、分析した。そして初戦、蓋を開けてみるとやはりそのクラブとほとんど同じシステムで戦ってきた。これはヒットだった。
「国際大会ではアナリストの席が決まっていて、そこで他国のアナリストと交流が生まれるんです。『どんなソフトを使ってるの?』とか、『こういう試合の映像持っていない?』とか。そういう場でも多くを学びました」
仕事にも慣れ始めた2018年10月、荒川はテクニカルスタッフ(アナリスト)として男子A代表に引き上げられる。当時のフリオ・ラマス・ヘッドコーチ(HC)の指名だった。経験不足を自覚し、不安もあったが、断るという選択肢はなかった。
代表はスタッフが多いので、それぞれの役割は細分化され、出される注文もより具体的で細かくなる。荒川はラマスHCが得点効率を大事にする指導者だということを頭に入れながら、日々の仕事に全力で取り組んだ。
当時、日本代表男子は2020年の東京オリンピック出場権獲得に向けて正念場を迎えていた。国際バスケットボール連盟は自国開催チームに自動的に出場権を認めておらず、日本は19年ワールドカップの出場権を獲得すればオリンピックにも出られると見込まれていた。そのワールドカップ・アジア予選がカタールで開催されたのが同年2月。日本は見事に出場権を獲得し、オリンピック出場への道を切り開いた。
チームとともに戦った荒川の感激もひとしおだった。
「中国で行われたワールドカップはNBAで活躍する(八村)塁くんがいて、(渡邊)裕太くんもいて、本当に大きな舞台でした。ワールドカップ出場を決めた瞬間はすごくうれしかったですね。カタールで選手、スタッフと喜び合った経験は忘れられない思い出です」
JBAでの仕事は充実していた。同時に業務は多忙を極め、大きなプレッシャーと戦い続ける日々でもあった。全力で走り続けた荒川はワールドカップを終えたあと、いったんバスケットボールから離れようと心に決めた。
「Bリーグのチームを紹介しようと言ってくれた人もいたのですが、これまで“会社で働く”という経験をしてこなかったので、一度、企業に就職して働いてみたいという思いがありました。そこでスポーツにITを導入しているライブリッツの面接を受けて、入社が決まりました。ライブリッツは野球で大きな成果を出していて、これからはサッカーやハンドボールといった流動性のあるスポーツにも進出しようとしていたタイミングでした。ですからバスケのアナリストをやっていた私が採用してもらえたのだと思います」
バスケからハンドへまさかの転身 アナリストとしてこれからが正念場
これも縁というのだろう。ライブリッツは当時、同じフューチャーグループとなったジークスター東京のバックアップを始めるところだった。具体的にはまず、ジークスターの分析システムを作ること。就職したばかりの荒川はこのミッションを担うチームにアサインされた。
荒川はライブリッツの窓口としてジークスター東京に出向き、監督の横地康介と何度も話し合い、ハンドボールの戦術を立てるうえでどのようにデータやITを生かせるのかを一緒に考えた。荒川はその内容を社内に持ち帰り、社内で打ち合わせた結果をジークスター東京に提案するという、双方をつなぐ役割を果たしていた。そうこうしているうちに横地が思いも寄らぬ提案を口にした。
「荒川さん、うちでアナリストをやってみない?」
ジークスターはちょうどチームのアナリストを探していた。荒川は敬愛する横地からの提案ということで素直に受け入れた。フューチャーグループというつながりもあり、ライブリッツから出向するという形ですんなりまとまった。
「横地さんは、何も知らない私に『ハンドボールはこういうスポーツです、こういう戦術があります』と、とても丁寧に教えてくれました。そのおかげで横地さんが“こうしたい”というハンドボールの形は早い段階で理解できました。ジークスターとの仕事を始めて2ヶ月ほど経ったとき、アナリストとしてチームのお手伝いをさせていただくことになったんです」
荒川はその性格に加え、ハンドボールをよく知らないこともあって、常に謙虚な姿勢で仕事に向かった。監督や選手からはできるだけ学ぼうとした。同時に、分析のプロとして言うべきことは臆さず言うようにも心がけた。そうした荒川の働きぶりは横地から大きな信頼を得ることになる。
チームは今シーズン、プレーオフ進出圏内の2位につけ(2月14日時点)、日本リーグ参戦2シーズン目の初優勝を視野に入れている。しかし、伝統の日本リーグが“新参者”にみすみす優勝を許すほど甘くないのも事実だ。荒川自身、これからが正念場だと自覚しているし、まだまだチームが向上できるとも感じている。
「今シーズンは移籍選手や途中から加入した選手も多く、チーム作りが難しい面はありますが、その中でチームとしての方向性をしっかり定めることが大事だと思います。このチームならまだまだやれる。そう感じているし、私自身もっとがんばらなくではいけないと思ってます」
思わぬ成り行きでハンドボールのアナリストになって2シーズン目。アナリストの奮闘はまだまだ続く。
ジークスター東京物語 アナリスト 荒川哲史 おわり
2022年2月公開