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山を歩こう。写心家 山口裕朗 VOL.3

東京都最高峰 2017メートルの雲取山を目指す

2011年6月、初めてのハイキングを終えた私、シゲル氏、マリコの3人は明大前の居酒屋で、心地よい疲労感と充実感に包まれながら「俺たちやればできるじゃねーか!」と大いに盛り上がっていました。

左から私(山口)、マリコ、シゲル氏

 

何杯目かのビールを飲み干し、ジョッキを“コンッ”とテーブルに置いたシゲル氏がニタリとしながら、「次はどこ登ろうか。」と切り出しました。なかなか気の大きくなっていた3人の意見はあっという間にまとまります。

雲取山にしよう!

雲取山は、東京都・埼玉県・山梨県の境界に位置する山で、標高は2017メートル。
東京都に2000メートルを超える山があったんですね!

以前、雲取山に登った事があるマリコは、その時、山小屋で泊まって1泊2日の行程だったそうですが、今回は奥多摩湖から少し山梨県側に進んだ鴨沢から、日帰りで同じ道を往復する鴨沢ルートを選択。皆の仕事のスケジュールを考えて、日帰りで行く事になりました。

調べてみると、往復で12時間。
デビュー戦より長い行程。

山と高原地図のコースタイムは、40-50代の方を基準に作成しているようなので、当時30半ばを過ぎた私なら、それほどまで時間はかからないだろうと甘く見積もりました。
初心者の山登りにはまだ早い山行計画だったと、経験値が上がった今となっては思います。

自分たちの限界を知らなかったからこそ選択したルート。

前回は、少し進めばたくさんの下山ルートがあったのですが、雲取山はそんなに人里近くにある山ではなく、アクシデントがおこっても、とにかく自分の足で人里まで歩くしかありません。

逃げ道のない場所が山なのだと思い知るとは、この時はつゆ知らず・・・。

決行は梅雨が明けた7月下旬。
デビュー戦で膝痛と戦ったシゲル氏は、ワコールの登山用タイツと、吸汗速乾性のあるアンダーシャツを新調していました。
痛い思いをして得た経験値こそが、真の技術となるのです。
シゲル氏の装備は、格段にステージアップしていました。

マリコは“魔法の杖”を持参

 

私は前回と同じ装備ですが、マリコは新たにトレッキングポールを持参。
秘密兵器を持っていたのです。

「30代で杖なんかついてられっかよぉ」と、なぜかいきがっていた私は、トレッキングポールが、デビュー間もない島崎和歌子演じる『魔法少女 ちゅうかないぱねま』の魔法スティックのような輝きを放つ強力アイテムだと知るのはもう少し後のこと。

余談ですが、デビュー曲『弱っちゃうんだ』でデビューした島崎和歌子は、清純派アイドルでありました。ファーストアルバムは『マシュマロキッス』であります。

今回もカメラを持参。

東京で一番高い山なら、きっと景色も良いだろうと、28-300mmという広い画角をカバーする魔法のレンズとNIKON D700というセット。

写真愛好家であれば承知の事だと思いますが、これだけの画角をカバーできるレンズは、普段仕事で使う開放F値の明るいレンズと比較してしまうと、シャープな画質は出てきません。利便性を優先した訳です。

しばし景色を堪能

 

鹿の親子に遭遇、テンション高まるも体は…

スタート地点の鴨沢には、下山者が杖代わりにしたと思われる木の棒が転がっていて、シゲル氏は、拾い上げた木の棒を如意棒の様に携えました。
登山道の入口には「熊出没注意!」の看板。

スタート地点のわりと近くに住んでいた世界的な登山家、山野井泰史さんが、数年前に山をランニングしている時、ツキノワグマに襲われて90針を縫う怪我をしたと聞いていました。

狩猟の取材をしている事もあり、熊に気取られない方法の逆をつけば熊に気取ってもらえて、さほど恐れる事はありません。
会いたいと思って山に入っても、中々姿を見られないのがツキノワグマなんです。

人間も同じですが、一部の気狂いの個体を除いて、ほとんどのツキノワグマは人に会いたくないんです。
鈴にどれほどの効果があるのかは知りませんが、確実に人の存在をアピールするには声を出すこと。
猟の時に、獲物を追い上げる勢子(せこ)が発するように、「ほりゃほりゃー」と、時々腹からの声をこだまさせて歩きます。

このあたりに熊は出没しなさそう

 

シゲル氏が、手に入れたばかりの自慢の如意スティックで熊退治をしてくれる!なんて期待を持ってはいけません。
マリコがトレッキングポールをクルクルさせて、「りんぱら イパネマ シャオシャオ パイ」などと、島崎和歌子になりきったとしても、魔法でクマは撃退できません。

七つ石小屋で、一休みして水を補給。
途中で給水できるのは本当に助かります。
坊主頭にザバッと水をかけて、首筋のベタつきを洗い流せます。またすぐ汗をかくとわかっちゃいるけど、実に爽快。
七つ石小屋でリフレッシュして、少しだけ足取りも軽くなります。

僧侶のように黙々と前進するシゲル氏

 

ほどなくすると清々しい気分で森を進軍する私達に恐ろしい刺客が襲来。
アブだか蜂だかがブンブンまとまりついてきて、ずーっと離れません。
引っ叩いてやろうと「キェーーーーッ」と甲高い声を上げながら、頭に巻いた手ぬぐいをとってブンブン振り回すのですが、奴らはボクシングの4階級王者、パーネル・ウィテカーのようにスイスイと華麗によけて一発たりとも命中せず、無駄な体力を消耗。

シゲル氏は、如意スティックを振るって追い払うような無駄な抵抗はしません。
ブンブン達の攻撃を受け入れながら、黙々と如意スティックと脚とを動かすその静謐な姿は、悟りを開いた僧侶の様にも映ります。

森をぬけて尾根に出ると、親子連れの鹿に遭遇して、気持ちも高まります。

鹿の親子連れがかわいい!

 

ところがです。軽快だったシゲル氏の脚がこのあたりから鈍り始め、私とマリコから遅れをとりはじめました。
山頂までもう一息の場所に位置する奥多摩小屋のあたりで休憩をすると、シゲル氏は前回と同じく、「膝が痛くなってきた」と漏らしました。
島崎和歌子のデビュー曲『弱っちゃうんだ』的な状況になってきました。

シゲル氏の膝がさらに悪化するとは、この時はまだ想像できませんでした…。

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2022年2月公開

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