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マニアックモノガタリxエンタメ大百科 Season3 VOL.2

二宮 いい敵役がいないとスポーツ映画は成り立たないところがありますよね。ジャマイカのボブスレーチームを、いろいろと挑発するのが確か東ドイツのチーム。バーでもちょっかいを出してきて、でもそれがジャマイカチームの奮起を呼び起こすことにもなります。

近藤 実際に出場した1988年のカルガリー冬季オリンピックでは、かなり温かい感じで迎えられたそうですよ。

二宮 そりゃそうでしょうね。ウインタースポーツに馴染みのない国からやってきたんだから、歓迎ムードになるのが普通。でもそれじゃ映画のストーリーにはならないってことでしょ。

近藤 最後、ソリが横転してしまったのはオリンピックと同じ。実際はソリを大会関係者が押して、選手たちは歩いてゴールしましたけど、映画では違います。そこでいつも挑発していた東ドイツの選手が真っ先に手を叩いて、周りの手拍子を呼び込みました。ちょっと感動モノでしたよね。

二宮 ボブスレーを愛するがゆえの挑発だったのかな、と。最後は転倒したけど、お前ら、やるじゃないか、最後まで頑張れって。ライバル、いやまだライバルとは認めてないんだけど、競技を愛する者同士の仲間意識みたいなものを僕は感じたな。

近藤 二宮さん、だいぶ熱くなってきましたよね(笑)。その前にコーチの言葉で感動したシーンがあったとか。

二宮 そうなんです。ジャマイカのチームを愛情たっぷりに指導したコーチは不正行為で過去に金メダルをはく奪されていて、一人の選手が最後のレースの前夜に聞くんですよ。なぜ、不正行為をしたかって。コーチは正直に答えた後で「でもメダルより尊いものがある。ゴールすれば分かる」と。ゾクゾクとしちゃいましたね。

近藤 いい記録は出せなかったけど、拍手のなかゴールしたシーンがすべてを物語っていましたね。

二宮 スポーツって本当にいいもんですね~。

近藤 口調が水野晴郎さんになってますよ(笑)

二宮 近藤さんはボブスレーを撮影したことってないんですか?

近藤 実は以前に長野のスパイラルで開催された大会を一度撮影したことがありまして。

二宮 どうでした?

近藤 やっぱりスピード感は半端なかったですね。映画でも時速130kmって言ってましたけど、シャッターチャンスが極端に少ない競技。ドーム状のコースで外からどうなっているか見えない場所があるし、出てきても一瞬だし、背景も雪と氷で真っ白。これまでのボブスレーの写真を見ると同じようなものが多かったから「自分はちょっと違う感じで」と思っていましたけど、そんなことは無理でした。

二宮 わっ、難しそう。

近藤 僕が撮影した大会は4チームが参加して2本ずつ滑るから計8本。最初は全チームのスタートだけ撮って、次に場所を移して滑っているところを2回目に。でも残り4本しかないからテストもできないし、シャッタースピードも失敗できないので結構緊張した思い出がありますね。コースのすぐ近くから撮影できたんで、ソリが削った氷が飛んできたりもしました。

二宮 その会場にもレゲエの曲が流れていたとか?

近藤 残念ながら(笑)。お客さんも数えるほど。ただ、選手たちはいい人ばかりで、カメラマンの僕とすれ違うとみんな挨拶してくれました。僕の写真が雑誌に掲載されて、一人の選手から出版社に写真がほしいと連絡があって。どうもその大会を最後に引退したようで「いい写真をありがとうございます」と言ってくれたそうです。

二宮 いい話! 

近藤 ボブスレーって近くで撮影していて本当に迫力がありましたよ。バランスが凄く大事で、全員がそろってうまく体重移動しないとカーブがスムーズに曲がれない。

二宮 映画でもみんなでバスタブに入って体重移動するって場面ありましたよね。「クールランニング」って言うとあの場面をイメージする人も少なくないはず。

飛んでくる氷には気をつけよう。

 

近藤 映画のカメラワークも、スピード感、臨場感が伝わってきて結構こだわっていたかなと。

二宮 ソリの前後の外側や内部にもカメラを装着していて、工夫していましたよね。ボブスレーって体感速度やばいなって思えましたから。

近藤 実際のカルガリーオリンピックのニュース映像も交えながら。これによってリアルな感じも伝わってきました。

二宮 そうなのよ。だから余計に感情移入できるような描き方になっていました。

近藤 ジャマイカチームのソリは「クールランニング」と命名されます。ちゃんと意味もありました。

二宮 かっこよく走る、じゃなかったんですね。

近藤 映画では「旅に無事あれ!」と言ってましたね。良い旅を、ということなんでしょう。でもなぜ人ってマシンに名前をつけたくなるんですかね?

二宮 元世界チャンプの山中慎介さんが大好きな漫画「ろくでなしBLUES」の主人公、前田大尊は自分のスクーターに「チャベス号」と名づけてましたよね。ちなみに僕が最近まで乗っていたママチャリも「チャベス号」です。名前をつけると愛着がわくんですよ。一蓮托生の同志みたいな。だから長らく乗っていましたよ、僕の「チャベス号」。

近藤 そんなどうでもいい話で締めちゃっていいんですかね(笑)。

二宮 80年代、90年代のこういったコメディタッチの作品って、今観るとツッコミたくなるところも結構あるんだけど、意外になかったんですよ。だから締めのオチが見つからない(笑)。

近藤 確かに今観ても、普通に笑って、最後は感動してしまいましたよ。

二宮 それでは次回、お楽しみ。サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ。

マニアックモノガタリxエンタメ大百科 映画「クールランニング」 終わり

2023年11月再公開

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