■座談会出席者
フリーライター兼コラムニスト 高木圭介(元東スポ記者)
SPOAL編集者 渋谷 淳(元河北新報、元内外タイムス記者)
SPOAL編集長 二宮 寿朗(元スポニチ記者)
渋谷 それでは天龍源一郎さんの入場曲「サンダー・ストーム」に関する、いい話、よろしくお願いいたします。
高木 1982年2月、全日本プロレスの東京体育館大会でミス・マスカラス-天龍のIWA世界ヘビー級タイトルマッチがあって、テレビマッチだから初めて「サンダー・ストーム」が流れて。この年に奥さまになる、まき代さんに「テレビ中継あるから見ておいてくれ」と言ったのがこの試合。
二宮 入場曲にマッチしてカッコ良かったんでしょうね。違う入場曲だったら、結婚までいってなかったのかも!?
高木 お前、コノヤロー。
二宮 すみません、天龍さんのモノマネで怒るのはやめてください。
高木 2015年11月に引退試合を行なったときに、高中正義さんが会場で生演奏してくれたんだよね。
二宮 2人が直に会ったのは初めてらしいですね。
高木 あなたたちはボクシングをよく取材するでしょ。高中さんにはボクシングとの関わりもあるんだけど、何だか分かる?
渋谷 えー! いや、まったく分からん。
高木 実は「あしたのジョー2」でホセ・メンドーサと矢吹丈、2人とも高中さんの楽曲を使っているんだよ。フフフフフ。
二宮 どちらが「サンダー・ストーム」を?
高木 ちげえよ。ホセが「マンボナンバー6」で丈が「FINGER DANCIN‘」。高中さんのファンなら一発で分かる。
渋谷 ジョー山中だと思っていましたよ。
高木 それは映画だね。「あしたのジョー2」は日本テレビだったから、ひょっとしたら全日本プロレスの音響を担当した人が、選曲したのかもしれない。そう思えるくらいセンスがいい。
二宮 入場曲と映画のサントラっていうところに話を戻すと、三沢光晴「スパルタンX」もかなり有名です。
高木 香港映画からのチョイスという点では前にも話したけど、マスカラスもそうなんだよね。まあ「スパルタンX」はジャッキー・チェン主演だから有名。ただあの曲は劇中で流れてないんだよな。
二宮 ファミコンのソフト「スパルタンX」にも流れてなかったですね。
渋谷 ……。
高木 三沢さんは映画「惑星大戦争」のサントラとか使ってたんだけど、試行錯誤の末に「スパルタンX」で定着した。でもプロレスファンなら知っているが、上田馬之助が新日本時代にUWFとの5対5エリミネーションマッチとかで先にこの曲を使っているんだよね。
二宮 馬之助さんのイメージは全然ないなあ。
渋谷 どうして映画のサントラがいいんですかね?
高木 ドラマチックにつくるのがデフォルトだからね。昔の(楽曲)はオーケストラ録音が多かったから重みがあるというのはあると思うよ。たとえばK―1の佐竹雅昭はゴジラファンとも知られていて「怪獣大戦争のマーチ」が使われた。でも古いからモノラルなのよ。だから許可を取ってオーケストラでステレオ再録音して、大会場でもド迫力で響き渡るようにしたんだよね。正道会館の意向なのか、フジテレビの意向なのかは知らないけど。でもこの入場曲が佐竹さんの売り出しに一役買ったとは言えるよね。
二宮 ここにも何かトリビアあります?
高木 ステレオ音源は特に大きな会場で迫力が出るんだけど、東京ドーム大会では逆にモノラルにするって知ってた?
渋谷 どういうこと?
高木 ステレオ音源だと逆に四方八方に分散して響きすぎて音がバランバランになっちゃうのよ。だから敢えてモノラルに処理した音源を使う。これ、ザ・クロマニヨンズと同じく、敢えてモノラル音源にするっていう。
二宮 勉強になります(へぇーボタンを押すように机を叩く)。
渋谷 高木さん、ボクシングの入場曲で何か面白いトリビアあります?
高木 西島洋介山の入場曲は、この前笑点を追い出さ……いや、卒業した2代目林家三平がラップで歌っているって有名な話? まだ林家いっ平時代のことだけど。
渋谷 全然有名じゃない(笑)。
高木 洋介山参上!って。面白いからついCD買っちゃったよ。
ここでたまたま隣のテーブルで打ち合わせをしていたプロボクシング元日本ジュニアフェザー級王者、元東洋太平洋同級王者で現在は東京・用賀で「Cardio Boxing GLOVES」を主宰する葛西裕一さんが参戦! 隣にいたことで挨拶は済ませていたが、こちらの話に関心を持っていただいたらしい。
打ち合わせ中だった葛西裕一さんが急きょ〝参戦〟してくれました
葛西 みなさん、何か楽しそうな話をしていますね。
二宮 すみません、打ち合わせの邪魔になってしまったんじゃないですか?
葛西 大丈夫です。入場曲ですか? ボクシングでもいろいろとありますよね。辰吉丈一郎ならブルース・リーの「死亡遊戯」メインテーマとか。
二宮 葛西さんはブルース・リーを見て格闘技に興味を持ち始めましたもんね。
渋谷 浜田剛史の「Holding Out for a Hero」とか。浜田さんにピッタリだった。
高木 映画「フットルース」の挿入歌だね。日本は葛城ユキと麻倉未稀勢が歌っていて、「スクール☆ウォーズ」のテーマ曲になったのが麻倉バージョン。
二宮 葛西さんは確かボン・ジョヴィなど洋楽が多かったような記憶が……。
葛西 曲名までは覚えてないですね。テレビ局の人が選んできたものに、それでいいですよって。ボクサーはリングで表現してナンボだと思っていましたから、僕はまったくこだわっていなかった。もちろん、こだわるボクサーもいたでしょうけど。
高木 プロレスは週に1回、全国中継があって入場曲も頭に残りやすいけど、ボクシングは何カ月に1回じゃないですか。総合格闘技もそうですけど、プロレスのようには入場曲が浸透しづらい。昔のレコード屋にはプロレステーマ曲っていうコーナーがあったくらいだから。かつ、プロレスは入場シーンだけでも結構お客さんが満足しているところあるからね。プロレスマニアも多いけど、自分のようにプロレス入場曲マニアも結構多い。
渋谷 葛西さんの打ち合わせを邪魔しちゃいけないから、そろそろまとめに入りましょうか?
葛西 気にしないでいいですよ。隣でこういう話、聞いている分には楽しいんで。
二宮 いや、ちょうどまとめに入るタイミング的には良いか、と。高木さん、締めてください!
高木 まあ、まとめになるか分からないけど、大仁田厚が率いた初期のFMWは若手の試合ではテーマ曲を使わせなかったんだよね。入場曲があると、これから試合が始まるってお客さんもそういうモードになる。でも入場曲なしでいきなり試合を始めなきゃいけないから、若いレスラーはお客さんの目を引っ張ってこなきゃいけない。その自家発電能力というのは凄く鍛えられるなと思った。
二宮 若手の前座試合を目当てにしていないお客さんは多いでしょうからね。
高木 でも昔はみんなそうだったわけでしょ。馬場さん猪木さんだって、そういうことを経験しているし、それは大仁田さんにも言えること。だからお客さんの目をひきつけるのがうまいところって絶対にあると思うよ。あと入場曲のある、なしで前座と中堅の違いとかも出てくるからね。そんな意味合いもあったのかな、と。
二宮 プロレスにおいて入場曲は凄く大事なんだけど、若手はむしろないほうがいいかもっていうことですね。
渋谷 ボクシングでもプロレスとかほかの格闘技興行の影響は受けていて、前座から入場曲を使うこともある。でも葛西さんが言うようにやっぱり一番はリング上だからっていう感覚が、ボクシングは主流かな。ただ、入場曲をパワーにするボクサーも増えてきているとは思う。
高木 プロレスのことでもう一つ言えるのは、自分の好みで選ぶよりも、イメージに合わせてプロデュースしてくれるほうが浸透するかなって感じるね。
二宮 いいまとめになりました。それでは本日はこのあたりで。
高木 ガッデーム!
二宮 蝶野さんで締めていただきありがとうございます。でもビンタはやめてくださいね。
入場曲を語ろう 終わり
※撮影時はマスクを外しています
2022年1月公開