■座談会出席者
フリーライター兼コラムニスト 高木圭介(元東スポ記者)
SPOAL編集者 渋谷 淳(元河北新報、元内外タイムス記者)
SPOAL編集長 二宮 寿朗(元スポニチ記者)
渋谷 アントニオ猪木の入場曲「炎のファイター」は、格闘技世界一決定戦で戦ったモハメド・アリからプレゼントされたという話を聞きました。
高木 でもアリの自伝映画「アリ/ザ・グレーテスト」では挿入歌でちょっと使われただけなんだよね。
渋谷 アリ、ボンバイエ(やっちまえ)!ですもんね。キンシャサでのジョージ・フォアマン戦でアリファンがそう叫んでいたとか。
高木 アリからプレゼントされた話は、当時の読売新聞でも記事にされたくらい。その「アリ・ボンバイエ」のところをカットして最初のころは入場していたんだけど、のちに「猪木ボンバイエ」につくり直した。今じゃ元々、アリの映画だって知らない人も多いんじゃない?
二宮 そうでしょうね。あの世紀の格闘技戦がなかったら、「炎のファイター」もなかったってことですか。凄い話だ。
渋谷 全日本プロレスはセンス抜群と言っていい日本テレビの担当者がいたわけですけど、猪木さんの新日本はどんなふうに決めていったんですかね?
高木 ある時期からウッドベルというテイチク系のレーベルがテーマ曲を担当するようになったんだよね。昭和55年に、まだ世に出ていないスタジオミュージシャンたちを集めて「新日本プロレス スーパーファイターのテーマ」というアルバムレコードが発売されたんだけど、そのなかに長州力の「パワー・ホール」もある。のちにテクノ界の大御所となる平沢進が「異母犯妙」名義で作曲したオリジナル曲。長州さんのこともプロレスのことも知らないから、まったくイメージとは違うテクノになっちまった。
二宮 確かに長州さんとテクノはあまり結びつかないです。
高木 藤波辰爾にかみついた「かませ犬発言」以前は、テレビマッチに出てもタッグだから格上のレスラーのテーマで入場するでしょ。だからそれまでは「パワー・ホール」があまり知られていないんだよ。それがブレイクによってバンバン、テレビでも流れるようになって「パワー・ホール」も一緒にブレイクする形になった。
渋谷 新日本も結局、選手じゃなく、団体やテレビ局の意向で入場曲が決められていたってことか。
二宮 僕は新日本プロレス担当時代、蝶野正洋の「クラッシュ」が一番、刺さった入場曲。でもあれは蝶野さんが気に入って決めたという話だったと記憶しているのですが。
高木 そうね。蝶野さんが欧州遠征時にデンマーク出身のハードロックバンド、ロイヤル・ハントと親交を深めて、その曲「マーシャル・アーツ」を提供してもらったというストーリーだったな。本当かどうかは知らんけど(笑)。そして「クラッシュ」という名前にして商標登録したんだよ。
二宮 前奏はヒップホップを入れて、「ワチャゴナドゥ」みたいな言葉が入るんですよね。またあれがいい。
高木 記者室で〝何て聞こえるか〟ってみんなで話したよな。報知新聞の女性記者は「東京、メキシコ DO」に聞こえますとムチャクチャなこと言っていたが(笑)。
二宮 前奏ブーム、ちょっとありましたよね。中西学がテーマ曲「ノープロブレム」で売り出していたら、彼にいつも茶々を入れていたケンドー・カシンが自分の入場曲の前奏で「プロブレム」だけ入れてきて。カシンさんは常に中西さんをいじってました。
高木圭介さんはレスリング経験者でもあり、レスラーからも一目置かれた存在でした
渋谷 闘魂三銃士で言うと、橋本真也の「爆勝宣言」も人気が高いですよね。
高木 お気づきの方は多いと思うんだけど、川口浩探検シリーズのテーマ曲(特別狙撃隊S.W.A.Tのサントラ曲が出典)がイメージにあったらしい。使い始めのころ、「これ川口浩のテーマじゃん」みたいな声、結構多かった。
二宮 知らなかった。愛媛では「川口浩探検シリーズ」流れてなかったです。
渋谷 新日本プロレスと同じテレビ朝日ということもあるのかな。
二宮 あと武藤敬司の「HOLD OUT」も忘れちゃいけません。ただ武藤さんは蝶野さん、橋本さんと違って結構、入場曲変えているんですよね。
高木 まあ会社の意向だと思う。1995年10月「新日本VS Uインター」の高田延彦戦をやるあたりのタイミングで「TRIUMPH」に変えた。最初聞いたときはどうかなと思ったけど、勝ったときの威風堂々とした感じは武藤さんに合っていたよね。
二宮 どんな曲にも合わせられるのは、さすがはナチュラルボーンマスター。
渋谷 最初から最後まで同じテーマ曲のレスラーって逆に少ないってこと?
高木 獣神サンダー・ライガーは1989年4月のデビューから2020年1月の引退まで「怒りの獣神」だった。ただちょっとの間だけ「奇跡の獣神」が使われたけど。
二宮 ライガーさんで思い出しましたよ。ちょっと脱線していいですか?
渋谷 新日本プロレス担当時代の話?
二宮 そう。新聞記事って選手の年齢を明記しなきゃいけないじゃないですか。1999年に高木さんがライガーさんの原稿を書くとき「あの人1989年に突如あらわれたから、今10歳だよな」と言って「獣神サンダー・ライガー(10)」と記事を会社に送ったような……。東スポのデスクはもちろんジョークだと受け止めるわけですけど、面白い人いるな~と思った記憶があります。あとマスクマンなのに、「大谷の顔面ウォッシュに青ざめた」とか「表情が一変」とか、やりたい放題でした(笑)。
高木 覚えなくてもいいことをよく覚えているね、二宮選手。
二宮 記者に「選手」をつける門馬忠雄さん(プロレスライターのレジェンド)のモノマネ!門馬さんは今なおNumberで健筆をふるわれていますよ。
高木 東スポの大先輩だからね。リスペクトしていますよ。
二宮編集者イチ押しの入場曲は蝶野正洋の「クラッシュ」
渋谷 2人がよく取材していて、これまで名前が挙がっていないレスラーの入場曲で言うと……。
二宮 大事な人の入場曲を忘れておりました。天龍源一郎の「サンダー・ストーム」。僕がプロレス担当のころ、天龍さんがちょうど新日本に参戦していて、高木さんと一緒に取材させてもらうことも多かったですよね。
高木 電話取材すると、活舌が悪くて聞き取れないんだよな。聞き直すと怒られる。「サンダー・ストーム」はみんな知っているけど、高中正義「虹伝説THE RAINBOW GOBLINS」というアルバムのなかに収録されているんだよね。2枚組でドラマチックな構成になっている凄くいいアルバム。かなりヒットしたんだよ。
渋谷 あの高中正義さんの曲って凄い。全日本時代からだから話に出ている日本テレビの担当者がイメージに合う曲を探してきたんだろうね。
二宮 高木さんはよく天龍さんを取材していたイメージありますけど、この「サンダー・ストーム」について感想とか聞いたことあるんですか?
高木 もちろん気に入っていて「いい曲だよな」って言ってたね。そうだ、一ついい話があるんだよ。
渋谷 トイレ休憩を挟んでから、次はじゃあその話からいきましょうか。
※撮影時はマスクを外しています
2022年1月公開