激動の2021年F1グランプリ
2021年のF1グランプリを一言でまとめてしまうと「激動」という言葉がお似合いだろう。不動のチャンピオンであるメルセデスのハミルトンをレッドブルのフェルスタッペンが見事に打ち負かし、初のチャンピオンとなったからだ。近年のF1はメルセデスの独壇場であった。2017年から4連覇をしていたハミルトンに待ったをかけるべくフェルスタッペンがHONDAエンジンという翼を持って挑んだ3年目。ついにその翼が開花することとなった。そんな2021年のF1を振り返っていこう。
2021年の初戦はバーレーンGP。ハミルトンが優勝し今年もハミルトン優勢の年かと思われた次のエミリア・ロマーニャGP(イタリア)にはフェルスタッペンが優勝し、チャンピオンシップはシーズン序盤から激しくなることが予想された。個人的な意見ではあるがシャシーの完成度はレッドブルに軍配があがりエンジンについてはメルセデスに軍配があがると予想されるような2021年シーズンの滑り出しである。
シーズン前半(11戦目)を追えてフェルスタッペンが5回の優勝。ハミルトンは4回の優勝とフェルスタッペンが有利な展開に。フェルスタッペンはフランスGP(7戦目)から4連勝と勢いをつけた前半戦に。しかし、メルセデスのハミルトンも負けてはいられない。ここ最近のメルセデスは後半も開発の手を緩めずマシンにアップデートを重ねてくるのだ。
事実、19戦目のサンパウロGPからのハミルトンは速さを見せ後半戦3連勝と、フェルスタッペンを猛追。21戦目を終えてポイントは両者ともに369.5ポイントと並ぶこととなる。チャンピオンを決める戦いは最終戦にお預けとなった。
最終戦でチャンピオンが決定したシーズンは過去に2年ごとにあったのだがここ最近は2016年を最後にシーズンの終盤で決定してしまっていた。それだけメルセデスが圧倒的な強さを見せつけハミルトンが4連覇という偉業を成し遂げてきた。
5年ぶりに最終戦までもつれたチャンピオンを決める戦いは最終周にドラマが起きることとなる。
最後の最後でドラマが起きたアブダビグランプリ
チャンピオンを決める戦いは最後のアブダビグランプリまでもつれることとなる。予選ポールポジションを獲得したのはフェルスタッペン。チームメイトのセルジオ・ペレスの手助けもあり、見事ポールポジションに。
チームメイトが手助け?と思われる方に、F1の予選戦略というものを解説したい。もちろんドライバーは車に乗っているので他のドライバーが押したり引いたりとできないのであるが、一つだけ「助けられること」がある。それはスリップストリームを活用させること。スリップストリームとは前を走る車の後ろはウィングで空気が上昇しており、後続の車の空気が少なくなりそれだけ空気抵抗が少なくなる。つまり、ピッタリを後ろにくっついていれば空気抵抗が少なくなる分、スピードが早くなるのだ。もちろん曲がりくねったコーナーでは空気抵抗の恩恵は得られない。長いストレートほどスリップストリームの影響を得ることができる。アブダビのコースは2つの長いストレートがある。ペレスはQ3の1回目を捨てて、フェルスタッペンの手助けをしたのだ。つまりペレスの後ろにぴったりとフェルスタッペンがくっついてストレートスピードを稼ぐ戦略を取ったのである。これはメルセデスエンジンが強力であり、長いストレートを持つアブダビGPはレッドブルに不利な状況であったからである。
見事、チームメイトの手助けもありポールポジションを獲得したフェルスタッペン。しかし最初のドラマは本戦のスタートで起きることとなる。
ポールポジションであるフェルスタッペン有利かと思われた本戦のスタートが近づく。一つでもミスを犯せば後ろのハミルトンに抜かされてしまいチャンピオンは獲得できない。そんな心境はどのようなものなのであろう。24歳の若いドライバーにF1の神様はさらなる試練をスタートに与えた。その試練とはポールポジションで1位スタートであったフェルスタッペンはスタートでミスを犯し、ハミルトンに抜かれてしまうのである。
F1の神様も意地悪である。
しかし、意地を見せるフェルスタッペンも1周目のストレートでハミルトンに仕掛ける。そして両車接触。鈴鹿で見せたセナvsプロストのように接触でチャンピオンが決定してしまうのか?と思われたが、ハミルトンが冷静に接触をリカバー。外に逃げる形でオーバーランをしてしまったのだがF1の運営からもお咎め無し。フェルスタッペンも焦りからなのか強引に見えたシーンであった。
レース後半になんとセーフティーカーが入る。セーフティーカーと同時にタイヤを交換するフェルスタッペンに対し、ハミルトンはステイを選択。セーフティーカー導入中であるので周回遅れの車は抜かすことができない。1位ハミルトン、2位フェルスタッペンの間に周回遅れの車は数台残っている状況。
レッドブルのチーム代表であるクリスチャン・ホーナーはF1の運営に周回遅れの車を先にいかせるようにお願いをしていた。その結果、ハミルトンとフェルスタッペンの間にいた周回遅れのマシンは周回数を戻す為に、セーフティーカー前にでることとなる。これでハミルトンとフェルスタッペンのタイム差は無くなった状況である。セーフティーカーのランプが消えたのは最終の1周前。つまり、セーフティーカーが抜けてレース再開となるのはラスト1周。フェルスタッペンはこの1周に賭けた。
ついにレース再開。ハミルトンは1コーナーを順調に攻略しフェルスタッペンから防御する。2コーナー、3コーナーと完璧なライン取り。フェルスタッペンを寄せ付けない素晴らしい走りを見せていた。しかし1つ目のロングストレート。ハミルトンの後ろにぴったりとくっついてたフェルスタッペンはハミルトンのスリップストリームを得ることとなる。スリップストリームを得たフェルスタッペンは1つ目のロングストレートの終わりで、ついにハミルトンを抜かすことに成功したのだ。
1つ目のロングストレートを抜けると、2つ目のロングストレートが現れる。今度はハミルトンがフェルスタッペンのスリップストリームを活用して抜かしにくる。しかしスリップストリームを使わせまいとフェルスタッペンは大きく蛇行をするのであった。本来であれば蛇行は危険であるためF1の規則上、禁止されている行為であるが近年のF1はエンターテイメント性が強くなり裁定に緩くなることがしばしば。単純にレースが面白ければそれはそれで視聴者ウケがいい。
蛇行を繰り返した結果、フェルスタッペンはハミルトンを寄せ付けずそのままチェッカーフラッグ。ハミルトンの5連覇という偉業を阻止したのであった。
ついにレッドブルHONDAとして日の丸エンジンがチャンピオンシリーズを勝ち取る瞬間を見ることができたのは本当に感激である。HONDAは今年でF1最後の年。有終の美を飾ることができたのだ。F1に復帰した当初はマクラーレンからイジメを受け、下位カテゴリーのエンジンだとドライバーからは揶揄され、つらい時期を過ごしてきたがその後はマクラーレンと提携を解消し、レッドブルと二人三脚でやっと3年目で華が開いた瞬間であった。
HONDAとしては最後の年になるが、HONDAエンジンの知的財産を譲り受ける形でレッドブルはエンジンを自社開発していくこととなる。今年の2022年エンジンはもともとHONDAが開発していたものである。エンジニアも何人かは転籍やら出向やらとレッドブルに協力をしていくとも噂をされている。いずれにせよ、2022年も楽しみなシーズンであることに間違いない。
最後に。
モータースポーツを愛する人を代表して1つだけ意見がある。
今回のF1運営はフェルスタッペンに甘い裁定を下しているように思える。それは蛇行の件と、周回遅れの件であろう。周回遅れのマシンをハミルトンとフェルスタッペンの間のマシンのみ順位を戻すという指示を運営が出してしまった。本来であればセーフティーカーが入った段階で安全が確認できれば周回を戻すという規則がある。それは周回遅れのマシン全車に適用される。しかし今回適用されたのはハミルトンとフェルスタッペンの間にいた数台のみ。
エンターテイメント性を全面に押し出した結果の裁定だと思われるが、これではメルセデス側も納得がいかないだろう。規則から逸脱をしているのだ。全車を戻すように運営が指示をすればそのままセーフティーカー先導のままチェッカーフラッグとなっていた局面である。
個人的には最終周までもつれ込んだ2021年シーズンは近年稀に見る面白さであったが、ルールが流動的になってしまうとドライバーとチームがボイコットをしかねない。つまり、メルセデスの撤退やドライバーが他のカテゴリーに移籍してしまう恐れがあるのだ。そうなるとF1は廃れていってしまうのでルールは流動的にせず統一をしたほうが良いであろう。
そんな運営に呆れたメルセデスはなんと、後日開かれたセレモニーなどを拒否。なんとも後味が悪くなってしまった2021年シーズンであったが、最終レースの最終周まで興奮して見ることができたのは事実である。
規則を遵守したままエンターテイメント性を強くするルール改定を個人的には願うこととする。
有終の美を飾ることができたHONDA。おめでとう。
2022年1月公開