2021年10月24日、東京・味の素フィールド西が丘。
関東大学リーグ戦兼第72回早慶サッカー定期戦はチケット完売となり、スタンドには3000人を超える観客が詰め掛けた。
部員たちの努力が、実った。
今大会もコロナ禍の難しい状況であったが、企画、広報、集客など運営業務を早稲田が幹事校に立候補し、リードする覚悟を示した。
それぞれが情報を発信して注目を呼び込んだ成果。コロナ禍でイベントの実施に規制が掛かりながらも、応援部もやって来た。声は出せないが、音は出せる。感染対策もしっかりしたうえで大会を成功させた。
部のなかには、コロナ禍における集客への様々な挑戦に消極的な意見もあったが、「模索しながら、進める」ということで、4年生中心に動いていった。部のWebサイトで「サッカーカーリング対決」を実施するなど様々な発信によって、関心を高めようとした。部員に温度差はありつつも、何かしらでもいいから〝早慶クラシコ〟に絡むことが大切だった。
試合も白熱した。
前半24分に先制するもその4分後に追いつかれ、同35分に勝ち越すも前半終盤に再び同点にされた。後半に入ると何度もチャンスを迎えたが、ゴールが遠い。逆にアディショナルタイムで勝ち越されてしまい、〝早慶クラシコ〟では10年ぶりに敗れた。ピッチに崩れ落ち、涙する選手もいた。
ライバルに負けてのリーグ3連敗。優勝の可能性もこれでゼロとなった。逆に下位との差が縮まったことで残留争いを気にしなければならなくなった。
「多くのことを早稲田が請け負ったのに、試合では負けてしまったので僕としては受け入れがたいところは正直ありました。でもグッドルーザーでしたし、早慶クラシコを成功させたことについても達成感はあったと思います」
みんながチームにベクトルを向けたからこそ、成功につながった。この経験によって、チームがまとまりを見せていくのだから面白い。
優勝の可能性は消えたものの、5位以内を確定させてインカレ出場権を得るという目標に再設定された。
慶應大戦から中2日の拓殖大戦には2-0で勝利。アメフトのグラウンドで決起集会を開いて、気合いの入った状態で試合に臨んだ効果もあった。これ以降、2連敗したものの、インカレ出場に可能性を最終戦まで残した。
4年生だけで臨む非公式戦の「4年早慶戦」も、チームの一体感に一役買った。ゴールが生まれるたびに、応援に回っていた下級生と4年生が一緒になって喜んだ。
外池もこの光景を見て、熱くなる自分がいた。
「ゴールが決まるとみんなが走って抱きつきに行って。走るって衝動じゃないですか。本当はみんなこういうことをもっといっぱいやりたかったんじゃないかと思いました。コロナ禍でいろんなことを辛抱してきたけど、やっぱりみんなで喜びあえることが何よりうれしいんだなと。すっごいエネルギーを感じましたよ」
最終戦となる1試合を残してワセダは暫定9位。
インカレ出場を懸けた最後の試合は11月3日、自分たちより上位にいる暫定4位の法政大が相手。「攻守の切り替え」にフォーカスし、3年生の主体的なアクションもあって考えられるなかでは最高の状態をつくることができた。部全体としても最終戦に向けて、盛り上がりをつくっていた。
前半終了間際にPKを与えながらもポストに当たって危機を乗り切った。流れは自分たちにあると外池は思った。
「この流れをつかまなかったらいつつかむんだという話。みんなそういう気持ちだったと思います。後半に入って、チャンスは絶対に来るだろうと考えていました」
大きな仕事を果たしたのが途中出場のスーパールーキー、安斎颯馬。後半35分、左からのクロスを左足で合わせて均衡を破った。そしてその1点を、開幕3連勝を飾ったシーズンスタートのように粘り強く守り切って〝ウノゼロ〟で締めた。
順位は9位から5位までのぼり詰めて、インカレ出場権を獲得。外池もピッチ際で大きく手を叩いて喜びを表現した。
紆余曲折の末、まさに全員の力で目標にたどり着いた。
最高のスタートを切った2021年シーズン。しかしそのことによって各々のベクトルがバラバラになり、結果が伴わなくなった。
新型コロナウイルスの陽性者が出たことで活動休止もあり、一体感を醸成する難しさに直面させられた。ただ、学生たちの内面に入っていったことで、自分のマネジメントとも向き合うことができた。指導者としていろいろと考えさせられた1年にもなった。
外池は言う。
「いろんなドラマがあったし、いろんなリアルがありました。ある部員がnoteのリアルボイスで書いていましたが〝成長し続けた先に、勝ちや価値、そして評価がある〟と。そうだな、と思うんです。逆に言えば、成長以上に大事なことなどない。負けることも人生にはあるし、それを受け止めて次につなげられるかどうか。その繰り返しですからね。サッカーという勝負事を通して、本質が見えてくる。確かに2021年は苦しんだシーズンではあったけど、同様に濃い1年でもありました。だからみんなも得られるものが多かったんじゃないかと思います」
まさにリアルボイス。
部員のみならず、指導者の自分にとっても成長を実感できた1年になった。もっと濃い、2022年へ—―。早稲田ア式蹴球部は、外池大亮は、再び前に進んでいく。
終わり
2021年12月公開